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犯罪学の祖、ロンブローソは、受刑者たちにある共通した身体の特徴を見つけ、この特徴を多く持つ犯罪者は、犯罪者になるような遺伝子を持って生まれた者であるとして、生来性犯罪者説を唱えましたが、精神面でも犯罪者には特徴があると最初に唱えたのはアメリカの心理学者ゴダードでした。 彼は、1914年に、当時、フランスの心理学者ビネーが開発したばかりの知能検査をアメリカ人向きに改良したもの使い、受刑者を対象に知能検査を実施しました。 その結果、知的障害者の出現率は、最も少ない施設で28%、最も多いところでは89%もあり、その中央値から受刑者の70%は知的障害者であると判定しました。 ゴダードはこの結果をもとに、知的障害者は潜在的な犯罪者であると結論し、知的障害者を減らすには、施設に収容し、子どもをもつことを許すべきではないと大変な勧告をしました。 その頃、アメリカの心理学者で少年鑑別所の所長をしていたヒーリーもまた、非行のある少年と非行のない少年のそれぞれ同数の少年たちに知能検査を実施しました。 その結果、知能指数71以下の少年は、両群共に3%弱、普通域にある少年はそれぞれ52%と57%、優秀知能域では13%と17%で、両方の群の間に統計上、有意差はありませんでした。 彼は、非行少年を総合的に調査した結果、非行少年たちに特徴的なことは、人間関係において欲求不満が多いことが非行に関係しており、知能の問題よりもパーソナリティの面で両群に差が見られたと1936年に発表しました。 ゴダードの検査結果の誤りは、ひょんなことから明らかになりました。 それは、アメリカ陸軍が第一次世界大戦で徴兵された兵士の集団にゴダードの知能検査を使用したところ、通常の市民として生活をしてきた白人のうちの37%が、黒人では89%が知的障害者という結果が出たからです。 市民の多くが、この検査結果は事実とは違うのではないかと疑いを持ちました。 誤りの原因は、ゴダードが母集団の半数以上を知的障害と仮定して知能検査を作り、実施したことにありました。 誤りに気付いた彼が改めて検査をした結果、受刑者と兵士たちとの間に大きな知能の差がないことが分かり、知的障害が犯罪の原因になるという説も急速に消えました。 知能の高い犯罪者は知能犯を、知能の低い犯罪者はあまり知能を使わない犯罪をする、という単純な事実になぜ気付かなかったのか不思議なくらいです。 わが国の受刑者の知能統計には、不明な点がありますが、入所時の知能検査の段階では、平均よりも1段階低い準普通域の者が最も多いというのが刑務所の心理職員たちの感じです。 しかし、これは彼らが生れつき知能が低いというよりも、知能の発達を促す環境に育ってこなかったことに起因していると考えます。 このことは、刑務所にきて初めて読書や手紙を書く習慣ができ、辞書を引いて文字を覚え、通信教育を受ける気持ちになるなど急に知識欲が湧き、いろいろな職業資格をとる者や優れた文才を現し、所内誌に投稿する者など、入所前の遅れを取り戻したかのような受刑者が結構多いことからも分かります。 重度の知的障害のある犯罪者は、検察段階や裁判段階で、多くは心神の喪失者または耗弱者として不起訴処分または刑が減軽され、服役するのは稀ですが、中等度の者ですと医療刑務所に収容され、軽度の者では一般刑務所で養護的な処遇を受けています。 では、知的障害と犯罪とは関係があるのでしょうか。 知的障害受刑者の中には、知的障害以外の精神障害や身体障害を併せ持っている者もいますので、一概には言えませんが、知的障害が犯行と結びついているケースは確かにあります。 医療刑務所を出所した中等度の知的障害を持つ20歳代のある男について検察庁から問い合わせを受けたことがあります。 容疑は列車の往来危険罪でした。 彼の供述によると、家族から家の田んぼにある杭をもって来るように言いつけられ、引き抜いた何本もの杭を乾かすために田の脇を走る鉄道線路の上に並べて休んでいたところ、列車が来て止まり、運転手から怒鳴られた後、列車に乗せられ、警察に通報された事件でした。 小学生のような童顔をした色白の小男が無邪気な顔をして言うには、運転手が電車に好意で乗せてくれたものと思ったと供述していました。 検察官は、この男が医療刑務所出所者だと分かり、在所中の行動について問い合わせてきたのです。 事件が大事にならなかったことも幸いして、心神耗弱が認められ起訴猶予になりました。 しかし、このような知的障害が犯罪の直接的な原因と見られる受刑者はあまり多くはおりません。(前回、挙げました平成17年の矯正統計年報の知的障害者新入所数287人というのは、この例のような中等度の知的障害者数ではないかと思います。) 知的障害受刑者の多くは軽度の知的発達障害を持つ者で、知的障害が影響していても、直接、犯罪と結びつかないケースをしばしば見受けます。 その多くは、知的障害がありながら、軽度のため職場では気付かれず、犯罪を起こしたような受刑者たちです。 もし雇い主が本人の知的障害を承知の上で雇い、それなりの配慮が払われていたならば、犯罪にまで発展することはなかったと思われるケースです。 しかし、この程度の知的障害受刑者の例で多いのは、家族から離れて、雇い主も従業員たちも本人に障害のあることに気付かない職場で、本人の能力以上の仕事が与えられ、作業成績の悪さを叱責されて解雇されたり、賃金の少ない雑役や清掃作業などの単純作業現場を転々としながら、仕事仲間と歓楽的な遊びを覚えて散財し、生活に困り、犯罪に走る者たちです。 また、この種の受刑者たちとの面接から分かることは、ほとんどの者が、子どもの頃から親兄弟から馬鹿にされ、叱られ、遊び仲間からは使い走りに使われ、いじめられ、低賃金の身体労働に就き、職場仲間から愚弄され、騙されて金を巻き上げられ、仕事ができないと暴行を受けるなどの被害をたびたび受けてきた者が多いことです。 もし、彼らに保護的な生活環境が与えられるならば、たとえ自立は難しくても、知的障害が犯罪の要因とはならずにすむことでしょう。 ■
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by dankkochiku
| 2006-10-31 11:18
| 刑務所を考える
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大量の現象の動きを知るのには、統計がもっとも客観的で信用できる情報を与えてくれると考えられがちですが、その裏に大きな落とし穴が潜んでいることがあります。 2006年6月5日の朝日新聞は、「知的障害の受刑者 支援へ」 の見出しで、以下の記事が掲載されました。 「知的障害がある受刑者らの自立支援策と再犯防止をさぐる厚生労働省の研究班が6日、発足する。 毎年、知的障害があるとみられる人が新たに7千人ほど刑務所に入所しているが、支援体制が未整備で、出所後の生活に行き詰まるケースが多いという。 そこで刑務所の内外の連携を深め、…」(以下省略) 「法務省の矯正統計年報によると、04年に刑務所に入った新受刑者は約3万2千人。 うち入所時の知能検査で知的障害の目安となる知能指数69以下の人は7,172人、22%を占めた。 知的障害がある可能性が高く、特別な支援がいる人たちだ。」(以下省略) この記事を読まれた方は、出所した知的障害者の更生に向けて厚労省と法務省とが支援協力体制を作るとは、なかなかいい試みではないか、と思われたでしょう。 しかし、「毎年、知的障害者があるとみられる人が新たに7千人ほど刑務所に入所している」 の段で、「はてな」 と思ったのは私だけだったでしょうか。 毎年、「知的障害があるとみられる人」 が、本当に新受刑者のうちの22%もいたとするならば、刑務所はとうに知的障害受刑者で一杯になっているはずで、事実とは違うのではないかと思ったのです。 わが国では、終戦前までは、受刑者中の精神障害者の統計調査は行われていませんでしたのでその実態は分かりませんが、戦後では、昭和43年版の犯罪白書に初めてその実態の統計が示されました。 その時の法務省の調査によりますと、昭和42年末現在の時点で、全国約4万8千人の受刑者のうち、知的障害者の割合は38%と出ています。 ところが、その後、この比率は下がり続け、昭和50年には5.4%、60年には2.9%になり、平成9年以降は、毎年、1%未満の状態が続いており、17年では、新受刑者中の知的障害者の割合は0.9%(287人)と犯罪白書にあります。 この数値はいずれも矯正統計年報からのものです。 つまり、矯正統計年報には、新受刑者の精神診断の統計と知能指数の統計とが並立して掲載されており、犯罪白書は精神診断の統計を用い、新聞報道は、知能指数の統計から知的障害者の人数と比率を推計して掲載したのです。 では、精神診断の統計と知能指数の統計とで、知的障害者数についてこうも大きな開きがなぜ出たのでしょうか、その原因は何でしょうか。 私は、その一番の原因は、刑務所に配置される心理職員の不足にあると思います。 少年鑑別所や少年院といった少年矯正施設には、心理専門職員や心理学など行動科学を専攻した教官が配置されています。 そのような施設では、まず集団式知能検査をスクリーニング検査として、全員に実施し、その結果を見て、知的障害の疑われる少年たちに改めて個別検査を実施しています。 しかし、刑務所には、調査センターや分類審議室のある大規模施設以外では、心理専門職員が配置されていないのが普通です。 中小規模の施設では、調査センターを経て入所した一部の受刑者(26歳未満の受刑歴のない男子受刑者)以外の受刑者の処遇調査は、通常、刑務官が当たり、知能検査は、集団検査だけで終えているのが実情です。 そこで、それらの施設では、集団式知能検査で得た知能指数がそのまま全国矯正統計へ計上され、他方、精神状況については、素人目にも異常と分かるほどでない限り、専門家の診断を仰ぐことなく、「精神障害なし」 として、これもそのまま全国矯正統計に計上されます。 その結果、知能指数の全国施設統計からは、低知能指数者が多く、精神診断の統計からは、「精神障害なし」 が、つまり 「知的障害者」 の数が少なくなる傾向があるのです。 集団式知能検査は、一般の学校でも実施しているから、その結果だけでもそれほどの問題は起こらないのではないかと思われるかも知れませんが、そこが、受刑者相手の知能検査特有の問題があるのです。 集団検査室に十数人もの受刑者を連行してきて、いざテストを開始しようとすると、例えば、高齢受刑者の中からは、老眼鏡を持ってこなかったので見えないとか、手が震えて答が書けないとか、テスト開始後になってやり方を質問する人などが時どきおります。 また、何回も服役歴のある受刑者の中には、テスト時間を休憩時間と心得ていい加減な解答で誤魔化す人も少なくありません。 このような特殊事情から、問題ごとに解答時間が制限される集団式知能検査では知的障害者でなくても、それに近い点数しか取れない人数が多く出る傾向があるのです。 こうした問題は、各施設に心理専門職員が配置されるならば、かなり解決されることでしょう。 それにしても、知的障害受刑者、7千人は多過ぎですし、287人は少な過ぎの感じがします。 しかし、「その他の精神障害」(知的障害、精神病質、神経症以外の障害)の受刑者全体に占める割合は、昭和42年と平成17年とでは、それぞれ6.8%と4.0%と、統計上の変動が知的障害者の場合に比べて、わずかであることは、精神疾患が疑われる場合には、精神医の診断を仰ぎ、医療措置がとられるからだろうと推測されます。 いずれにせよ、受刑者に矯正処遇が義務付けられた現在、それに対応できる行動科学の専門職員の増員が求められます。 ■
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by dankkochiku
| 2006-10-25 23:51
| 刑務所を考える
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監獄法から 「受刑者処遇法」 へ法律が変わり、受刑者は矯正処遇を受けることが義務付けられ、性犯罪者は改善指導として 「性犯罪再犯防止指導」 を受けることになりました。 これまで性犯罪者には刑事責任が問われるだけで、特に改善・更生を目的とした医療や指導は全く行われてきませんでしたから、刑務所でこれを始めることは画期的な試みです。 そこで、まず、どのような改善指導が行われるのかを、平成18年3月に発表された 「性犯罪者処遇プログラム研究会報告書」 と 「改善指導標準プログラム」(矯正局長通達)をもとに指導のあらましを紹介します。 (保護観察中の性犯罪者への指導は省略します。) 指導の対象になる受刑者は、罪名にかかわらず、性的な動機をもって事件を起こした者で、「自己の性的好奇心を満たす目的をもって人の生命もしくは身体を害する犯罪」 につながる問題をもつ受刑者です。 「性的な動機」 の範囲をきめるのは難しいですが、通達では、「性犯罪の要因となる認知の偏り、自己統制力の不足などのある者」 を指導の対象としています。 強姦犯や強制猥褻犯、性欲を満たすための放火や殺人犯はもちろん、他人の家や個室トイレに侵入してのノゾキ犯や盗み撮りを繰り返した住居侵入犯、下着、靴などの常習窃盗犯なども、当然、指導の対象となるでしょう。 次は対象者選びです。 各人の性犯罪の再犯可能性を犯罪の内容、常習性の有無、性犯罪につながる問題性の有無などから調べます。 さらに、各人の能力や性格からこの処遇プログラムに馴染めるか、処遇効果が期待できるかなど指導への適合性から対象者を選びます。 指導が必要でありながら、指導を拒否する受刑者には参加を根気よく説得するしかないでしょう。 日本語を解せない外国人、犯行を否認している者、知的障害者、医療を優先する必要のある者などは除かれます。 その上で各人のもつ問題の程度に応じて、指導密度を高・中・低度の3組に分け、それぞれ一定のカリキュラムに従って、3ヶ月から8ヶ月間、小集団ごとで指導を受け、指導後も釈放されるまで、効果を強化する働きかけが行われます。 指導のカリキュラムは、指導へのオリエンテーション、参加への動機付けから始めます。 犯行の要因を考えさせ、その要因を回避するために自己統制計画を作らせ、実行させます。 本人特有の歪んだものの見方、感じ方、考え方(認知)が犯行につながったことを自覚させ、正常な対人関係とは何かを理解させ、同時に社会生活への適応を目的とした社会的スキル訓練(SST)や、他者との共感性を高めることを学ばせるなどの指導科目が用意されています。 指導上の技法として、今のところカウンセリング、ロールプレイ、認知行動療法などのいくつかの技法をひとまとめにしたパック療法が予定されており、指導者には、刑務所の心理職員のほか民間協力者として臨床心理士など専門家が当たります。 一口に性犯罪者と言っても、どのような状況におかれたときに、性欲が異常に刺激され犯行に及ぶかは、それぞれ異なります。 下校途中の女の子を見て尾行する小児性愛者が、夜道をひとり歩きの女性に出会っても、性的欲望を感じるとは限りません。 人が何から性的刺激を受けるかは、人それぞれ違うからです。 そこで、まず、どのような状況で性欲が異常に刺激され、暴力的行動が誘発されるかを確認しなくては、的確な指導に入れません。 つまり、個々の性犯罪者の性嗜好異常(paraphilias)を確認し、その是正に向けて指導を行うことが必要です。 特に、認知行動療法を実施する際には、異常な性欲を誘発する対象が何かを特定するために生理・心理的な検査が必要になります。 米国、英国、カナダの性犯罪者への処遇プログラムには、この検査方法として、皮膚電位反応検査機(skin galvanometer)や性器容積変動記録器(penile plethysmogragh PPG)が使われています。 これは、ポルノ映画のようにスクリーンに映し出されたさまざまなセックス場面を被験者に見せて、どの場面に被験者が反応し、性的興奮が起こり、陰茎の容積の変動を計測する検査方法です。 強姦常習者は、強姦場面を見て反応するでしょうが、正常者ならば嫌悪感しか湧かず、性的反応は現れないでしょう。 わが国でも、指導対象者を問題別にグループ分けする際や、定期的に行う指導効果、予後の測定、評価に用いることが検討されています。 ところで、わが国が認知行動療法を導入することが決めた背景の一つには、カナダでの処遇成果があります。 カナダ連邦検察局の調査によりますと、1年以上認知行動療法に参加した性犯罪受刑者は、療法を受けなかった受刑者に比べて、再犯率が40%以上低かったという報告や再犯率が17.4%から9.9%に下がったという報告があります。 しかし、刑務所内での認知行動療法などの心理療法だけで改善困難な性犯罪者の再犯が防げるとは思えません。 むしろ釈放後も指導を続けることが改善の成否を分ける鍵になるのではないでしょうか。 強い改善意欲をもち、家族など親しい周囲の人たちからの支持が得られるならば、必ず社会復帰に成功するでしょう。 なお、東京医科歯科大学では、性犯罪者専門外来を開設し、刑事施設ではできない薬物療法も用いて出所者や保護観察期間修了者への受け皿として希望者の治療を継続しようとする動きがあり、その成果が期待されます。 ■
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by dankkochiku
| 2006-10-18 23:51
| 刑務所を考える
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石神井公園は、野良ネコ天国。 三宝寺池周辺でも50匹くらい住み着いています。
これがまた、公園に訪れるネコ好きの大人や子どもたちの心を癒してくれるのです。 どのネコも、避妊手術済みで、ここで生まれたネコはいないとか。 盛り時の血みどろの決闘もなく、食事に困らず、どのネコも家ネコに劣らずつやのある毛並み。冬はあちこちに小屋までできます。 これは皆、ボランティアさん方々のお陰ですが、このネコ天国に、先月、なんと、一家族13匹が親子兄弟姉妹ごと置き去りにされていました。 公園管理事務所から、早速、こんな立て看が立てられました。 ![]() 幸い、「ネコ 里親] のホームページで、現在5匹までになりましたが、お父さんネコ、お母さんネコと子ネコ3匹には里親がまだ見つかっていません。 どなたか里親になっていただけませんか。 「お母さん、いつまでここにいるの」 と小娘ネコがぐずっていました。 ![]() ■
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by dankkochiku
| 2006-10-17 21:22
| ワンニャン物語
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いま、刑務所当局が計画している性犯罪受刑者への再犯防止指導のことに入る前に、その対象になりそうな性犯罪受刑者の話から始めましょう。 強姦と強制猥褻で毎年入所する受刑者たちは、最近5年間では全入所者数の2%台です。 そのうちの75%以上の受刑者は初入者です。 窃盗や傷害犯では初入者の割合がそれぞれ40%台の後半ですから、それに比べると性犯罪者には累入者が少ないと言えます。 しかし、検挙されるまでの一人当たりの犯行件数の多さ、人格面での社会性発達の未成熟さなどが分かってきますと、この統計上の数値が性犯罪者の実態を表しているとは、とても信用できません。 むしろ未届けの性犯罪がいかに多いかを暗示させるものと考えてしまいます。 強姦や強制猥褻の受刑者への受刑者仲間たちからの評判は最低で、口汚く 「豆どろぼう」 と軽蔑され、幼児への猥褻犯にいたっては、「とても許せない奴」 などと言う正義漢も現れ、目くそ鼻くそを笑うの譬えを思い出し、可笑しくなることがあります。 そのためか、性犯罪受刑者は、大抵、無口でひっそりと作業に専念し、目立たない存在です。 ほとんどは、問題を起こすことなく刑期を終えて出て行くので、いつ出所したのか気付かないほどです。 そんな様子から、事情を知らない方は、たまたま、魔がさしたのではないかと言われることさえあります。 彼等は、処遇調査に当たる職員にも、犯罪の内容に及びますと、「話したくない」 「事件を思い出したくない」 などと固辞して取り付く島がないことが多く、問題の中核に触れられず、改善の手がかりが得られないまま、むしろ、本人の古傷に触れないようにそっとしておいたのが実状でした。 ところで、他人の身体に危害を加える性犯罪として、わが国の刑法は、強姦と強制猥褻の二つをあげています。 そこで、便宜上、刑法上の区分に従って、年齢が13歳未満(小児という)の被害者と13歳以上の被害者に分け、それぞれの被害者を対象とした性犯罪受刑者の特徴を見ることにします。 まず、小児への強制猥褻や強姦事件の受刑者には、知的障害者が比較的多くおります。 犯行時の状況や心理を自分でも十分に説明できず、ただ 「可愛かったから」 「遊んでいたかっただけ」 としか犯行の動機を言い表せない者が結構おります。 心理検査結果からは、精神的な活動が不活発で劣等感があり、概して内向的、孤独で、対等に付き合える親密な仲間がなく、精神的にも社会的にも萎縮しており、高まる性衝動を他のことに転換できない人、あるいは、自制心のとぼしい未熟な人柄を感じさせます。 このような人柄のため、同じ年頃の男女たちと新しい人の輪を広げることに臆病で、未婚者がほとんどです。 幼い子どもが被害者に選ばれるのは、子どもが無防備で、自分の言いなりになりやすく、無抵抗だからで、そのような状態にある子どもならば誰でも構わないのです。 中高年層の小児愛性犯罪者の中には、飲酒依存者や脳神経の障害から性衝動を抑制できない露出症者、窃視者(のぞき)もおります。 子どもを性の対象とする小児愛者(Pedophilia)と一口に言っても、その行動はいろいろです。 マンションの階段を上って行く女児や公園のブランコに夢中な女の子のパンツを見て、むらむらと衝動が沸き起こって急に追いかけた、話しかけたくなった、というのは、よく彼らが話す動機です。 日ごろから面識のある子どもとでも、全く面識のない子どもとでも、ただ一緒にいるときだけが楽しく、子どもの好む物を買い与え、住所を聞き出しては近所に出かけ、話しかけ、頭を撫で、体を愛撫する延長として、自然に子どもの性器に触れ、自分の性器に触れさせるだけで満足する者はよくいる小児愛者の行動です。 しかし、中には、楽しく遊んでいた子どもが言うことを聞かなくなり、別れるのを止めても去ろうとしたり、親に言いつけるなどの言葉を耳にすると、途端に困惑し、これまで仲良くしてあげたのに、と今度はサディスティックな怒りがこみ上げ、別の場所に連れ去り、凶行に及び、強迫的に遺体に傷つけずにはおれないような危険な小児愛者もおります。 平成16年11月、奈良市で下校途中の小学1年女子児童を見て、異常に性欲を亢進させ、わいせつ目的で誘拐、殺害して性欲の解消を図った犯人の行為は快楽殺人(Lustmord)の典型です。 13歳以上の女性に対する性犯罪に多いのは、混んだ乗り物の中での常習的痴漢行為(窃触症 Frotteurism)です。 これは迷惑行為とか 「性的いたずら」 くらいにしか見なされないためか、罰金ほどの処罰だけで釈放されるのが普通です。 そのため加害者の病理的な問題が見逃され、強姦事件に発展した受刑者もおります。 この種の強姦犯は、(暴力団関係者以外は、)普通に職業につき、近隣とも当たり障りのない付き合いをしながら、人知れず単独で強姦を繰り返すタイプです。 小児愛受刑者と同様、刑務所内では目立たない存在で、こんな男でよく強姦ができたものだ、と言われるような体力的にも性格的にも弱々しい感じの者もおります。 しかし、集団で一人の女性を襲う男たちよりも、ひとりだけで強姦を繰り返す者の方が、人格障害者など病理的な問題を持つ者が多く、再犯の危険性が高いのです。 単独での強姦犯の多くは、男性としての自信がなく、女性とのぎこちない交際に劣等感、不適応感をもち、その反動として、女性を憎悪し支配しようと自分よりも弱そうな相手を見つけては、とっさに、衝動を発散させるケースがしばしばあります。 その意味で、犯人自身、気付いていなくても、強姦はたんに性欲を満たすための行動というよりも、暴力犯に近いと言えます。 女性を支配し、自分の力(ペニスの威力)を確認する快感に取り付かれていたというのが、本当の動機と解されるケースも少なくありません。 彼らが刑務所で問題を現さないのは、彼らの劣等感を刺激する異性がいないからに過ぎないのです。 強姦犯に共通することは、女性を人格をもった全体としての人間ではなく、女性の姿を見て、そこから性器のイメージしか頭に浮ばず、その思いに圧倒されて直接行動に出ることです。 被害者が脅えて何もできないのを見て、性交を許したものと自分に都合よく解釈し、抵抗されると自分の強さを更に示さなくてはならないと、強迫的に性的興奮を高めて攻撃の手を緩めません。 この点では、異常な人格障害のある単独犯型の強姦累犯者たちも、普段は正常な社会人でありながら、飲酒の影響と集団心理からお祭り気分で犯す集団型の強姦犯たちもあまり違いがなく、どちらも女性の気持ちを理解できないのです。 なお、今回は触れませんでしたが、性的な動機に発しながら、一見、性犯罪とは見なされない犯罪として、フェティシストによる下着窃盗、金銭的利益目的や怨恨以外の動機からの放火(Pyromania)があります。 このような暴力的な性犯罪者たちに対する精神医療や教育・訓練、アフターケアは、わが国ではこれまで組織的に行われたことがなく、もっぱら刑罰の対象として処遇してきました。 次回は、いよいよ彼らにたいする刑務所での改善指導計画を見ることにします。 ■
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by dankkochiku
| 2006-10-12 21:26
| 刑務所を考える
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平成16年11月、奈良市で下校途中の小1女児を猥褻目的で誘拐し、殺害した事件の小林薫被告に先月26日、死刑が言い渡されました。 この事件の異常さはさて置いて、わが国の性犯罪者の再犯防止対策の遅れが表面化しました。 マスコミ報道によりますと、犯人は、高校2年当時の幼女への猥褻事件を始として、平成元年には少女への強制猥褻と窃盗事件で懲役2年執行猶予4年を受け、平成3年には5歳の少女への猥褻目的殺人未遂事件で懲役3年を受け、平成7年11月に仮釈放されています。 また、今回の事件を起こす少し前には、民家から子供用の下着などの窃盗や女児の服を脱がせて携帯電話のカメラで撮影していたことも明らかになりました。 この事件を教訓に法務省は、平成17年4月に精神医学、心理学、犯罪学などの専門家による性犯罪者処遇プログラム研究会を立ち上げ、性犯罪受刑者と保護観察期間中の性犯罪者への処遇実施計画の検討に入りました。 その一方で、同年6月からは、13歳未満の児童に対する強姦、強盗強姦、強制猥褻、猥褻目的略取・誘拐の4種の暴力的性犯罪をした出所者と保護観察期間中の者について警察庁に情報提供し、再犯防止に向けて連携することにしました。 13歳未満の女児への性暴力事件の認知件数は、平成17年には、強姦事件が72件、強制猥褻事件が1384件であり、検挙された犯人は、検挙人員全体の0.1%に過ぎません。 しかし、この種の犯罪は、被害を受けても警察に届け出ない、いわゆる暗数が多く、実態が中々分かり難い犯罪で、実際には、届け出件数の十数倍はあるだろうとも言われています。 ちなみに、国連犯罪司法研究所が96年から97年にかけて11先進国または地域、13発展途上国、旧共産圏諸国での国際犯罪被害調査によりますと、性的暴行による被害の届け出率は、西ヨーロッパ諸国の約28%からアジア諸国の約20%と、大部分が刑事事件になっていません。 わが国でも、犯罪被害者保護の法律制定以来、犯罪被害の届け出は年々増えてきたとはいえ、、性的暴行(痴漢、セクハラを含む)を受けた女性被害者の届け出率は、15%弱に過ぎません(平成16年版犯罪白書)。 これは、事件が重大でなかった、届けても被害が元へ戻らない、加害者の報復や世間からの風評を恐れた、示談が成立したなどの理由からですが、この被害者の気持ちが、逆に加害者にとっては、届け出ないと思った、他人に言わないと思った、などの口実を与え、大胆さを増し、犯行を繰り返す要因になります。 法務省は、今年、強姦、強制猥褻、強盗強姦など性犯罪受刑者、出所者、保護観察期間中の者など約3300人の実態調査と、性犯罪受刑者220人のアンケートの結果の二つの調査結果を発表しました。 これまで個別的ケースで言われてきた性犯罪者の特徴が統計上からも実証したものとして評価されます。 調査報告書は、性犯罪者の被害者を13歳以上と未満に分け、それぞれを強姦と強制猥褻事犯に分け、さらに、これらの事犯ごとに共犯の有無による強姦、猥褻事犯の8類型化し、類型ごとに加害者の特徴を統計的に示しています。 例えば、小児への強制猥褻をした犯罪者の特徴として、他の型の性犯罪者と比べ、性犯罪の前科のある者の割合が高く(40%)、知能の低い者が多く(36%)、内気で自信にとぼしく(70%)、ストレスをためやすい(80%)者が多く、出所後5年以内の再犯率が高い(23%)ことなどを上げています。 また、アンケートの回答からみた小児への強制猥褻事犯者に多い犯行の動機では、「うさ晴らし」、「性欲を満たすため」、「被害者が可愛かったから」 と回答した者がいずれも40%以上あり、「その場で犯行を思いついた」 との回答が59%おります。 出所後の再犯の不安については、「不安がある」 とする回答者の割合が、他のタイプの性犯罪者に比べて最も高く48%もおり、「性犯罪を繰り返さないように努力しても無駄」 と思い込んでいる者の多いことが伺えます。 「受刑者処遇法」 は、受刑者に矯正処遇を受けることを義務付け、その改善指導の一つとして、性犯罪再犯防止プログラムが組まれています。 次回はこれについてお伝えしたいと思います。 ☆上記二つの調査報告書の概要は、「性犯罪者処遇プログラム研究会報告書」 に資料として掲載されており、法務省ホームページからダウンロードできます。 ■
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by dankkochiku
| 2006-10-06 23:29
| 刑務所を考える
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