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犯罪情勢を調べるには、その裏付けとして犯罪統計を見るのが当然と思われているが、その一方で、犯罪には暗数が多く、あらゆる統計の中で犯罪統計ほど信用ならないものはないとも言われている。 犯罪の暗数がどれくらいあるのか、犯罪の種類による暗数の量の違いはどうか、暗数の割合は大体、一定しているのかについて、全く不明ということになると、統計上の認知件数が疑わしくなり、犯罪発生率や検挙率を時間的、地域的に比較し、その多寡、増減を見ることも、項目ごとの相関関係を調べることも妥当性、信頼性が怪しくなってくる。 犯罪白書では、昭和55年版までは、「発生件数」 とあった用語をそれ以後は 「認知件数」 に改めた。 認知件数のほとんどは警察に届け出た件数だから、届け出がなければ、実際に犯罪が発生しても暗数化され、犯罪がどれほど発生し、加害者や被害者がどれほどいるのかも分らない。 犯罪者に厳罰を求める市民は多いのに、被害者が届け出ないというのは矛盾しているようだが、届け出ないのはそれなりの理由がある。 犯罪の被害を受けても気付かない場合、犯罪にあったと分かっても被害が少ない場合、被害者に落ち度のある場合、届け出た後の捜査協力や出廷などの煩わしさを考えた場合、加害者が家族や知人なので穏便にすました場合、届け出ても被害が戻りそうにない場合、届け出た後で加害者と示談ができて取り下げた場合、届け出ると加害者からの報復を恐れる場合、犯罪が公開されると名誉や信頼が損なわれるおそれのある場合、賭博、麻薬、売春事件など被害者も犯罪に加担している場合、警察に不信感、反感をもつ場合、届け出の機会を失ってしまった場合、このような場合、被害者は届け出ず、犯罪は暗数化されやすい。 被害者数や被害件数の統計もまた、加害者が検挙されて始めて分かるのだ。 では、一体、犯罪の暗数はどれほどあるのだろうか。 これまで実施されてきた暗数解明法の一つは、一般市民から犯罪の被害経験を聴取し、そこから暗数を推測する仕方である。 この方法による大規模な調査としては、昭和45年、警察庁が無作為に約1万3千人の市民を選び、交通業過事件などを除いた刑法犯の被害経験の有無について全国規模で聴取したことがある。 このアンケートの結果をもとに、犯罪の被害件数を推計学の手法を使い、国民全体に調査をすれば得られるはずの件数(実際発生件数)を推計し、そこから公表されている認知件数を差し引いたものを犯罪の暗数と仮定して算出した。 本来、推計値には、標本調査に伴う誤差が避けられないが、一応、それを度外視すると、刑法犯全体の認知件数の統計には、実際の発生件数の約49%しか計上されていないことが推測された。 罪名別では、窃盗の認知件数は実際に発生した事件全体の55%に過ぎず、詐欺では30%、横領と住居侵入ではそれぞれ20%で、その約4倍が暗数となっており、器物損壊にいたっては、認知件数の25倍の暗数があると推計値を出した。 被害者からの届け出が少ないほど暗数は多くなるが、刑法犯全体の届け出率の平均は47%であり、そのうち届け出率が高い犯罪は、傷害の64%、住居侵入の57%、窃盗の50%で、低い犯罪は、恐喝が21%、詐欺が33%、暴行が36%だった。 犯罪に対する市民の意識や行動は、社会の動きに影響されるから、上の警察庁の暗数調査から25年たった平成16年に法務総合研究所が刑法犯被害者2,086人を対象に行った被害届け出調査の結果を参考までに例示する。 これによると、自動車の盗難被害者は、100%届け出るが、ひったくりの被害者では86.7%、恐喝では31.3%、強盗(未遂を含む)では28.6%、性的暴行(強姦と強制猥褻)では14.8%と届け出率が低下する。 性的暴行は全体の85%が暗数になっていると推測される。 暗数調査のもう一つの方法は、犯罪・非行経験の有無を聴取し、未発覚の犯罪件数を推測する自己報告方式である。 昭和62年に科学警察研究所が東京都の公立中学校の男女生徒1,685人に実施した調査では、万引きの経験があると報告したのは男子が15.6%、女子が4.3%、無免許運転経験者は男子が19.6%、女子が3.7%、自転車窃盗では男子が10.5%、女子が1.8%などと自己報告の結果を発表している。 自己報告から犯罪の暗数値を推計する調査法は、犯罪が一部の特殊な人間に限られるものでなく、ひろく一般市民の間にも見られる現象であることの証拠を示すには有効だが、問題は、報告者の中には、他人を呪う、親の財布から金を抜き取るなど犯罪に当たらない行為まで犯罪と誤認して報告する例のほか、最大の弱点として、調査者と回答者との間によほどの信頼感がない限り、重大な犯罪を隠したり、または、虚偽の犯罪を報告したりするなど、正直な回答が得にくい点である。 いずれにせよ、客観的データとして尊重されている犯罪統計を使って犯罪の量や質を論じる前に、統計の背後にある暗数の実態解明にもっと目を向けるべきではないだろうか。
by dankkochiku
| 2008-05-04 00:03
| 非行・犯罪
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Comments(2)
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by
tomahawk_attack
at 2008-05-09 13:27
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ちなみに犯罪の暗数値における外国人犯罪は、どのように区分けされるのでしょう?・・
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dankkochiku at 2008-05-09 20:44
難問を寄せられましたね。 来日外国人の検挙件数、検挙人員は警察統計で分かりますが、問題は、その中に、日本人との共犯事件がかなりあることです。 これを種分けして暗数を推計することは難しいです。 検挙される来日外国人の40%以上は中国人ですから、日本人との共犯事件は多いでしょう。 日本人との共犯事件の少ないのは、米軍人、その家族ですが、憶測するに、基地周辺の商店街、風俗店街では、米兵等による犯罪が暗数化される確率が高いかもしれません。
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