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鑑別所の運動場で少女たちがバレーボールをやっている。 茶髪、脱色したチリチリ髪、ボサボサ頭の子、中学生、入れ墨の子、血色の悪い子、デブもいればヤセもいる。 妊娠中絶後の貧血症で木陰にへたり込んで見ている子もいる。 ゲームの方は、正直いって、うまいとは言えない。 大半がブキでスローモーだ。 サービスボールがネット手前で落ちる。 やっとネットを越えたと思うと、レシーブできず、球は地面にバウンドしながら、サイド・ラインを割って転がり出る。 ボールがネットを2往復することは滅多にない。 審判役の教官の笛がやたらに周りに響く。 それでも、彼女たちは、キャッキャッと騒いでゲームを楽しんでいる。 トレーナー姿の彼女たちはみんな普通の中高生のようだ。 どう見てもひと月ほど前までは、路上でシンナーを吸い、ナンパされ、援助交際をしたり、御意見無用の暴走族レディースだったり、風俗にいた子供たちだったとは見えない。 こんな少女の中に17歳のA子がいた。 問題は中卒後の家出の繰り返し。 中学を卒業すると、家にいるのを嫌い、都会にあこがれて家出。 街頭でチラシ配り、露店のお好み焼屋、居酒屋などの雑用をしているうちにやくざ系のキャッチセールの男と同棲。 男について働いていたスナックが覚せい剤密売で摘発され、A子は虞犯で鑑別所に送られて来た。 家出を繰り返し、犯罪すれすれの生活を送っていたからだ。 鑑別所に来てから5日ほど経って両親が面会に来た。 娘に会ってもらえなかった、とオロオロしながら面会を求めてきた。 トラック運転手という父親は、自分の娘の非行に恐縮しているのか、それとも普段から口数の少ない人なのか、自分からは話し出さず、こちらの問いかけにも、口ごもるだけ。 父親の応答に我慢しきれなくなり、パートで賄い婦をしているという母親が代わって答える。 娘が親に反抗的で困ること、注意をするとすぐ家出してしまうこと、それも、これまでに10回以上もあったこと、警察から娘を保護していると電話があるたびに、仕事が終わってから電車で何度も引き取りに行ったことなどを一気に話す。 父親は、ばつが悪そうにして相槌を打つ。 母親は、胸に溜まった悩みを一度にぶつけてくるといった感じで、その日は、もっぱら話を聞いているだけに終わり、帰ってもらった。 A子の警察調書を読むと、母親の悩みはもっともだと思った。 2度目の面会には、目の下に青あざを作った母親が一人で来た。 しかし、やはりA子は母親との面会を拒否した。 母親はA子にどう対応したらよいかと助言を求めた。 話をしているうちに、初めて、あの恐縮し、口ごもっていた父親が、実は、一家にとって危険人物であることが分かった。 父親は酒好きで、仕事から戻って、酒がないと不機嫌になるので、家には酒がいつも欠かせない。 飲み足りないと母に買いに行かせる。 母は父が飲み過ぎると荒れるのを知っていて、止めさせようとしてケンカになる。 挙句の果てに母親は足腰が立たなくなるほど殴られ、蹴られ、物を投げつけられることもある。 酒乱である。 顔の青あざも、2日前に殴られた痕だった。 A子によると父親の家族への暴力と両親同士の喧嘩は小学校の頃から続いているようだ。 小学生だったA子と2つ年下の弟が夜寝ているところを起こされ、酒を買ってこいと言われ、ぐずぐずしていて怒鳴られたこともあったと言う。 ある時、父親の弟が来て、荒れている父をなだめているうちに、台所から包丁を持ち出して暴れ、血しぶきが天井に向かって噴水のように飛んだことや、こんな家を燃やしてしまえと灯油を部屋にまき散らしたことをはっきりと覚えていた。 父親が酔って荒れた翌日は、昼過ぎまで両親は起きてこない。 そんな時は、A子も弟も、朝食抜きで家を出て父親方の祖父母の家に寄って朝食を済ませてから登校。 暴力にたまりかねた母親は、まだ小学生だったA子と2歳年下の弟を置いて家出した。 母親不在の間は、祖父母がA子と弟の面倒を昼間は見てくれた。 だが、問題は夜、酒乱の父親が帰宅した後だった。 しばらくして、A子が一番好きだったお婆ちゃんが亡くなり、養育者がいなくなったので、母親が1年くらい経ってから戻ってきたと言う。 両親と言えば、いつも喧嘩している姿しか思い出せない、そのとばっちりを受けてひどい目にあった、親から優しくしてもらった思い出は全然ないと、両親への敵意をあらわにする。 母親は別居中にパートで社員食堂の賄いに勤め始め、その仕事を今も続けている。 家には戻ってきたものの、酒癖の悪い夫と別れたいと始終思いながらも、子供2人を連れて生活できるほどの収入がなく別れられない。 結婚した当時、夫は市バスの運転手だったが、酒がもとで解雇され、その後、タクシー運転手、社員送迎バス運転手、運送会社の運転手など職場を転々と変えてきたが、今の仕事もいつまで続けられるのかは分からないと言う。 A子は、自分と弟を家に残してひどい目にあわせておきながら、自分だけ家を出て行った母親が許せないと言う。 弟は母親の家出と父親からの暴力にいじけてしまい、小学校でも中学でもいじめられっ子で、家から金銭を持ち出したり、万引きをしたりで、補導歴がある。 母親は祖父母に子供の養育を任せっきりにしたので親の言うことを聞かなくなり、わがままになったと、人ごとのような話ぶりで、どうすればいいのかと困惑の様子。 A子は、中学を卒業後、もう、こんな家にはいたくはないと、家を出たものの、学校を通して就職先を探したわけでもなく、身元保証人もない家出娘では、落ち着いて働ける職場はなく、貯金していた金も底をつき、街でできた友達の家に泊まり、店員などをしているうちに、やくざ系の男に誘われてアパートで同棲し、男の店で働いていた。 男が何を考えているのかは分らないが、両親よりもずっと優しくしてくれ、悩みの相談にも乗ってくれたと言う。 A子の審判には、父親は姿を見せず、母親だけが出席した。 A子は父母のもとへは絶対戻らないと言い張り、ひとり住まいの祖父の面倒を見るから、そこに帰りたいと言う。 しかし、祖父はA子の責任はとても負えないと、引き取りを拒否。 まだ非行が浅いからと、少年院送致をためらう家裁調査官。 鑑別所からの補導委託意見も委託先の調整ができていない。 このまま父母のもとに帰したのでは、家出は目に見えていると悩む裁判官。 結局、次の週までに補導委託先を探すことにして、審判は続行になった。 A子の親への長年の反発は、親から愛されたい心の裏返しなのだが、さて、A子と両親へどう働きかけたらよいだろうか。 また、父母のもとにいる中3の弟も気になる。
by dankkochiku
| 2007-12-04 21:53
| 少年鑑別所の子供たち
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Comments(8)
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桜花
at 2007-12-05 22:31
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親が親であることを放棄してしまい、本当は親から愛されたいと思う子供の大きく傷ついた心の深い溝、傷を癒し深い溝を埋めることは困難と思います。欧米ですと、子供の成育と親のカウンセラーを勤めるナニーという専門家がいます。
親元に帰りたくない少女の心、しかし、社会で生きていく術を知らない、そのまま社会に戻したら、同じような男の元に行ってしまうことでしょう・・・そして、気がついた時には少女苑→女子刑務所への懲役花子になってしまうでしょう。 ある事例ですが、兄と妹(18歳)&兄の友人で行った「美人局」・・・兄と兄の友人は強盗・拉致監禁・傷害で懲役○年、妹は美人局で数人の男性と関係を持ち、その共犯者として女子少年院へ、そもそもは天涯孤独の兄妹が生活苦から始めたものでした。
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桜花
at 2007-12-05 22:49
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落語家の桂才賀さん、全国の少年院・刑務所の慰問に回っておられます、桂才賀さんの教育者向けの講演会を聞きに行きました、単独室で書かれた少年少女たちの言葉、母親から「あんたを生まなきゃよかったよ」の言葉・・・その言葉を聞いた少年少女は深く傷ついたことでしょう、そして親(=大人)など信頼しない人間になってしまうでしょう。
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dankkochiku at 2007-12-06 17:20
いきなり型非行、良い子の非行が、近年、話題になりますが、まだまだ、今回のような古典的な非行が大勢を占めています。
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tomahawk_attack at 2007-12-07 21:41
思春期の女の子って?何故か母方にベッタリとなり易く。兎角、父親は寂しき存在にながちである。何とか仲良くなりたいなぁと思うと?甘やかし過ぎてしまうし、言うべきことは言わないとと思うと?途端にウザがられる。このサジ加減が何とも難しい。まったく。娘との親子関係の中では、父親というのは、まったく損な役回りだと思う。。^^
それにしても、dankkochikuさんによれば、未だ古典的な非行が大勢を占めていると聞き、思春期の親子関係の有り方には考えさせられますねぇ。(゚.゚)ノ 先ごろ。女優の三田佳子さんの息子が三度目の麻薬所持で逮捕されました。三田さん曰く、息子の大事な思春期に「ほったらかし」にし、金だけを与えていた事を、彼女は今更ながら悔やんでいました。 普通なら「三度目の逮捕ともなれば?」流石に突き放しそうなものを?自分らの育て方の間違いを悔いるだけで、決して息子を見捨てようとはしませんでした。 私的には、未成年なら兎も角も、すっかり成人した者に対し、些か甘やかし過ぎを感じましたが、如何に不肖の息子とはいえ?幾つになっても子供は子供ということでしょうか。。こういう姿勢も必要なんでしょうねぇ。 (v_v)
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dankkochiku at 2007-12-08 14:46
精神分析学でいうエディプスコンプレックス理論では、幼児の頃は異性の親に惹かれ、同性の親をライバル視して敵対心を持ち、これが、思春期になると、それぞれ異性に惹かれる源と言われています。 思春期の娘さんが母親べったりのように見えても、父親に惹かれている内心を見透かされるのを恥ずかしく思っているのかも。 むしろ、子離れできず、子供への教育力のない親の子がファザコン、マザコンになる方が問題。 特に、親が子に物質的不自由さを感じさせない限り、親子の絆は保たれると思うのは最低です。 ただ、非行少年では、物質的貧しさの中で、親子の触れ合いもなく放任している親の例が多く見られます。
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桜花
at 2007-12-09 00:55
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物質的貧しさの中で親子の触れ合いがなく放任しているケースと、親が子に不自由させない限りというケース、両者に当てはまる事例が「女子高生コンクリート詰め殺人事件」でしょう。
小生が接した鑑別所・少年院を経験した少年少女たち、大半は古典的な非行でした、少数派ですが親からの過度な期待に対するストレスから、いきなり非行の事例もありました、多くは大人を信用していないことでした。
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まりちゃん
at 2011-10-31 23:04
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読みました。私と同じような子たちがたくさんいました。助けて下さい。今は幸せです。子供の為に居場所のある家庭が作りたくて必死です。でも、子供が物心つく頃、私はどうなるんでしょう?母親のように、自分に飲み込まれてしまうんじゃないかと死にたくなります。生きている理由は子供なのに、子供は自立してしまうんですよね。でも、そこで死んだら子供に傷が残るんですよね。自分の傷を抱えきれません。
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dankkochiku at 2011-11-01 20:49
まりちゃん 子育てって難しいですね。 人生の中には、思いもよらない、いろいろのことが起こり、親の希望、期待通りに子どもを育てられるなど夢の話と思います。 また、子どもも、いつも親の言いなりにはなりたくないでしょう。ただ、親子の間に、信頼と愛着の芽が生まれれば、互いにそれを大事にしあうようになり、かたい絆で親子が結ばれるのではないでしょうか。
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