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午後4時も過ぎると鑑別所は急に慌ただしくなる。 家庭裁判所で観護措置をとられた少年たちが護送バスでやって来るからだ。 ほとんどの少年は、薄汚れた、よれよれのジーンズ、汗臭いTシャツ、セーター、カーディガン、スニーカー、ボサボサ頭、生気のない顔色で伏し目がち。 早速、身体、衣類、所持品検査の後、現金、私服、持ち物など鑑別所で預かった物は領置品倉庫にしまう。 変わった持ち物では、サーフィン、ゴルフセット、フルフェイスのヘルメット持参という少年もいた。 入所当日に全員、健康診断、入浴があればいいのだが、そこまではいかず、翌日まわしか、次回入浴日(入浴は週2回以上)まわしにして、制服に着かえさせ、所内生活について大体の説明をした後は個室で夕食、就寝へと続く。 前もって家庭裁判所から通知を受けた、病気、けが、妊娠中の子供は医務室へ連れていく。 警察に追われて転倒し、骨折、腕を三角巾で首に掛けた暴走族がいる。 エイズ感染の子が入所してきた時などは、臨時の隔離室を作り、食器、衣類、履物、便器の消毒はもちろん、少年の書いた手紙とボールペン、毎日提出する日誌、他少年と共用の図書室の本、ピンポンのラケット、テストの解答用紙にいたるまで、感染防止に職員は過剰ともいえる反応に神経をすり減らした。 幸い、大きな非行でなく、1週間ほどで観護措置が取り消され、皆ホッとした。 でも、この子のガールフレンズはどうしたろうか。 逮捕されてから72時間(身柄拘束後72時間を過ぎたら観護措置はとれない)も経っていないのに、事件後は逃げ隠れし、見つかってからは任意とはいえ何度か警察に呼び出されたこともあって、体力的にも精神的にも参っている様子。 就寝許可が下りるとすぐに寝込んでしまう。 昭和24年に開庁した東京少年鑑別所の所長は、初代、2代と続いて精神医だった。 2人の所長とも、精神医の森田生馬博士が開発した森田療法を鑑別所の少年向きに変え、横臥療法とも刺激遮断療法とも言われた処遇法を新入3日間の少年に採り入れた。 これは、少年鑑別所処遇規則にある 「少年を明るく静かな環境に置いて少年が安んじて審判を受けられるようにし、そのありのままの姿をとらえて資質の鑑別を行うように心がけなければならない」(第2条) とあるのに沿って考案した鑑別調査前の処遇法であった。 この処遇法は、入所後3日間、ラジオ放送、新聞、図書を与えず、食事、入浴以外は、終日、寝て過ごさせる。 こうすることによって、心身の疲労を回復させ、非行に明け暮れして荒んだ気持ちの少年の警戒心や不安感を和らげ、自然と内省するようにさせ、その思いを誰かに訴えたくなるように仕向ける技法だった。 この横臥療法は、少年が次々と入所してくる鑑別所では、個室の確保が難しいという問題こそあれ、せめて入所日とその翌日くらいは、寝かせておいて、内省の機会を持たせることは、意味があると思うのだが、現在ではすたれてしまった。 少年が入所すると鑑別所から保護者に手紙を出し、少年の居場所を知らせる。 それと一緒に、家族の様子、子供の体や性格や問題、これまでのしつけ方、今後の方針などについての質問紙を同封し、面会時に持参するように依頼する。 この質問紙に沿って子供・保護者・職員の三者面談に入るためである。 しかし、初めて自分の子供が鑑別所に入れられたと知った親御さん方は、息せき切って見え、いざ、面会となると、親も子も感極まって、涙、涙で終わり、三者面談ができるようになるのは、2回目の面会以後である。 鑑別所に来て、保護者と初めての面会の様子を子供たちの日誌から抜き書きしよう。 父親と面会した後の19歳男子の日誌から。 今日、両親が面会に来てくれた。 僕は父親が面会に来るとは思ってもみなかった。 そして、面会の時にうそのような事が起きた。 父親が泣いた。 俺は、父親の顔をまともに見れなかった。 そして、いままで父親が嫌いだったし、にくらしかったが、そんな事などは、もうどうでもよくなった。 俺は、今日、父親に初めて、悪い事をしてしまったと思った。 俺は、19年間、父親の泣いた顔なんか一度も見た事はなかった。 そして、また家の仕事をしようと思った。 17歳の女子の日誌から。 今日、午前中に、母さんと面会をしました。 昨夜来て、駅前のビジネスホテルに泊ったそうです。 この雪の中、ここの場所が分らないので、一時間くらいタクシーを立って待っていたらしく、傘もないので、泣きたくなったと言っていた。 本当にゴメンナサイ。 この寒い雪の中、きっとさみしい気持になったと思います。 本当にすみません。 母さんを見た時、泣かないと思っていたのに、涙がぼろぼろ出てきました。 16歳の男子の日誌から。 今日、お母さんが面会に来てくれました。 お母さんは面会室に入ってくる前に、もう泣いていました。 僕も、悲しくて涙が出そうになりましたが、必死にこらえました。 けれども、やはり、涙が少しこぼれてしまいました。 母さんは、もう僕の顔を見た時から、家では、これだけのことを言うつもりできたのに、ほとんど忘れてしまった、と言っていました。 病気の父さんに髪の毛のことを言われてきたらしく、僕が丸刈りにしてあったので、とっても、母さんは嬉しそうでした。 これらの日誌からは、もうこの時点で、家でツッパッテいた子供の姿は見えない。 親は子供の姿を、子供は親の姿を、ひさびさに見直して、ほころびた親子の絆を何とか繕わなくてはならない、と考え始める。
by dankkochiku
| 2007-11-29 15:28
| 少年鑑別所の子供たち
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Comments(9)
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tomahawk_attack at 2007-12-02 17:45
一応、所内では、神妙にしているようですね。そうなんですかぁ。なるほどねぇ。。。┐(゚~゚)┌
ただ、こういう者たちは、出所ののち、いったい何日ぐらいまで?この様に神妙にしているのだろうか。「練鑑上等!」などと「うそぶく」者もいる世の中だ。何とも気になるところだ。。。 ちなみに私の知り合いは、更生して会社員をしている。今では優秀な営業マンである。。。(゚.゚)ノ
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at 2007-12-02 23:23
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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dankkochiku at 2007-12-03 22:04
ある定時制高校の生徒指導の先生のクラスには鑑別所帰りで試験観察中の生徒3人を任され、なかなか大変だそうですが、再非行はないとのことです。 練鑑上等、などとうそぶくのは、よく吠える負け犬意識があるから、とのこと。
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桜花
at 2007-12-03 22:56
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昔、定時制高校に勤務したことがありますが、鑑別所・少年院を経験した生徒たち、当初は教師や職員を信用せず身構える傾向があり、とにかく彼ら彼女らの話しを聞く努力を地道に続け、少しづつ彼ら彼女らの心の氷が解け始めた頃から、対話形式の生徒指導を行っていました。
学校から「厄介者」として扱われた彼ら彼女らの心の氷を溶かすことは並大抵のことではありません、単体の定時制高校は少なく、全日制高校と併設されており、全日制の生徒たちからの差別・揶揄に耐えかねてキレる者が極少数はおります、そんな彼ら彼女らに対して体を張って「我慢」することを教える定時制高校の生徒指導の教師、刑務官・法務教官と似て地味で地道な努力を積み重ねる仕事です。 多くの都道府県の教育委員会では、高校の教頭・校長の管理職試験を受験できる要件として、定時制高校又は養護学校での勤務経験を要する者と受験資格としているようです。
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at 2007-12-03 23:10
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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dankkochiku at 2007-12-04 10:05
桜花さん 定時制高校は、有名大学進学予備校化した普通科高校とは対極的で、ある意味で人格教育の場と言われています。 頭と心と手の調和的発達を目指したペスタロッチの教育目的に近いことが要求される教育の場のようです。
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桜花
at 2007-12-10 23:14
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仰るとおり有名大学予備校化した全日制と対照的に、定時制は勉強だけ教える現場ではありません、定時制の生徒は未成年ばかりではなく、長年に渡る社会経験が豊富な成人の生徒が少数ながらおります、その生徒たちは学びたい時が戦時中・家庭の都合で進学が叶わなかった人たちです。
経験の浅い教師たち・未成年の生徒にとって、人生の先輩である中高年の生徒は「生きたお手本」です、ある意味で世代間の交流を通じて人格教育の場と定時制が言われる所以でしょう。
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名無し
at 2013-07-04 12:42
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「鑑別書に入っちゃった!」
と書くのは不適切だと思います。 鑑別所に入って後悔してる人や反省してる人はたくさんいるんです。 僕の友達もそうです、バイク窃盗をし、鑑別所に送られ、出てきた時には当たり前のことをするたびに笑っていました。 テレビを見て笑ったり、お菓子を食べて笑ったり。。。 そんな友達を見た後にこの記事を見ると入っちゃった!という表現は 鑑別所に入った少年をバカにしているようにしか見えません。 不適切な表現の訂正をおねがいします。
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dankkochiku at 2013-07-05 09:20
名無しさん、コメントありがとうございます。 仰られるように、鑑別所に入った後、非行から回復した人はたくさんおりますし、そういう人と会いますと、名無しさんと同じ気持ちになります。
しかし、このブログは、少年たちの鑑別所入所当日、あるいはその4、5日くらいまでの様子を観察、対話をもとにその平均像を描いたものです。 また、入所少年の70%以上の非行は、窃盗、道路交通法違反、傷害、恐喝で、しかも共犯者や不良仲間がおり、そのほとんどの少年には、補導歴、検挙歴があります。 つまり、入所して間もないので、頭が混乱しているとこに加え、非行によって、警察で身柄を拘束された少年たちのうちのごく一部の少年であり、「なんで俺だけが」 という気持ちやこれまで非行をしてきても警察に捕まらなかったのに 「運が悪かった」 と思い、それを口にする少年も時々おりました。 そんな気持ちを 「鑑別所にいれられちゃった」 と表現しました。 私を含め、鑑別所の職員たちの一般的な意見では、入所後、数日間は、鑑別所に入れられたことを残念に思い、1週間くらい後から非行への反省、後悔心は、湧いてくるのが普通です。
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