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「刑務所」 の言葉から何を思い浮かべますか。 「脱獄」 を連想する方も多いのではないでしょうか。 フランスの文豪デュマの作品、モンテクリスト伯ことエドモン ダンテスがマルセイユ沖孤島の城砦地下牢から脱出した話。 脱走不可能といわれた米国のアルカトラズ監獄からの脱獄映画 「アルカトラズからの脱出」。 脱獄を4回重ねた無期懲役囚を描いた吉村昭のノンフィクション 「破獄」。 いずれも自由を求めて脱獄に執念を燃やした男の物語が最大の山場です。 犯罪を憎み、犯罪者を恐れる市民でも、何故か脱獄犯に対しては賛嘆の気持ちを禁じ得ません。 ところが日本は、世界でも稀に見る脱獄事件の最も少ない国です。 受刑者の逃走件数は、昭和57年以来、年間3件以下で、平成9年から12年までの4年間は、受刑者が1日平均4万人以上もいましたが、皆無でした。 昭和44年に日本で始めてできた開放的施設の市原刑務所(収容定員約460人)では、その気になればいつでも逃走ができますが、現在まで逃走者は1人しかなく、その1人も10日後に父親に付き添われて戻ってきました。 こういう状態ですから、数十年勤めた刑務官でも一度も逃走事件を経験せずに定年を迎えた人も多いでしょう。 逃走事件がないことに越したことはありませんが、では、日本に脱獄が少ない理由は何かと改めて問われると、その実証的研究といったものはなく、説明し難いのです。 衣食住面の配慮、逃走防止に細かく神経を使う刑務官、警備上の配置も考え受刑者を分類する職員などの存在を抜きにしては考えられませんが、その人たちの警戒心は現場経験から生まれたものと言うしかありません。 それが何かと尋ねても、精々、刑務官たちや受刑者たちからは個人的、断片的な意見が聞ける程度です。 そこで、この諸説紛々の波に乗って脱獄事件の少ない理由を私なりに考えることにします。 まず、この問題の背景となる日本人文化との関係ではどうでしょうか。 よく言われるように、日本は多民族国家でなく、異なる民族の人でも外国籍の人でも、日本での生活が長く、風俗習慣に同化した人が多く、お互いに相手の心理、考え方、価値観が全く相容れられないほどの違和感を抱くことはありません。 周囲の人々と日本語で話し合えば互いの気持ちが大体分かりますし、話さなくても仕草から相手の心が分かり、それに応えられるといった、いわゆる以心伝心の一大文化集団の中で生活しています。 そこで相手が受刑者であっても、あるいは、相手が刑務官であっても、双方が話し合えば分かるという思い込みで接しても裏切られることのあまりない対人関係ができますと、例えば、死刑、無期刑判決を受けた直後、家族の病気、所内の対人関係のもつれなどから異常なストレス状態にでもない限り、あえて脱獄し、追跡される危険を冒すよりも、現在おかれている拘禁生活に順応する方をほとんどの被収容者は選びます。 これは、被収容者の側から見ると、自由が制限され、絶えず監視される生活とは言っても、衣食住の面で外の社会と比べ極端に悪いとは言えず、また、刑務官から不信、軽蔑の目で見られ命令される不快さはあっても、自分のしてきたことを思えば、耐えられないほど虐待を受けている訳でもないと諦めがつくからでしょう。 この反省して諦めるという心も日本文化かもしれません。 他方、刑務官の側は、被収容者に対しては毅然とした態度で公平に扱うこと、保安原則を厳守することを徹底的に叩き込まれ、職員が一体感を持って当たり、被収容者の気持ちをおもんぱかり、相談事に親身になって乗ってやる態度を見せるならば、彼らの気持ちを和らげ、これがひいては施設の保安にも自分の身の安全にも役立つことを実務経験から学び、その正しさ信じています。 この被収容者と刑務官との両者の物の考え方や心理が被収容者に所内生活へ順応する道へと向かわせるのではないかと思います。 しかし、近年の来日外国人急増の時代になりますと、これまでの日本人文化論からの説明だけではいかない事態が起こることがありますから、いつまでもこれが妥当する説明とは言えません。 例えば、平成8年に東京拘置所で起きたイラン被告人7人の集団脱走事件です。 この事件は、イラン人たちが単独室で毎日熱心にイスラム教の礼拝をしているのを見て、一人で礼拝するよりも皆と一緒に行った方がよかろうと施設側が思い、またイラン人たちもそれを歓迎したことが始まりでした。 そこで、7人を雑居室に収容したところ、逃走を謀議し、鉄格子を切断するために糸ノコを外部から巧妙に入手したのです。 つまり、多くの日本人あるいは日本文化に同化した外国人ならば、拘置所側から好意を受ければ、義理を感じ、好意を仇で返すことはしまい、という拘置所側の思い込みの隙を突かれた事件だったのです。 また、脱獄の少ない理由をただ日本人文化から解釈するだけでは、実証性がとぼしく、例外のケースも多そうですので、これを補強するものが必要です。 そこで受刑者たちの声からその理由を探ることにします。 以下は、出所直前の受刑者に 「職員に対して、一番、有難いと思ったのは、どんなことでしたか」 「職員を恨んだこと、辛い思いをしたのはどんなことでしたか」 と尋ね、書いてもらったものです。 第一の質問の回答では、 「冬の懲罰房にいた時、知らない職員から 『寒いだろう。風邪を引くなよ』 などと短い言葉をかけられたときです。」 「父親の死亡通知を受けたとき、工場担当が仲間全員の前で一分間の黙祷の号令をかけてくれたときです。」 「一寸したケガをした時、私には言わなかったのですが、職員がわざわざ医務所まで行って、薬をもらって来てくれたことです。」 「冬季に、湿りがちな布団を好天候の時を見計らって、時々、乾燥してくれたことです。」 「私は行状が悪く、満期出所になりましたが、『君は二度と妻や子供達に苦労を掛けず、再び刑務所に来る事なく、社会で元気にやってくれ』 との一言です。」 第二の質問の答えでは、 「非常ベルで職員が飛び込んでくるのはいいが、多数のどさくさにまぎれて相手構わず、蹴飛ばしたり殴りかかったりする若い職員がいることです。」 「われわれは卑下に値する人間かもしれないが、それを露骨に表し、突き放そうとする職員がいる。」 「若い職員で、街中のチンピラと差して変わりない態度で、収容者を挑発し、矯正教育と錯覚しているのがいる。 これは、我々にとっても、職員にとっても非常に危険であると思う。」 「入浴時、皆が一日の仕事が終わって風呂でホッとしている時、その場の職員がまるでわれわれを動物扱いする時、これが受刑者の一番頭を悩ます問題と思う。」 「全部とは言いませんが、組関係者やヤクザっ気のある者に、特に目を掛けているとしか思えない職員がいる。」 これらの生の声に接しますと、これが脱獄の多寡に直結するとは言えませんが、職員の一寸した言葉、態度、行動が刑務所内の空気に影響して、所内での適応、不適応を招くきっかけになるだろうと実感される回答です。 こう思う私自身、刑務所を渡り歩いている間、2回逃走事件に会いましたが、これについては、別の機会に譲ります。
by dankkochiku
| 2007-07-07 22:12
| 刑務所を考える
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Comments(15)
私は中学生のころ。高倉健さんの「網走番外地」シリーズが大好きで、良く見ました。あの時代の網走は、最果ての「極寒の地」そのものでしたし、映画で見てても?雪原の「脱獄」は、あまりに難しいものと感じました。(他の刑務所は知りませんが)
でも?なかには「白鳥由栄」のような?プロのような?凄腕受刑者もいますからね。決して油断は出来ません。ましてや?映画などでも、スティーブマックイーンの演ずる「大脱獄」や「パピヨン」の映画がヒットし、世の中には「脱獄者」を、ヒーロー扱いする風潮すら?感じられます。その意味でも、警護は「万全」にお願いしたいものです。 それこそ。ここが揺らぐと?「法はあって、なきが如し」ともなり兼ねません。それだけは、絶対避けなければいけないと思います。看守の方には、一層の頑張りを期待します。。。。
白鳥由栄は、官憲への憎悪心、反抗心から脱獄への執念を燃やし続けたのが、最後の移送先の府中刑務所長の英断で溶接した手錠、足錠を外したことが模範囚となったきっかけとなり、そのうえ50歳を過ぎ脱獄の執念が燃え尽きたためと言われています。
囚人は誰でも脱獄の可能性があると全員、重警備刑務所に入れるわけにもいきませんし、その前科でもなければ、誰が脱獄を考えているのか分からない難しさがります。 自由が奪われるともとの自由を求めて動き出すのが人間の本能と、欧米諸国では単純逃走罪(加重逃走は別)のない国が多いのですが、逃走中の犯罪を考えると、本能と言って安閑としてはいれません。
白鳥由栄、吉村昭の小説「破獄」で知れました。後年、白鳥由栄、本人にインタビューした録音テープが公開され、網走から脱獄した詳細が語られました、彼は関節を外す特技?があり手錠を難なく外し・狭い窓を潜り抜けたそうです、月の満ち欠けと看守の足音から巡回の時間を計り、その隙を突いて脱獄したとのことです。
数箇所の刑務所を見学した経験から、舎房を抜け出し・高い塀を乗り越えて逃げること、執念だと思います。 焼くな・殺すな・逃がすなの三原則、脱獄を図る囚人と、阻止せんとする看守との攻防、東拘から脱獄したイラン人は元特殊部隊員、捕虜となった時、捕虜収容所から脱走する訓練を受けており、ある意味では脱走のプロと言うべきでしょう。 某拘置支所から脱走した北朝鮮人・中国人の収容者も元兵士でした、敵に捕らえられたら逃げるのが当たり前の外国人の従軍経験者、適当な理由で手錠を緩めて貰い、隠し持っていた金属片で捕縄を切り、看守の隙を突いての逃走、F級を収容する施設の職員、まさに命がけの勤務と思います。 ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
脱獄の策を練る囚人は一点に集中し、刑務官は数百人、数千人の囚人を広く見張っています。 脱獄犯のほとんどは何か犯罪をしますが、年間1万人以上もの合法的な満期釈放者もまた、その6割以上が再犯をしています。
日本では脱獄が少ないと聞いて、多くの識者が言っている日本文化の特質を思い出しました。自己主張をせず、多数に巻かれ、諦念を美徳とする、まさに日本文化の真髄。高倉健主演「網走からの脱出」なんてヒット間違いないけど。 ---失礼!
明治時代の富国強兵策で釧路監獄の囚人が網走に向けて幹線道路建設に酷使され、途中で死亡した囚人を道路脇に埋めながら目的地に達し、網走監獄を建てました。 昭和55年頃から全面改築の計画と共に監獄保存財団の手で、鉄道を挟んで博物館ができ、更に、高倉健主演映画は観光価値を上げました。 刑務所の住所は、網走市三眺ですが、その後に番地がなく、今も、番外地が観光の売り物になっています。布施明の曲で有名な霧の摩周湖も近くにあります。
春先の網走刑、受刑者たちの北国のささやかな花見、工場対抗?「のど自慢大会」も併せて行われているようで、「唐獅子牡丹」は歌わても、映画と同名の「網走番外地」は誰も歌わないとか・・・(網走番外地を歌うことは禁止されていません)。 閑話休題、戦時中・戦後、連合軍の捕虜収容所から日本兵の捕虜が脱走した例も殆どないです、その中で最大の脱走は豪軍のカウラ捕虜収容所からの集団脱走事件でしよう、戦国時代から虜囚の身となれば、"生殺与奪は敵にあり"生きるも死ぬも敵の機嫌次第、逃走は諦めて他に生きる道を模索する心理状態が起きるのでは?と思いました。
受刑者達って保守派で演歌の懐メロ好きですね。 エグザエル、平井けん、コブクロなんてもてないのでは?
サミットの開催地になった、イタリアの商都「ベニス」(ヴェネツィア)の総督府にある「鉛の煉獄」、同煉獄に収監された好事家で名高い「カサノヴァ」が、自由を求めて脱獄した話も有名ですね。
観光で訪れたベニスの総督府「鉛の煉獄」を見学して、あの煉獄から脱獄したカサノヴァの執念、マキャベリの君主論に基づき、ヴェネツィア政庁に設けられた「10人委員会」(CID)の追跡(捜索)者から逃れた者は、カサノヴァだけだったようです。
カサノヴァに匹敵するのが、長崎の裁判官、辻村庫太判事です。 強盗で無期懲役囚だった明治13年三池集治監を脱獄後、東京法学校で学び、判事任官後、露見して再逮捕されました。 明治24年の話です。 やはり脱獄囚は人気がある?(笑)
「若い職員で、街中のチンピラと差して変わりない態度で、収容者を挑発し、矯正教育と錯覚しているのがいる。これは、我々にとっても、職員にとっても非常に危険であると思う。」と、出所直前の受刑者の声にもありますが、私はかつて、そういう者を管理する側にあった者としてそういう指摘は謙虚に受け止めなければならないと思います。そういう血気盛んな若い職員がいたことは事実です。中にはそういう職員が今では刑務所の幹部になっているケースもあります。監獄法に代わる新しい法律が施行された現在、そういう職員がまだいるかどうかは知りませんが・・・
法務太郎さま コメント有難うございます。 一片の法律改正で人の意識を変えることはなかなか困難です。 刑事収容施設にせよ少年矯正施設にせよ、そこが、被収容者にとっても、職員にとっても不快な場であることは同じで、そのような環境下では、被収容者も矯正職員も苛立ちやすく、衝動的に暴力を振るう危険性は多分にあります。 最近の例では、08年7月に宮崎刑の刑務官ら5人が、大声で騒いだ受刑者を保護室にいれ、床暖房を使って室温を38度まで上昇させ、そのまま25時間近く収容し続ける虐待をし、しかもその事実を隠ぺいしたとして送検された事件が新聞報道されました。人権重視の施設管理、社会復帰処遇法の確立、それに携わる職員研修の徹底などが求められています。
海外に比べて脱獄しても逃げる場所がないからなぁ(笑)
無茶苦茶な設備のとこも無いし
ダンスさん コメント有難うございます。
日本では、脱獄者が少ないのは、島国だから「逃げる場所がないから」と思われるかもしれませんが、日本より小さい島国のイギリス本土でも日本に比べて少なくありません。 また、日本でも、昭和20~27年までは、年間100人以上(最高は21年の952人)脱走者がいましたが、その後減り続け、平成20年は一日平均7万8千人以上いましたが、脱走者は0人、前年は8万人のうち1人でした。 そのわけは何故だとお考えでしょうか。
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