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午前10時頃になると、その日の昼食のサンプルが作業場の中のガラスケースに陳列されます。 中々、いい物が出ております。 カツ丼とか、普通の洋食店にあるものと少しも変わりません。 「今日は俺もこれを食べられるのか」 と思うと楽しくなりますが、昼になると 「山本さんの食事はこっちです」 と言うので事務室に行くと、「そば屋かラーメン屋で出前を取って下さい。外に食べに行かれてもいいです。」 という返事。 何だかガッカリしました。
いよいよ、5日目です。 重量物を人間の手だけで上に揚げ、高い所で据付をするわけですが、文章で書けばこれだけですみますけれど、実際はこんなものではありません。 それが数ヶ所もあるわけですから大変です。 受刑者全員と私も気を揃えて作業をしなければなりません。 ところが困った事が起きます。 丁度、作業が、肝心の山場に差しかかって、「あと少し」 というところで、点呼の呼笛が 「ピー」 と鳴ります。 私を残して全員が降りて、「1」 「2」 「3」 「4」...となります。 そして、点呼が終わって作業開始ですが、「あと少し」 のところで中断したので、また最初の一からやり直しです。 中々作業が進みません。 刑務官に相談しました。 「いい所にきて、もう少しというのに、ピーじゃまた最初からやり直しです。 これじゃ予定通り終わりません」 と言うと、「うーん」 と言って、しばらく考えてから、「それじゃ、こうしましょう。 私が、『山本さん、総員何名!』 と聞きますから、人数を数えて何名と答えて下さい。 そうすれば上から降りてこなくてもよろしいですから。」 と便宜をはかってくれました。 こうして、「ピー」、「整列」、「山本さん何名」 ときて、私は人数を数えます。 上に上がっているのは、大体4~5名ですが、「3,4,5」 まで心の中で数えていると、気の利いた受刑者の一人が 「5名」 と怒鳴ります。 それでOKです。 何回かそういうことを繰り返している時に変なことに気がつきました。 受刑者がモタモタしている私に代わって 「○名」 と言う人数がいつも実際よりも多いのです。 私が 「人数報告してもらって有難いんだけど、あんた、いつも一人多いじゃないか。 一寸、まずいんじゃないか。」 と注意をすると、「そりゃー、あんたが入っているから一名多いんだよ。」 もう呆れて苦笑いです。 難しい作業を何日もやっておりますと、受刑者夫々に、やはり能力の差というもの、力の差というものが見えてきます。 一番力のありそうな、その上、仕事の要所要所でうまく収めている受刑者が一人おりました。 そこで、「あんた、中々、仕事が上手じゃないか。 いわゆるツボというものを心得ていて立派だ。 シャバじゃ何をしていたのか。」 と聞くと、「重量物の取り扱い、運搬などをやっていた。」 とのことです。 「あんた、そんな腕を持っているのに惜しいなー。 何でまた、こんな所へ来たんか。」 と聞くと、「わしはのう、カーッと来ると、すぐブスーッと殺す癖があってのう。 それで何回も、こういう所へ来るんや。」 という返事。 「今日はブスーッとやらんでくれよ。」 と言うと、「もう大丈夫や。」 との返事。 「どうして?」 と聞くと、「わしは、今、仏の道に入ってるから、もう大丈夫なんや」 と答えました。 そこで、刑務所では、色々な教育をしているのだなあと思いました。 やっと工事が終わって、サヨナラです。 別に儀式らしいものはなく、手を振ってお別れです。 工事が終わって片付けを皆でしている時、「山本さん、体に気いつけや」 と口々に受刑者は言いました。 感激です。 (完) ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 山本さま、ご投稿どうもありがとうございました。 塀の外の方から見ると、刑務所の作業の能率の悪いわけがよく分かります。 それにしても、この工場担当さん、太っ腹ですねえ。 部外者に人数を確認させるというのは...。
by dankkochiku
| 2007-06-26 21:29
| 刑務所を考える
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Comments(1)
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