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一つの職業に永年、ついていますと、知らず知らずのうちに、その職場の習慣、身振り、話し方、価値観が染み付いて、仕事時間外でも、その職場を辞めてからも、おかしな癖がなかなか抜けません。 医師、看護師など医療従事者が患者以外の人にも 「お大事に」 と言って別れたり、レールと枕木の歪みを点検しながら線路を歩く鉄道員にガニマタ歩きが残ったり、教師は生徒以外の人にも先生口調で話がくどい、などはよく耳にする職業癖です。 刑務官は、喫茶店やレストランで一服しながら、無意識にコップの水を灰皿に入れ、後片付けにきた店員さんに嫌がられます。 受刑者が吸殻を持ち去るのを防ぐために、刑務所ではどの灰皿にも水が入れてあるからです。 また、比較的長い刑期を終えた出所者が罹る、いわゆる 「刑務所呆け」(まさか、服役性認知症とは言うまい)から覚めた後にも、服役中の癖から抜け出せない人がいます。 その一つは、出所者が就職先の同僚や上司と歩く時、いつも一歩先を歩いて行く癖です。 上司から、失礼な奴だと、注意されたり、人物を低く評価されます。 この癖が付くのは、受刑者は、一人の時でも、集団の時でも、一定の区域外に出る時は、必ず連行職員の先を歩くように躾けられているからです。 もし、職員が先に歩いて、振り返ったら受刑者がいなかったならば大変なことですし、後ろから職員が襲われるおそれもあるからです。 これは、保安原則第一の 「視線内戒護の原則」 で、保安警備に当たる刑務官だけではなく、刑務所職員全員が自分の視線外に受刑者をおいてはならないと教えられているからです。 もっとも職員のほうは、一緒に歩く人から一歩下がって付いていっても、へりくだっていると思われるだけかもしれません。 出所者に多い癖の第2は、食事時間の短いことです。 食事をかっ込み、どうかすると、最後に、ご飯に味噌汁、お茶をかけ、口に流し込む食べ方に、家族や職場同僚から下品だと顰蹙を買います。 この早食いの習慣が付くのは、雑居室や工場食堂での食事中も、早く食べて、食後の自由時間を少しでも長く取りたいとあせり、食べ終わった者から順に食器を片付けていくので、ゆっくり味わいながら食べたくても許されない雰囲気になるからです。 もう少しゆっくり食べるように注意する職員もいますが、馬の耳に風で、5分ほどで全員が食べ終わってしまい、職員の方も諦め顔です。 年寄りや入れ歯の人の中には消化不良で胃を悪くしたり、仲間に迷惑を掛けまいと食べ残す人もいるほどです。 第3に多い癖は、勤務時間中は、作業衣や制服に着替えなくてはならない社内規則のある職場で現れます。 同僚たちの面前で、平気でパンツ1枚の裸体姿になって更衣し、同僚から野卑な人間と見下げられ、女性社員は目を背けます。 このような、羞恥心のない行動を出所者が抵抗なく行えるようになる原因には二つあります。 一つは、雑居室内での囲いのない衆人環視の場での衣類の着替えが普段に行われ、次 第に同室者の目が気にならなくなるからです。 もう一つの原因は、就業日は毎日、衣体検査(検身)を全員、受ける決まりがあるからです。 朝、居室から隊伍を組んで各工場に来た受刑者たちは、まず、工場入口手前の部屋で、部屋着を脱ぎ、そのまま、裸体姿またはパンツ一枚の下着姿で、刑務官が見守る通路(検身場)を一人ひとり検査を受けて通過し、次の部屋で作業着に着替えた後、工場に入ります。 夕方、工場から居室へ戻る時には、始業時とは逆の動きをしなくてはなりません。 つまり、脱ぐ部屋と着る部屋の二つの更衣室があるのです。 こうすることで、反則品の持ち込み、持ち出しを防止するのが目的ですが、この極めて原始的な衣体検査が常態化しますと、長い服役中には、裸体を刑務官たちや仲間の前で晒すことに、全く羞恥心を感じなくなるのです。 刑務所見学に見えたある化粧品製造会社の工場長さんから、作業中に付いた化粧品の臭い消しと、製品の持ち出し防止に、就業後、工員を入浴、更衣させて帰しているという話を聞いたことがあります。 こうした工夫は、受刑者の社会復帰を容易にするために取り入れたいと思うのですが、とかく光熱水料の予算節約だけが先行し、更生は後回しにされます。 癖の4番目は、家族のもとに帰った出所者が、しばらくの間、夜通し、寝室に点灯していないと安眠できず、家族からは眩しくて眠れないと文句が出ることです。 この癖が付くのは、刑事施設では、夜間就寝中でも、夜勤看守が居室外から被収容者の動静確認ができるように、減光はしても、消灯はしないからです。 そのうえ、人数が間違いなく揃っているのを確認できる位置で横になり、布団から頭を出して寝なくてはならないと、寝相まで指定されます。 電灯の光が眩しいからと、布団にもぐって寝ていると、起こされます。 こうして電灯の光が睡眠を妨げなくなり、やがて、点灯していないと安眠できなくなるのです。 このほかにも、出所者の自信のない責任逃れの話し方、作業中、直ぐに疲れて椅子に腰を掛けたり、地面にしゃがみ込むなど、服役生活の後遺症があります。 社会復帰後の足固めをするうえで困ることは、これらの癖に、当の本人は気付かず、職場の同僚たちがこの異様な態度や行動を怪しみ、前科の身元が割れて、いたたまれなくなり、やっと見つけた職場を自分から去ったり、解雇される羽目になることが少なくないことです。 刑務所は、先ず、異常な人間を作り、その後で、その異常性を直そうとしている、とある人が書いていますが、立派な矯正処遇計画を始める前に、更生を望む出所者の足を引っ張る服役生活の現実を見直し、社会生活と同調した環境を作る必要が多々あるのです。
by dankkochiku
| 2007-04-04 16:59
| 刑務所を考える
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Comments(4)
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桜花
at 2007-04-08 01:03
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辞めても職業柄から抜けない癖・・・、警察・消防・自衛隊に勤務された経験がある方の「早飯・早糞・歩く速度が早い、声が大きい、どのような状況でも睡眠できる」でしょうか? 小生も過去の奉職経験から該当します(笑)
長期刑で出所された方が「浦島太郎」になる話は関係者から聞いたことがあります、「動く歩道」に乗って・・・目を回して倒れた長期刑の元受刑者、満期出所して赤落しで訪れた色町で何もせずに長風呂して帰った元受刑者、家族・肉親・友人らから異常なまでに整理&掃除好きと言われてしまった元受刑者の逸話、関係者から聞いたことがあります。 刑務所の服役生活で身に染み付いた癖を含めて、元受刑者は服役で受けた精神的な状況から、社会に適応するまでの期間・・・服役した期間の倍を要すると聞いたことがあります。
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dankkochiku at 2007-04-08 14:42
長期刑出所者の社会適応力回復の遅さは以前からの問題で、それに加え、高齢者は概して貧困で健康に不安がありながら、殆どの人が引受人となる親族がおらず、天涯孤独になるケースが多いことです。
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桜花
at 2007-04-09 00:46
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出口の見えない長期刑、受刑生活の全てを刑務官の号令で送る年月、曜日や時間の感覚が麻痺してしまい、極度の"指示待ち族"になってしまう状況も大きく影響しているでは?と話してくれた関係者がおります。
高齢者の出所者、引受人となる親族が無く天涯孤独になるケース、再犯者や累犯者と聞いております。
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at 2007-04-17 09:07
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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