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昨年6月、東京・板橋で当時15歳だった高校生の長男(現在17歳)が両親を殺害した後、部屋にガスを充満させて爆発させた事件の裁判が今月1日、東京地裁で開かれ、栃木力裁判長は、懲役14年の判決を言い渡しました。 16歳未満の少年事件としては、これまでにない重い判決に、思わず目を疑いました。 判決によりますと事件の内容は、05年6月19日午後11時頃、父親からテレビを見ずに勉強しろと強く言われた少年が激しく口答えすると、父親が少年の頭を手で押さえ左右に振りながら 「おれはお前と頭の出来が違うんだよ」 などと言われ、少年は抑えていた憎悪と怒りが一気に高まり殺害を決意した。 同時に、父親を殺すと、日頃から 「死にたい」 などともらしていた母親だけを残すと可哀そうと母親も一緒に殺して楽にさせてあげようと考えた。 そこで、少年は就寝中の父親の頭部を鉄亜鈴で6,7回打ちつけ、首を包丁で刺して殺害し、更にテーブルの下に逃げ込んだ母が力尽きるまで数十回刺し続け殺害した。 その後、遺体が放置されることを懸念し、ガスを爆発させ、火葬するとともに周囲に気付かせようと考え、電熱器の上に殺虫剤のスプレー缶を置き、テーブル下に油を撒き、ガス管を切断してガスを噴出させ、タイマーを電熱器にセットして家を出た。 その足で映画を見た後、軽井沢、草津町へ行き、それぞれ一泊した後、逮捕された、というものです。 判決を見る限り、少年の犯行は、強い殺意をもって計画的に行われ、執拗、残忍なものであり、犯行後も反省の様子は窺えません。 しかし、犯行はその日の父親との口論だけで起こったものではなく、そこに至るまでの長年積もり積もった父親への反発と憎悪心がその日に一気に爆発したものだったことを裁判で認めています。 少年は、小学1年生の頃から、社員寮の管理人の父と母と少年の3人で暮らしてきました。 2年生頃からは寮の掃除などを手伝わされ、5年生になると賄いをする母の手伝もするなど、次第に手伝いの仕事が増え、それに時間をとられて学校の成績が落ち始め、中学になると部活動にも参加せず帰宅し、休日も夏休みもなく手伝わされました。 父親はきちんと仕事の必要なことを教えもせず、仕事の出来具合だけを見て、少年の心を傷つける言葉で面罵するなど高圧的な態度や行動を見せたり、また、少年にとって精神安定剤のようなゲーム機を父親に取り上げられたり、壊されたりするなどのことがあり、高校の同窓生に 「父親は自分を馬鹿にしている、愛されていないので殺してやる」 などと以前から殺意を漏らしていたことも裁判で明らかになりました。 しかし、少年は、家では家事をよく手伝い、学校では、真面目すぎるくらいの生徒で、事件6日前に初めて1日無断欠席をしただけと学校長が語っているくらいで、非行らしい非行もありませんでした。 ところが、栃木裁判長は、「両親に少年への教育的配慮を欠く不適切な面があったことは否定できないが、少年が両親による虐待や不適切な養育を受けたとは認められず、親子関係の持ち方に問題があったと評価しうるだけ」 とし、両親が長い間、少年の心を追い詰めてきた責任についてはほとんど触れず、犯行が 「短絡的な動機に基づいて計画的に敢行された」 ものだと断じました。 その上で、事件の応報と責任を求める成人の刑事裁判と同じように 「行為の重大性を認識させ、その責任を自覚させるため、行為の重大性に即した刑罰を与えることが必要である」 と述べています。 その一方で、少年が 「事実を認めて被害者遺族、寮関係者、近隣住民らに謝罪文を送ったこと、被害者遺族の処罰感情はそれほど厳しくないこと、少年の母方伯父夫婦が将来少年を受け入れると述べているなど、少年のために酌量すべき事情も認められる」 ので、無期懲役刑に相当するところを少年なので、懲役14年にしたとも述べています。 この判決文からは、平成13年4月から施行された改正少年法によって、刑事罰の対象が犯行時16歳以上から14歳以上に引き下げられたことや、近年、少年犯罪の凶悪化が目立つことへ厳罰主義を求める風潮に配慮したものように感じられ、私には、少年の健全育成を目的とした少年法の趣旨に沿った判決とは、とても思えないものでした。 判決の主文には、「未決勾留日数中400日をその刑に算入する」 とあります。 これは、少年が家裁の観護措置決定によって少年鑑別所に収容されて以来、家裁から事件が検察官に送致、起訴され、そして第一審判決の日まで1年以上も拘禁されていたことを意味し、その間、拘置所の単独室に拘禁され、学校の教育は受けられず、「逃亡と証拠隠滅防止」 を目的に拘禁されていたのです。 少年の刑事事件では、事案の真相解明のために裁判所は 「家庭裁判所の取り調べた証拠は、つとめてこれを取り調べるようにしなければならない」(刑事訴訟規則277条) とあります。 少年は、家庭裁判所の段階で犯罪事実を既に認めています。 目だった非行歴のない少年に、余罪などそれ以外の新事実が出ることは考えられないのにこれほど長期間、勾留する必要があったのでしょうか。 また、少年の刑事事件の調査に当たっては、人間行動や人間関係について科学的知識を活用しなければならない(少年法第50条、第9条)のに、判決では、「少年の性格・資質には大きな問題がある」 としながら、これを裏付ける精神鑑定は行われませんでした。 と言うことになりますと、この400日がどう裁判に生かされたのか気になるところです。 長期の実刑を言い渡しやすいように17歳まで置いておいたのでは、という悪い冗談も耳にしました。 懲役14年という年月が少年に与える影響も憂慮されます。 栃木裁判長は、何故、少年が30歳近くなって出所する姿を描けなかったのかと思うと、なんとしても気の重くなる判決です。 今回の判決のまま刑が確定すれば、少年は、刑務所としては格段に処遇の充実した少年刑務所に収容されるでしょう。 また、成績次第では、刑期の7~8割を経過した時点での仮釈放もあり得るでしょう。 しかし、刑務所がいかに受刑者の社会復帰処遇に真剣に取り組んでも、矯正教育が目的の少年院とは違い、懲役刑は、違法行為に対する社会の処罰感情の現れであり、自由を剥奪して社会防衛に役立てるという目的が優先するのは否定できません。 平成17年末現在、全国の少年刑務所で服役中の少年は63人(うち5人は女子)で、少年と同年齢層の16~17歳の男子受刑者は5人、18~19歳が58人(うち5人は女子)です。 また、刑期10年以上(判決時点での刑期)の少年受刑者は3人です。 最も、憂慮されることは、少年は服役後、しばらくは事件の反省はするでしょうが、直接の被害者は死亡しており、謝罪する相手も償う相手もいないとなると、長い服役生活の間に、次第に、反省心も風化し、自己嫌悪の気持ちが増す可能性は否定できません。 このようなことが危ぶまれる心理的な状況に加えて、リンチ事件などの傷害致死事件、強盗致死傷事件、強盗強姦致死事件が過半数を占める少年受刑者たち(平成17年末で44人)の中で揉まれ、次第に悪化する危険性さえも否定できません。 現在、少年を引取る意思を示している親族も、中卒で全く職歴のない30歳近い前科持ちの男を自立させるのは大変なことでしょう。 将来が心配です。 にもかかわらず、裁判長は 「これにより社会が納得し、将来被告人(少年)が社会復帰した際、社会が被告人を受容し、ひいては、被告人が社会で健全は社会生活を営むのに資することになると考えられる。」 と判決文で述べています。 この判決について、神戸播磨連続児童殺傷事件の少年審判を担当した井垣康弘氏は、「犯した行為の重大さを認識させ、責任を自覚させる前提として、念入りな性格の矯正がいるが、刑務所の手には余るだろう。 生み直し、育て直すほどの手間ひまと専門的かかわりが必要だ」 と保護処分相当事件だと述べています。(06年12月2日付 朝日新聞) ★07年12月17日、東京高裁は、少年に懲役12年を言い渡しました。 新聞報道によりますと、一審後、少年が反省の姿勢を強めていること、両親からの虐待を勘案したこと、が一審よりも2年減刑した判決の主な理由です(07年12月18日付 朝日新聞)。 しかし、少年法の精神からすると、疑問の残る判決です。 犯行から2年半、法律論争に翻弄されて、更生がなおざりにされてきた印象が拭い切れません。
by dankkochiku
| 2006-12-08 14:01
| 刑務所を考える
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Comments(4)
>刑事罰の対象が犯行時16歳以上から14歳以上に引き下げられたことや
改正前少年法20条は「決定のとき16歳に満たない者」に対する逆送を禁じてる規定を置いていましたが、これの反対解釈からも明白ですが、「犯行時14歳または15歳で、審判時に16歳以上の者」に対する逆送は以前から(実務上は別として)条文上は認められていました。 板橋事件の少年は、逆送時に16歳に達していましたから、正確にいえば、改正前少年法の範囲内です。厳罰化の流れや少年法改正の「趣旨」に沿う判決であることには異論はありませんが、この判決については、一応は改正前少年法の範囲内なのです。マスコミ報道から誤解しがちですが。 なお、この事件の判決の数週間前には、佐賀地裁にて、15歳時にゲーム店の店長を刺殺し、成人になった後の24歳で逮捕・起訴された男に懲役6年(求刑懲役8年)の判決が出てきます。
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このブログでは、少年法第20条の手続きについて問題視していません。第55条に規定する「保護処分に付するのが相当であると認めるとき」の解釈について、保護処分が相当ではないかということです。 第1審判決理由からは、成人の刑事裁判における量刑論とほとんど異ならない気がします。
たしかに保護処分でもよかったかもしれません。今回の控訴審判決のように虐待の影響が認められたのであれば。
大澤弁護士はこんなことを言ってますが。 http://www.hoosoo.tv/Default.aspx?tabid=58&v=01-c64abc31-9593-4af5-add1-a69cd6402383
両親の虐待を否定した一審の判断を 「評価を誤っている」 と、虐待を認め、また、少年の反省に論点をおいた判決のようですが、どうも歯切れの悪い判決です。
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