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ご存知、ロッシーニの歌劇、「セヴィリアの理髪師」 の中のアリアで音楽教師役の男性低音歌手が歌う場面です。
♪陰口はそよ風のように 初めはデリケートで感じないほどのそよ風が 小声でこそこそ言いながら 人の耳から耳へと 人づてに伝わるうちに 騒ぎは次第に大きくなり あちこちに飛び火して 遂には雷鳴、嵐のように 拡がり 大気を響かせる♪ という内容の歌です。 このアリアがいつも聞こえてくるような気持ちになるのが塀の中です。 受刑者たちは、新聞、ラジオ、テレビで毎日、社会の情報に接していますが、高さ5メートルほどの塀に囲まれた中のマスコミ情報では実感が湧かなのです。 では、自分が服役する刑務所内のことならば、何でも間違いなく分かっているかというと、これも所内で行動が制限されておりますので、自分のブロック以外のことについてはあまり分からず、伝聞情報が氾濫しやすいのです。 このような情報不足を補うかのように、いろいろな噂話が行き交い、次第に真実味を帯び、確信するまで話が膨らんでいくことがあります。 伝言ゲームで最初の人と最後の人とでは、伝言の内容が随分と変形しているのと同じです。 それでも家族と接触のある人の多いA級系施設ではそれほどではありませんが、手紙、面会が途絶えた人の多いB級系の施設では、「えっ!まさか」 と職員が絶句するような噂、一笑に付すような事実無根な噂が受刑者たちの間では広く話題になり、信じられていることがあります。 例えば、昭和天皇重体と報じられた頃、「天皇様はご健在ですか」 と真面目な顔でたびたび尋ねられたある職員は、最初は、受刑者たちが陛下の病状を案じて尋ねにくるのかと思っていました。 しかし、やがて受刑者たちの本当の関心事は、天皇大喪には受刑者にも恩赦があるという噂がかなり広まっていたことが分かったと話していました。 この時は、ほとんどの受刑者には恩赦が該当しないことが報道されると、落胆とともに噂もすぐ消滅しました。 しかし、中には、いくら職員が否定しても本気にしない噂話もあります。 受刑者にとって大きな関心事でありながら、情報源が確かめられないような噂話です。 「ほかの人間もそう言っている」 「それを見た本人から聞いたものだ」 などと言い張られると、中々、それを否定するのは難しいことです。 噂話がすべて嘘ならば、否定のしようもあります。 しかし、事実と伝聞とを混ぜ合わせた噂話では納得させ難く、いい加減にして放っておくと、今度はどうも本当らしいという噂になって流れ、始末に困ります。 しかも、噂話によっては、長年にわたって口伝えされ、出所後、社会に伝えられるものがあります。 その例として、このブログに以前、寄せられたコメントから引用させていただきます。 あれが、検診といえますでしょうか? 聴診器を胸に当てて、ポンポンポン。約10秒・・・ 聴診器が耳の穴に入っていなくて 「先生、聴診器が耳に入っていませんよ」 と受刑者が問うと、その者が懲罰になってしまった。 大阪刑務所での実話です。 このコメントの内容が事実かどうかは、その証拠を持ち合わせていない私からは何とも申し上げられません。 しかし、私は、30年以上も前に大阪刑務所とは別のB級施設でこの 「実話」 なるものを受刑者たちとの集会の席で聞いたことがあるのです。 ただ、その時の話は、これと少し違ったものでした。 「受刑者から指摘された年寄りの医者は、これでも分かると弁解しながら、聴診器を耳に入れ直したそうです」 という違う落ちでした。 受刑者は病気に罹ること、持病が悪化することを最も恐れていますが、その一方で、刑務所医療への不安感、不信感を払拭できず、かといって、刑務所の医療体制に対して正面切って問い質し、抗議できない八方ふさがりの状態の中で、受刑者たちが抱く共通の感情を利用し、出所のつかめないような噂を広げ、刑務所体制を中傷し、ウップンを晴らそうとこんな噂話がいつまでも絶えないのです。
by dankkochiku
| 2006-11-11 21:53
| 刑務所を考える
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Comments(2)
Commented
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tomahawk_attack at 2006-11-26 20:39
「刑務所医療に対する受刑者たちの不信感」ですか?ウ~ムですね。。。
私は小さい人間なものですから?犯罪被害者らも、彼らと同じ「気持ち」を共有できるだろうかと?ふと、そんな思いにかられました。。。
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dankkochiku at 2006-11-26 23:07
刑務所に入ると、こんなうわさ話を飛ばすことでしか、うっぷん晴らしができないのかも知れません。
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