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古今東西、犯罪の防止にはさまざまな取組みが行われてきました。 残酷な刑罰を科し、公開処刑して民衆を威嚇し、犯罪を思いとどまらせようとする国は現在もありますが、これは最も古くから行われてきた方法です。
しかし、死刑中心に刑罰を科しても一向に犯罪が減らないことが分かりますと、次の策として再犯防止を兼ね備えた刑罰に目を向けました。 近世ヨーロッパ諸国では政治犯、重罪犯に対して地下牢で終身刑が行われました。 江戸時代には、耳鼻をそぎ落としたり、イレズミを入れたり、額に焼印をして前科者であること示して、人びとに警戒心を持たせ、前科者の再犯を防ごうとしました。 イスラム法国家では、手首を切断するなどの身体刑が現在も行われています。 これに対して、人道的な見地から反対が高まりますと、次は常習累犯者対策に向いました。 例えば、米国では、16世紀のドイツで3度目の窃盗には大小にかかわりなく死刑としたカロリナ刑法にヒントを得たのか、1994年にどんな微罪でも3回目の犯罪には終身刑もいとわない 「三振法」(野球の三振アウト法) を連邦法に追加しました。 しかし、これらの犯罪防止対策は、受刑者をただ無害化して再犯を防止する効果はあるとしても(その効果の程は実証されていませんが)、受刑者の人権を尊重して、改善・更生させることによって社会を犯罪から守るという思想に欠けています。 犯罪者は、罪を償った後でも、前科者と言うだけで生涯、社会から追放した 「非人」 制度とあまり変わりありません。 これでは、犯罪者の道義的責任や社会的責任を問うはずの近代刑法の意味が失われてしまいます。 こうした刑罰政策の流れの中で、刑務所の目的は、犯罪者を隔離して、当面、犯罪の拡散を防ぎながら、最終的には、改善させて社会復帰させるための教育に重点を置くべきだ、という思想が有力になってきました。 この思想を先駆的に実行に移したのは少年犯罪者に対してです。 わが国では、明治以後、法律によって少年受刑者には教育を重視してきました。 そして教育の成果を得るために、少年には、一定の期間を決めて言い渡す定期刑のほかに、裁判官が刑期に下限と上限の幅を持たせて言い渡し、改善の程度や釈放後の保護状況を見ながら、その刑期の範囲内で、刑務所と更生保護機関の判断で仮釈放ができる不定期刑が広く行われるようになりました。 この少年受刑者への不定期刑制度を成人受刑者、特に常習累犯者にも適用することを提案したのが、昭和49年に発表された刑法改正案でした。 当時、わが国は、高度経済成長期にあって完全失業者は100万人未満、国民所得は増加の一途を辿っておりました。 交通関係の業過事件を除けば、犯罪発生率は戦後最低の水準にありました。 大きな事件と言えば、学生を中心とした過激派の抗争事件が頻発していました。 そのさなかに犯罪となる行為の範囲を著しく広げたり、以前よりも刑罰を重くする内容の刑法改正案が出されたものですから、これには何か別の意図が隠されているに違いない、国家権力を強化し、国民の人権抑圧につながる悪法であると、各界から一斉に反対の狼煙が上がりました。 その結果、この改正案は、立法化されることなく立ち消えになり、常習累犯者への不定期刑制度も日の目を見ませんでした。 刑務所を出所する受刑者の中には、直ぐにでも再犯への道を歩むと思われるひとが少なからずおります。 殺人、強盗、放火、強姦など生命、身体に危害を与える凶悪犯罪で入所した受刑者の半数近くは累犯者であり、その40%近くの者が前回もこの種の凶悪犯罪で服役しています(昭和63年版犯罪白書)。 犯罪の情状、刑務所での行状、出所後の保護環境などが悪いとの理由で、刑期満了後に出所した満期釈放者たちの出所後5年以内の再犯率は60%を上回っています。 ですから刑期を終えて出所する以上、再犯の危険性がいくら高くても刑務所に押しとどめておけない、歯がゆい思いを刑務所の職員はいつもしています。 改正刑法案に盛り込まれた常習累犯者に対する不定期刑については、法律論からの反対意見だけは目につきましたが、では、この再犯者の多い現実を前にして、受刑者にどう対処すればいいのかという提案が全く示されなかったのは今でも残念に思います。 平成18年から新しく施行された受刑者処遇法(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律)では、受刑者に改善・更生を目的とした矯正処遇を義務付けています。 しかし、矯正処遇の成果が現れず、もう少し処遇を続けたい、あるいは、あと少しすれば、家族などの保護状況が好転すると思われるケースでも刑期が終われば矯正処遇を中断せざるを得ません。 しかも、この場合、仮釈放が許可されませんから、出所後の保護観察も付けられません。 こうした問題を解決するには、三つの方策が考えられます。 第1の方策は、現在よりも長期の刑期を言い渡し、矯正効果を見て仮釈放を許可する方法です。 この方向を進めた米国では、刑務所がどこも収容過剰状態を招きました。 そこで、刑務所の新設と職員の増員による国家予算上の負担を軽減するために、民営刑務所を全米各地に作りました。 わが国でも、近年、重罰化の傾向にありますが、これが再犯防止に役立つとは、まだ実証されていません。 第2は、定期刑に加えて必ず保護観察の期間も言い渡す方法です。 しかし、保護観察は刑法にある刑罰でないので、宣告された自由刑の期間の後に保護観察期間を付けて言い渡すのは、保安処分に当たり、現在の刑法の下では認められないと、法律学者は反対します。 第3は、刑務所、保護観察所、警察が協力し、特に、凶悪犯罪受刑者に対して出所後の行動監視システムを作ることです。 平成4年から施行された 「暴力団対策法」 に基づいた暴力団組員の出所情報、その翌年からは、重大・凶悪犯罪受刑者の出所情報と保護観察中の仮釈放者の所在情報を法務省から警察庁へ提供することになりました。 米国では性犯罪の出所者の体にGPS監視装置の取り付けを義務付け始めました。 しかし、この方法は、仮釈放期間中には適用できても、罪をあがなったはずの満期釈放者には人権を侵す恐れがあります。 第1の重罰化政策は、受刑者人口を増やすだけであり、累犯を減らす対策にはつながりません。 近年、この方向にある日本も米国同様、受刑者人口は増加の一途をたどっています。 受刑者の一日平均人員は、平成18年は約6万9千人で、10年前の約1.8倍に増えており、この分では今後5年以内にも10万人に達すると予想さfれていますが、出所者の再入所率には大きな変化が見られません。 第三の政策は、出所者の行動を監視し再犯を一時予防する効果があるかもしれませんが、出所者の社会適応を支援する方策が並行しない限り、社会から疎外し、再犯を待って刑を科す以外にはありません。 社会適応力がないために累犯化するおそれのある出所者の保護、福祉が必要であるならば、例えば、保護観察処分を刑法の刑罰に加えるなど、第二の政策を改めて検討する時期にきているのではないでしょうか。
by dankkochiku
| 2006-09-20 11:48
| 刑務所を考える
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Comments(8)
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georgeoo at 2006-09-23 12:50
刑務所で服役して出所した人のうち更生して社会復帰した人と、常習累犯者の割合と言うのは統計であるのでしょうか?今のシステムでは社会復帰できず常習累犯者となっている人の割合を減らすには大変な手間と金がかかるのでしょうし、ゼロにするのは不可能、と言うことで、どれだけの手間と金をかけてどこまで割合を減らすのかと言う議論になるのではないでしょうか。
又失うものがない人は犯罪を繰り返す傾向にあるのではないかと思いますが、そういう人は訓練や教育で更生させるのは難しく、結局出来るだけ刑務所に入れておくしかないのかと。 失うものが多いと思われる例の手鏡教授の行動は理解に苦しみますが、、、、
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dankkochiku at 2006-09-23 22:55
georgeooさんのご質問からお答えします。
出所者の更生率は分かりません。 精々、仮釈放期間中(大体1年以内)ならば分かる程度です。 わが国が出所者をいつまでも追跡監視す警察国家ではないからです。 しかし、再犯率の統計はあります。 検挙者について初犯・再犯者、前回処分内容、前科数などは警察庁の犯罪統計書にあります。 刑務所入所者については法務省の矯正統計年報に掲載されています。 今回のブログでの 「常習累犯者」の統計数値は、昭和63年度版犯罪白書掲載の 「犯罪常習者」 からの引用です。 常習累犯者への不定期刑が駄目ならば、お説のように長期刑を科すしかないと思います。 しかし、米国の 「三振法」 に対して、違憲判決がでましたように、犯罪の内容、軽重にかかわらず、常習累犯者を一律に長期刑、終身刑にするのは問題でしょう。 また、加齢によって犯罪をする元気もなくなってから釈放し、出所後、老人ホームに入所させるのも手間と金のかかる話しです。 しかし、出所するたびに、被害者が悲惨な思いをするのだけは避けなくてはなりません。 コメント有難うございました。
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georgeoo at 2006-09-27 00:49
米国の「三振法」は笑っちゃうくらいお粗末な法律でした。でもこれが執行された時米国内では結構支持されてました。三振法の問題点はおっしゃるように罪の度合いにかかわらずと言うところでしたが、アメリカのように犯罪が多いといちいち一つ一つのケースを時間をかけてReviewして対応する事は不可能なので、三振法がだめなら常習累犯者はどーすれば良いのと言うのは依然として問題です。
最近高齢の犯罪者に死刑を言い渡さなかった例がありましたが、これも変な話ですよね?80歳超えたら死刑相当の犯罪を犯しても天寿をまっとうできる???日本の裁判官は不思議なロジックをお持ちと感じた一例でした。
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dankkochiku at 2006-09-27 09:43
89年の熊谷市保険金目的放火殺人事件ですね。 主犯が無期刑なので死刑ではバランスを欠くというのが理由でした。 裁判官は難しい判断を迫られ、苦慮したのでしょう。 それに敬老の日、彼岸と続いた後の裁判でしたから?(笑)
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tomahawk_attack
at 2006-10-04 20:01
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テレビでボケさせない様に?高齢受刑者に対し涙ぐましいくらいの声掛けや指導をしているのを何度か見ましたが、刑務官に頭が下がる思いで見ました。確か女性の方だったと記憶します。と同時に一方では?何で受刑者に?ここまでせにゃあかんのか?という感想と拮抗しながら見ていました。。。
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dankkochiku at 2006-10-04 21:15
高齢受刑者が年々増加中です。 昨年1年間に入所した受刑者のうち65歳以上が約5%(1597人)を占め、前年より約18%の増加です。 高齢者に多いのが医療や介護を必要とするするひとたちです。 施設によっては、バリアフリーにリフォームしました。 中には、自分が刑務所にいるのかどうかも分からないひといます。 こんな人に限って身元引受人がいないで困ります。
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georgeoo at 2006-10-07 21:05
高齢の死刑囚が死刑執行前に施設で死亡した場合、例えば施設がまだバリアフリーか出来てなくて段差で蹴躓いて頭打って死んだら、刑務所や国や県が責められちゃうんですよね。
犯罪者や服役者の人権問題はアメリカでも良くニュースになりますが、難しい問題ですね。 でもあまり居心地を良くしちゃうと生涯厚生年金を払って来なかった人たちが老後の住処として刑務所を選んじゃうようなことになってしまうんじゃないかと。
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dankkochiku at 2006-10-07 23:30
すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利があると憲法が認めていますから、困ったことですが仕方ありませんね。 刑事施設が福祉施設になるのも現実的になってきました。
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