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「模範囚」 という言葉は、今ではあまり使われなくなりましたが、刑務所職員の間では、やや皮肉を込めて、あまりいい意味では使われていません。 犯罪傾向の進んでいない初犯者の多いA級系施設ではほとんど使われず、もっぱら累犯者の多いB級系の施設に見かけるタイプの受刑者です。 仕事の段取りをうまくこなし、受刑者仲間からの難題も適当に受け流して争わず、忙しい職員の気持ちをいち早く察し、こまめに手助けし、口数も少ないので職員の受けがよく、経理夫(職員の助手として、図書館の整理、病室の清掃、作業技術の指導、工場巡回の理髪夫などの受刑者)に抜擢されるような受刑者です。 もちろん懲罰とは縁がないのが普通で、累進処遇制度があった頃は、1、2級の上級者と呼ばれて、就業後は、舎房内の個室の鍵は就寝まで開け放しで、自由に部屋を出入りすることが許されていました。 模範囚と似た言葉で、少し意味の違うものに 「太郎」、「累犯太郎」 があります。 以前は、「監獄太郎」 と呼ばれたタイプの受刑者で、受刑生活のうらおもて万端にわたって、知り尽くしているような顔をしています。 皆が知らないことを自分だけが知っていると思わせたいのです。 どこから情報を得てくるのか、幹部職員の異動まで早くから予想するなど情報屋です。 「今度くる所長は誰だ?うちの首席はどこへ転勤しそうか」 などと面白がって看守たちからも聞かれます。 肩書きは同じ副看守長でも、看守からのたたき上げと国家公務員試験I種合格者とを区別し、「係長さんはエリートだそうですね」 などといって虚栄心をくすぐりながら、迂闊なことは聞けない相手かどうか、確かめ警戒します。 靴工場を巡回しますと、「先生、靴が汚れています。ちょっと磨かして下さい」、縫製工場へ行きますと、「あっ、上着のボタンが落ちそうです。付け直しましょう」、木工工場では、 「肩にノコギリ屑がついていますよ」 と言って、大して汚れてもいないのに後ろから払ったりします。 衆人環視の工場内で、こんな誘惑に乗ってくるわけがないことは重々承知で、職員に気安く話ができることを仲間に見せたいだけなのです。 「模範囚」 は、職員に忠実に接しようとするあまり、受刑者仲間からは 「チンコロ」(チン 犬) と陰口を叩かれたり、不正な要求を迫られ、返事を左右してかわそうとして暴行を受けたり、物を隠されたりとイジメの対象になるおそれがあり、経理夫だけの部屋で生活しています。 一方、「太郎」 の方は、ニコニコして職員に言い寄って来ながら、職員の揚げ足取りには抜け目なく、職員のミスを不正であるかのように誇大に吹聴して回り、仲間との連携を求めてすばしっこく動き回り情報を集めます。 仲間の人気者でありながら、あまり信用も得ていない 「ぺら」(ぺらぺら喋る)と呼ばれる連中で、懲罰を受けても応えない悪太郎です。 では、刑務所では問題がなく、職員から信頼を得ている 「模範囚」 は、出所後は 「模範市民」 になるのでしょうか。 あるB級施設で、3年間にわたって1年ごとに出所した受刑者、合わせて2553人について調べましたところ、出所後5年間に再入所した者は1405人(再入所率55%)おりました。 そこで、再入所した者と再入所していない者 -更生した者とは言い切れませんが- についてそれぞれ在所当時の記録を調べました。 その結果、前の刑で服役中に懲罰歴のあった者には再入所者が多く、特に、懲罰5回以上受けた者では高い確率で再入者が多く見られました。 また、出所時の累進処遇級(現在、累進処遇制度は廃止)が1,2級者(上級者)と、その対極的な行状不良の4級者(最下級者)とを比較しますと、確かに4級者には再入所率が高かったのですが、上級者とそれ以下の3,4級の者と比較しますと、上級者だったからと言って再入所率が低いとは言えないことも分かりました。 この調査の結果から、所内の行状が悪く、懲罰事犯の多い者には、出所してからの生活に失敗し刑務所に戻ってくる確率が高いので、出所後、十分な保護が大切なことが分かります。 同時に、模範囚だから更生できるだろうと安心して、経理夫として職員の手助けに使うだけで、社会復帰のための処遇から外すようなことがあってはならないことも教えています。 ある1級の男は、23歳の時から45歳までの間に詐欺、横領、窃盗などで7回目の服役中でした。 初犯のときからいつも、真面目なところが買われ、受刑者仲間からは羨ましがれる印刷工や経理作業に配置され、毎回、2級まで進級して仮釈放で出所していました。 知能は中の上クラスで、定時制高校を卒業後、事務員になり、結婚・同棲歴が3回ほどあるサラリーマン風で、前回出所後も、事務所に就職できたのですが、勤め先から預かった現金を横領し、わずか2か月で逮捕されました。 この男に上級者になるコツは何かとたずねました。 答えは、「自分から何でもやっていき、他人に頼らないこと」 「相手を見て、行動すること」 「仲間との対人関係はうまくやり、相手に逆らわず、説得して、頭に来ないようにすること」 、「職員との関係はあまり気にしないこと」、でした。 会社勤めをしている普通のサラリーマンの方にも、全く当てはまる模範解答です。 では、何故、刑務所では問題のない彼が、犯罪などするのか尋ねました。 「経済的にピンチになりますと、自分だけの事を考え、非常識な行動を起こしてしまいます。 犯罪を犯す前には、必ず勝負事で経済的なピンチを切り抜けようとします。 それが生活のリズムを狂わせてしまいます」。 確かに、刑務所の中では、経済的にピンチになることはありません。 これだけ問題を自覚している懲役3年半のこの男への矯正処遇、何かできそうな気がしませんか。 ★上の調査について詳しいことは、日本犯罪心理学会誌 Vol.32 .No.1 「B級男子釈放者の予後調査」 をご覧下さい。
by dankkochiku
| 2006-06-30 21:21
| 刑務所を考える
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