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平成18年5月から施行された通称 「受刑者処遇法」(刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律)には、これまでの 「監獄法」 にはなかった新しい条文が多く盛り込まれています。 主なものとしては、①民間人による刑事施設視察委員会の設置、②受刑者の権利・義務と職員の権限の明確化、所内の規律・秩序維持のための遵守事項と規律違反に対する懲罰の要件・手続、受刑者の特性に応じた矯正処遇、外部交通の拡大、③不服申し立て制度など人権救済制度の整備、④年1回以上の定期健診など医療水準向上、があります。 このことは、明治時代の旧憲法の下では、受刑者には人権などあり得ず、刑務所は懲らし めの場であり、刑務所の恐ろしさを教え再び犯罪を起こさないように威嚇する場と考えられ、従って、管理や保安に重点がおかれ、受刑者の人権や教化や更生についての配慮にとぼしかった監獄法時代に終止符が打たれたことを示しています。 とは言っても、新法の発足と同時に、すべてがいっぺんに法律どおりに機能するまでには、-特に、職業上有用な作業の確保、医療水準の向上には- 時間がかかるでしょうが、それでもわが国が、前回、紹介の欧米先進諸国がすでに行刑(ぎょうけい)の密行主義を排して、行刑の法律化、社会化を進めてきた水準に骨格だけでも、50年遅れてやっと到達しました。 この新しい法律に対して、ホンネが語られるホームページを拾い読みしていますと、特に、不服申し立ての規定、職員の同行なしの7日以内の外出・外泊、電話での外部との会話などについては批判的な見解が目立ちます。 受刑者を虐待するのは良くないし、改善に力を入れるのは当然としても、他人の権利を踏みにじり、被害者は苦しみ、悲しみが癒されないうちに、税金を使いぱなっしで自分は払わないような連中の人権を認め、生活条件を緩めるなど甘やかせてもよいのか、これでは普通のサラリーマンよりも待遇が良くはないか、刑務所にいた方が気楽でいいと言い出すものが出てはこないか、などといった記事が見受けられます。 事実、このような犯罪者に対する市民の憎悪と報復感情に支えられて、明治時代の旧憲法下で作られた監獄法が今日まで100年近く、改正もされずに存続できたのです。 しかし、現在の憲法下では、受刑者といえども、刑罰としての拘禁による制約を受ける以外は、すべての基本的人権を享有することが妨げられず(第11条)、個人として尊重され(第13条)、いかなる奴隷的拘束も受けず(第18条)、健康で文化的な最低限の生活を営む権利があり(第25条)、決してアウトローの人間ではないのです。 また、昭和54年にわが国が批准した国際人権規約にも、「自由を奪われたすべての者は、人道的にかつ人間の固有の尊厳を尊重して取り扱われる」 こと、「行刑の制度は被拘禁者の矯正及び社会復帰を基本的な目的とする処遇を含む」(第10条)こととあります。 出所者の半数あまりが程なくして刑務所に舞い戻ってくる現状をなんとしても減らすためには、彼らを抑えつけ萎縮させるよりも、制約を緩め(つまり、人権の幅を広げて)、自立心と責任感を持たせる余地を広げ、矯正教育を受けさせることが新しい法律に盛られています。 また、この法律は、施行後5年以内に再検討することになっていますから、改正する余地があります。 例えば、この法律の基礎となった 「刑事施設法案」 では、受刑者の居室は単独室とすることが当初から明記されていましたが、新法では何故か削除されています。 そのほか、刑務所の規模についての規定もありません。 いくらよい矯正処遇が試みられても、定員が千人を超える施設では、どうしても個別的処遇よりも管理が重視されるでしょうし、前科者を多く収容する刑務所では、悪の温床になりやすい雑居室の生活は絶対に廃止すべきだと思います。 作業についても、職業上有用な知識と技能の習得を目標とした作業だけではなく、生涯にわたって創る喜びを味わえる技術を習得させ、自分の収入にもなる自己契約作業とすることも勤労意欲を高める上で必要ではないでしょうか。
by dankkochiku
| 2006-04-25 23:59
| 刑務所を考える
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Comments(6)
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尾塚野 形
at 2006-04-27 13:01
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お久しぶりです。お説のとおり、一連の刑事施設法が施行されようとしています。
昨3月下旬に、新設される塀のない刑務所・”美祢社会復帰促進センター”を取材しました。甲子園球場が優に7個も入る広大な敷地では、来年4月からの運用開始を目指す工事は、早くも基礎作業を終えて、鉄筋作業に入っていました。 収容人員は男女各500人で、A級(準初犯などの再入者は含めない)で、残刑期が1年半以下とされ、かつ、身元引受先が確実な者とされています。これを、一部ではSA(スーパーA)級と名付けてているようです。 このセンターについて、メディアなどは民間運営型刑務所のハシリなどと言っているようですが、私が見る限り、その実像は官主民従 型刑務所としか思われません。 なぜならば、現行の大型施設の組織体制と同じように、5部制を敷き、各課首席、統括などの幹部は全て刑務官が占めるようだからです。 これでは、運営開始当初から、官と民との職員間で多くの軋轢が生じることは必至でしょう。 詳しいことは、5月7日発売号の月刊誌に掲載する予定です。
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dankkochiku at 2006-04-27 21:05
尾塚野 形さま。 いつもお読み頂きありがとうございます。 ご取材の成果を期待しております。
PFI手法の刑務所運営には、諸外国でも、英米のように、運営をすべて民間に委託する民営刑務所型とフランス、ドイツのように拘禁などの保安業務は国で、そのほかは大体、民間に委託する型があり、わが国はフランス方式に近いもののようです。従って、民営または民間刑務所という報道は誤解を招きます。
再び失礼します。興味深い話です。受刑者の人権についてや、矯正についての話は職場でも話題になりますが、犯罪者、特に殺人犯なんかに人権なんてないという意見が大半です。刑は厳しくすべきだと言う意見が多いんですが、最近アメリカで、死刑決定後、ボランティア活動に精を出した死刑囚が死刑執行されたという事がニュースになってましたね(ちょっと詳しい話は忘れました。結局死刑にされたんですが、ボランティア活動に力を尽くしたという事で、評価できる話だと思います。)。映画、キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン(実話ですよね)の主人公の様に、刑期終了御、FBIに犯罪防止で協力する様になったというような、稀なケースではあると思うんですが、立ち直る方もいらっしゃると思うんです。こういう人間の良い一面に期待したいのですが・・・
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dankkochiku at 2006-05-03 10:33
受刑者の人権や矯正が話題になる職場、珍しいところにお勤めですね。
死刑にしたら元も子もありません。 犯罪防止にもなりません。 15世紀英国のヘンリー8世が王位にあった37年間に、7万2千人もの犯罪者が処刑されたそうです。毎年平均2千人、毎日平均5人。それでも犯罪は減らなかったというではありませんか。
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あっぽちん
at 2006-10-08 18:12
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定期健診:
あれが、検診といえますでしょうか? 聴診器を胸に当てて、ポンポンポン。約10秒・・・ 聴診器が耳の穴に入っていなくて 「先生、聴診器が耳に入っていませんよ」 と受刑者が問うと、その者が懲罰になってしまった。大阪刑務所での実話です。
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dankkochiku at 2006-10-08 20:39
監獄法では、入所時以外は、病気に罹らならなければ医師の出番がありませんでしたが、今回の法律改正で最低年1回の定期健診が施設に義務付けられました。 しかし問題は医師不足で、常勤医がいない施設もあり、前途多難です。
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