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百害あって一利なしとは、まさに犯罪を指しての諺のようだ。 犯罪白書によると、2012年(平成23)に生命・身体に被害をもたらす身体犯罪の死傷者数は3万1千人以上。 これは、人口10万人に24人が犯罪被害を受けている計算になり、そのうち死者は967人。 強盗、窃盗、詐欺、横領など財産犯罪の被害総額は、約1700億円(うち現金被害額は約763億円)にのぼる。
一つの犯罪でも、その被害者の数は、1人から何千、何万人にも及ぶ。 2008年の秋葉原通り魔事件では、10分ほどの間に、7人が死亡し、10人が負傷した。 同時多発テロを仕組んだ1995年の地下鉄サリン事件では、乗客、駅員ら13人が死亡し、6千300人以上が負傷した。 そのほか、不法投棄、水質汚濁など環境犯罪、インターネット利用者増加に伴うハッキング犯罪、サイバー犯罪になると、その被害は国内外に及び、無数の被害者を生む。 犯罪が起こると先ず警察が捜査に着手するが、捜査費用は決して軽視できない。 ちなみに、2008年度に国から都道府県警に支出された捜査費は計26億5,724万円、それに加えて、そのほぼ同額が都道府県から捜査費として支出されている(2010.9.11付。産経新聞社会部オンデマンド参照)。 しかも、これだけ多額の費用を費やしても犯人が検挙されればいいが、警察統計によると、2012年における凶悪犯罪の検挙率は77%で、刑法犯罪全体の平均検挙率は31%(前年もほぼ同率)に過ぎない。 中には、1968年に東京の府中で起きた3億円事件のように捜査費だけで7年間に9億円を費やし、その揚句、犯人未逮捕のまま公訴時効になったケースもある。 逮捕された被疑者は、検察官に送致されるまで最大72時間を留置場で過ごし、起訴されるまでの最大20日間の勾留期間を経て、起訴されると、第1審判決が出るまでの勾留期間中(2011年は、勾留総人員の22%が3カ月以上勾留)の生活費(食費、光熱水料費、医療費など)のほか、被告人のほとんどは経済的余裕がないので国選弁護人がつき、裁判員裁判事件裁判になると、裁判員それぞれに要する費用などが、すべてが国費で支払われる。 もちろん、ここまでの刑事司法の過程で、被疑者が微罪処分、不起訴になり、被告人が保釈、刑執行猶予処分、あるいは、罰金刑で終われば、その各時点で国の予算執行は終了するわけだが、2011年1年間に25,499人が裁判の結果、刑務所送りになり、同年末時点では、未決、既決被収容者を合わせて69,876人分の食費だけでも1人、1日当たり515円。 光熱水料費、医療費などを合わせると、全体で1,536円が国費から支払われている(犯罪白書、矯正統計)。 このうち、受刑者は、同年年末現在、61,102人おり、その刑期が1年以下の者は全体の4.3%(2,623人)に過ぎず、10年以上の受刑者が10.3%(6,351人)もいる。 法廷で懲役10年以上の刑を言い渡された時は、ガックリしただろうが、10年間以上、生活費を稼がなくても衣食住費の心配なく、医療も保証され、作業に就けば、僅かながらも報奨金が入ると考えると、どうだろうか? この年に入所した受刑者25,499人のうち、2度以上入所歴のあるもが16,344人(57%)を占め、この比率は、近年、大差がない。 しかも、入所歴6度以上の者が3,750人(15%)もおり、しかも、再入者のうち、出所後3か月足らずで再犯してきた受刑者が12%もいることを一般市民が知ったならば、いかに 「懲りない面々」 が多いかに驚くと同時に、彼らの生活を賄う善良な納税者たちは、まさに 「盗人に追い銭」 と腹立たしく思うに違いない。 では、刑務所に入れられるほどの悪党を減らすにはどうするかが問題だ。 刑罰の主流が死刑と流刑(島流し)で、刑務所のなかった江戸時代に、今さら、戻すことはできないが、刑罰を重くすれば、犯罪は減ると、誰でもすぐ思いつく刑事政策を実行した国がある。 クリントン米大統領時代に制定した州法で、野球用語から借用したいわゆる三振法(three-strike and you are out law)がこれだ。 これは、1年以上の拘禁刑の前科が2回以上ある者が3度目の有罪判決を受けると、その犯罪がいかに微罪であっても、終身刑にする法律だ。 この法律制定の背景には、1971年に同大統領が提唱した 「麻薬との戦争」 があり、多くの麻薬犯罪者が摘発され、刑務所人口が急増した対策として三振法が案出され、1994 年にカリフォルニア州で施行以後、24州以上で施行された。 では、この法律施行後、米国の刑務所の過剰人口は解消しただろうか。 否である。 1990年代以後、暴力犯罪は減り始めたが、反対に、増え続ける受刑者のうちの終身刑受刑者もまた増加し、収容定員オーバーが慢性化し、刑務所代わりに廃船まで利用したものの、どこも過剰収容が続き、収容環境の劣悪化は防ぎようもなく、看守の汚職と暴力、受刑者の麻薬使用、性暴力などが常態化した。 その一方で、莫大な刑務所経費も増え続け、市民たちの非難の的になった。 その対策として、ニューヨーク州では、州法で、薬物関連犯罪、窃盗罪、強盗で逮捕された全被告人に対して、個々人の経済状態にかかわらず、一律に法定手数料300ドル、囚人基金積立金25ドルの支払いを義務付け、一方受刑者には、刑務所内での安い労働賃金から部屋代と医療費を毎日2ドル差し引くという、日本では到底考えられない対策が取られているという。 これとは別に、米国では、レーガン大統領政権の新自由主義革命のもとでの規制緩和策によって、刑務所の管理運営や施設の所有まで民間業者に任せる民営刑務所が、刑務所の過剰収容と相まって、需要を増し、現在、100ヵ所以上もある。 こうして、ビシネス化した民営刑務所の経営者たちの関心事は、安上がりの受刑者労働による利潤追求だから、受刑者人口の減少は、収益の悪化を招くことになるし、一方、刑務官組合は職場維持のために、それぞれ政治家へ受刑者確保のための賄賂が流れ、その結果、米国の総人口は世界の5%だが、囚人数は世界の25%を占める200万人の 「囚人大国」 になり、この産業界と刑務所とが結託した 「産獄複合体」(Prison Industrial Complex)に反対する人びとからは監獄廃止運動まで起っている。 これが、犯罪対策に重罰主義で臨んだ国の実例だ。 我が国の刑務所行政は、これほど悪くはないが、かといって、受刑者人口の半数以上がリピーターという状態が長年にわたって収まらないのでは、矯正処遇を見直す必要があるだろう。 ☆米国の刑務所についは、Angela Davis:Are Prisons Obsolete? 2003.(上杉忍 訳 「監獄ビジネス -グローバリズムと産獄複合体」)と、堤未香: 「ルポ 貧困大国アメリカⅡ」 2010年を参照した)
by dankkochiku
| 2013-05-11 23:30
| 刑務所を考える
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Comments(5)
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at 2013-05-15 08:31
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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tomahawk_attack
at 2013-05-17 23:53
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今の日本は刑期がドンドン伸びています。特に危険運転関連と、レイプ絡みの事件などは別格の勢い、その他の犯罪も概ね科量が増えてます。。
裁判員裁判の施行となり、市民感情と裁判官の意識の隔たりが徐々に埋まって来ました。それ自体は喜ばしいことです。。 以前聞いたdankkochikuのお話に依れば、今日の犯罪の件数は、過去に比べるとかなり減少傾向にあるとされますが、その分、刑期の長さが増えているため、刑務所は何時も満杯なのだと思います。。 私は昨今にみる重大事件の多さより、凶悪なものには刑期の延長は已む無しと考える者でありまして、そこに異論はないのですが、少なくとも「軽い刑」、もしくは「初犯」などには、務署の出入りを繰り返さないようにさせる意識付けが大事であります。。 安易に出入りを繰り返せば、当然、科量も増える流れとなりましょうから、結果として刑務所に長期滞在する者が増えていき、満杯になるのであります。。
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tomahawk_attack
at 2013-05-17 23:53
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批判を覚悟で申しますが、敢えて言えば、初犯や軽い罪の場合などは、別段、刑期を科さなくても良いと思っています。その代わり受刑者のケツへの強烈な「百叩き」を見舞うのが条件でありますが、私はそれで十分と思います。。
なまじ短期で刑務所に放りこんでも、図々しい奴は「屁とも堪えず」、なんの反省もなく娑婆に帰って行くでありましょうから、直ぐにまた返って来るのであります。。(T。T) 私的には初犯のレベルは「百叩き」、もしくは「五十叩き」程度で十分と考えてまして、ようは見せしめれば良いんですよ。。 受刑者の受けたケツの痛みはその場だけで消えますが、叩かれたという記憶は痛みの記憶と共に複雑に絡みついて脳幹深く末長く残りますから、直ぐに戻ろうなどという気は起きないでありましょう。。 当然、刑務所の経費も節約できますし、長い目で見ても犯罪抑止に効果覿面であると信じます。。 人権上の問題から今は難しいところでありますが、もしも将来、憲法を変えることが出来るならば、或いは可能になるやもしれないなどと期待が膨らみます。。 今は色んな方から色んな知恵を動員して、ことに当たるべき時代に来てると、そう思います。。\_(-_- 彡
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dankkochiku at 2013-05-18 11:04
tomahawk_attack さん 日本の刑務所は、米国とは違い、犯罪の減少とともに、刑務所人口も、最近5年間に10%以上減少し、平均すると収容定員以下になりました。 統計的にみると、犯罪の増減は、社会情勢と関係があり、たんに刑罰の軽い重いとは、あまり関係が見られません。 しかし、犯罪の大部分を占める財産犯罪による被害弁償については、刑事裁判では全く蚊帳の外におかれていますので、被害修復のための刑事裁判制度に変えるべきだと思っています。 例えば、被害弁償し終えれば、即時釈放し、弁償できなければ、被害者の許可が得られるまで服役させるというのはどうでしょう。
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新入り
at 2018-11-05 23:37
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「1971年に同大統領が提唱した」とありますが、端折っているのでしょうか? 年号の間違いでしょうか?
クリントンはこの時、大統領ではありませんよね。
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