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いま、世論と言う怪物に押され、少年保護法制が揺れている。 法律家も実務家も少年の健全育成を掲げた法律のあるべき姿を見失い、右往左往しているかに見える。 少年(20歳未満)刑法犯の80%以上が窃盗と横領。 その内容は、初発型非行と呼ばれる万引き、オートバイ窃盗、自転車窃盗、放置自転車等の使用窃盗(占有離脱物横領)が70%以上を占めている。 一方、殺人、強盗、強姦、放火といった凶悪犯は、1%に過ぎない。 しかし、このわずか1%の少年凶悪犯のために、昭和24年から大きな修正もせず続けてきた少年法が刑罰強化の波を受け、次々と軌道修正が迫られている。 刑法には、「14歳に満たないものの行為は罰しない」 とあるから、14歳未満ならば、殺人など重罪を起こしても刑罰を受けることがない。 では、14歳になった途端に、死刑でも懲役刑でも科すことができるかというと、少年法は、刑法の規定にかかわらず、特別な規定を設けていた。 つまり、14歳以上になれば物事の善悪がわかる年頃だから刑事責任はあるのだが、14歳になった途端に刑罰が科せられるのではなく、16歳に達するまでは刑罰は受けない緩衝地帯を設けていた。 これは、もともと少年法を制定した趣旨が、身体的、精神的、社会的に未熟で可塑性に富む未成年者には、成人と同じ仕方で犯罪の責任を取らせるよりも、保護的、教育的な働きかけをして、改善に導く方が子供の将来に好ましい、とする明治時代から続いた刑事政策の伝統に加えて、現在の少年法が制定された昭和23年ころの世相は、戦災で親を失い、路頭に迷い、生きるために非行を重ねていた子供が多く、その非行を食い止め、その保護が差し迫った問題だったので、あえて刑法とは一線を画した少年法を制定したのだ。 そこで、非行のある未成年者、つまり、非行少年を見つけた場合は、まず、刑事裁判所ではなく、家庭裁判所で、国が保護をする必要があるかどうかの要保護性を審理し、保護観察や少年院送致などの保護処分にすることを優先し、そのうえで非行の 「罪質および情状に照らし」、保護処分よりも刑事処分が相当と判断されたときは、例外的に検察官に送致し、成人同様の刑事法廷で裁判を行う方式をとってきた。 しかも、この例外的措置も、16歳以上の少年に限定して認められていたので、より心身の発達が未熟な16歳未満の少年には、どんなに重大な犯罪を行っても、検察官へ送致することはできず、従って刑事責任を問うことができなかった。 この少年法の特例が問題のきっかけになった事件が平成になって2度も起きた。 一度目は、平成9年、神戸市で中学3年の男子生徒が起こした、いわゆる酒鬼薔薇聖斗事件である。 その異常な犯行を14歳の子供が起こしたことに市民は驚き、2年くらい少年院にいて社会に戻って来るのは恐ろしい、許せない、こんな甘い法律では少年非行はエスカレートする一方、などといった少年法を批判した世論が沸騰した。 そこで政府は、問題の早期決着を目指し、政治主導で議論を進め、形ばかりの法制審議会の審議を経て、少年の保護育成よりも非行抑止を重視した議員立法案が国会を通過し、翌平成13年4月から改正少年法を施行した。 その結果、主に二つの点で少年法が大きく修正された。 第1は、刑事責任年齢を14歳以上としている刑法に少年法を合わせ、被害者を故意に死亡させたような14・15歳の少年にも、原則として、刑事裁判を受けさせ、刑務所で服役させることができようにした。 つまり、刑罰を受ける年齢が改正前よりも2歳早まった。 そのうえで、重大事件を起こした14歳以上の少年の審判には検察官、弁護士を出席させることができるよう少年法が改正された。 これについて、この改正は、少年非行に対する厳罰化ではなく、事実関係の解明の手続きと説明する向きもある。 しかし、検察・弁護間の応酬が、14・15歳の少年に理解できるのかは極めて疑問であり、家庭裁判所の 「審判は、懇切を旨とし、和やかに行う」 とある少年法の規定にそぐわない。 また、刑事法廷のような対審方式では、いきおい少年の健全育成を目的とした保護処分よりも非行事実を重視する刑事責任問題に発展し、裁判官は検察官送致決定に傾き、厳罰化、刑罰化の方向に向うのは必須ではなかろうか。。 また、この改正が招いた問題は、刑務所側にこの年頃の少年を受ける体制が整備されていないことだった。 そこで、当面、14・15歳の受刑者を、特別少年院(非行度の進んだ、大部分は16歳以上の少年のための少年院)に移送し、そこで少年院生同様、義務教育を含む矯正教育を受けさせ、16歳に達すると、今度は少年刑務所に移送し、そこでは大部分は18歳以上の少年受刑者たちと一緒に服役させることになった。 その結果、暫定措置とは思われるが、犯した事件は重大だが、必ずしも犯罪性が進んでいるとは限らない年少少年を、幼少期から非行の続いている少年やヤクザ関係者や薬物依存者など犯罪性の進んでいる少年のいる特別少年院や少年刑務所に収容するといった、矯正処遇上、問題が予想される処遇を受けることになった。 ただ、幸いなことに、この事実を知っている家庭裁判所側は、現在までのところそのような決定を強行するのを控えている。 改正の第2の点は、刑事裁判で刑罰が強化されたことだ。 犯行時18歳未満では死刑を言い渡すことはできず、無期刑に減刑することは以前と同じだが、そのときは、仮釈放許可の最低期間改正以前の7年から成人と同じ10年に延長した。また、改正以前は、無期刑を言い渡すべきときは10年以上15年以下の間で懲役を言い渡すことになっていたのを改正後は、無期刑を言い渡すべき時でも、裁判官の判断で、有期の懲役にせず、そのまま無期刑を言い渡すこともできるようにした。 平成13年から施行したばかりの改正少年法を見直す2度目の少年事件がまたまた発生した。 15年に長崎市の家電量販店で12歳の中1男児が家族と買い物に来ていた4歳の幼稚園児を連れ出し、4キロ離れた7階建ての立体駐車場の屋上から投げ落とし、殺害する事件が起きた。 そして、翌16年には、佐世保市の小学校内で12歳の小6女児がインターネットのチャットで悪口を書かれた仕返しに、カッターナイフで同級生女児の頸動脈を切り失血死させた。 特に長崎市の事件では、「少年法でなく刑法で対処すべきだ」(澄田・島根県知事)、「親は市中引き回しのうえ打ち首にすればいい」(鴻池・防災担当相、青少年育成推 進本部副部長)との過激な発言が話題になった。 さすがに刑法の改正までは発展しなかったが、平成19年に14歳未満の少年を少年院に送れるように少年法と少年院法を改正し、少年院に 「おおむね12歳以上」 の少年、つまり、小学生も少年院に入れるようにした。 これら一連の少年法制の変化のなかで、明治33年の感化法制定以来、幼少の不良児たちを家庭的雰囲気の中で愛情と教育による更生、自立を目的に、14歳未満の非行児たちを処遇してきた児童福祉法下の児童自立支援施設では、「昭和30年代に比べ、凶悪な殺人事件を起こす少年の数は現在の方がはるかに少ない。 なぜ今改正なのだろうか」 と疑問視する声もあり(「犯罪と非行」No.144 阿部恵一郎)、少なからぬ戸惑いを与えている。 (つづく)
by dankkochiku
| 2008-06-19 23:20
| 非行・犯罪
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Comments(2)
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桜花
at 2008-07-06 01:38
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平成19年の少年法改正で「おおむね12歳以上」の少年が、少年院に送られることが可能になったこと、欧米に於ける少年矯正の実情は如何なものでしようか?
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dankkochiku at 2008-07-06 21:13
日本でも少年非行へ行政は、児童福祉法(厚労省)と少年法(法務省)と、司法、行政面で分かれていながら共助体制をとる相互乗り入れ対策がとられていますが、欧米も同様で、刑事司法・行政制度よりも複雑です。 大略でよろしければ、平成17年版犯罪白書をおすすめします。
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