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B子は中学3年生。 中学2年の3学期のころから親や先生の注意にも耳を貸さず、学校を抜け出してはライブハウスに入り浸り、そこで知り合った少年たちと付き合い、万引き、傷害、恐喝事件を起こした。 いずれも初めてで大きな事件ではなかったが、このまま放置してはもっと非行に深入りするおそれがあると虞犯事件で鑑別所へ送られてきた。 B子は山あいの貧しい農家に生まれた。 1歳の時、父を亡くした後、母は、自家用の野菜作り程度の畑を残して農地を他人に譲り、駅前の土産物店で働き始め、B子と二人で細々と生活をしてきた。 家のことやこれまでの生活に話が及ぶと、急にうつむいて涙ぐんでしまった。 小学校のころから中学2年の初めまでは、成績は普通以上、クラスの学級委員をするなど積極的で、リーダー格の生徒だった。 しかし、家は6畳2間と土間にある台所と薪風呂のあばら家に住み、貧相な格好をしていたので、学校に入る前から、村では 「貧乏人っ子」 と見られ、子供たちからはいじめられ、友達も少なかったなど、数々の悔しい思い出に胸が一杯になったからである。 体つきは、母親似で、大柄、肥満型。 18,9歳の年頃に見える。 外向的、活動的、男性的で、物おじしない性格も母親似。 母と子の二人がたがいに頼り合い、貧しい生活を耐え抜いてきた働き者の母親の影響からか、大人の物の考え方や感じ方をする方で、同級生たちのすることが、子供っぽく思え、上級生や高校生など年長者たちの輪の中にいることが多かった。 そうすることで、自分を 「貧乏人っ子」と 見下げてきた同級生たちに気張って見せていたのだろう。 B子は、小学校のころ、数年間、ある楽器メーカー経営の音楽教室に通っていた。 母親が生活の貧しさから娘がいじけてはいけないとの気配りから、苦しい家計の中から無理をして通わせたのである。 B子は普通の家の子と同じ音楽教室に通えたのが嬉しかったし、負けず嫌いな性格から頑張ったのか、音楽への才能を急に現わし、母親も呆れるほど音楽へのめり込んでしまった。 と言っても、最初のうちは、ラジオの深夜番組やレンタルレコード店から借り出したCDをテープに録音して聞く以上のことは家計が許さなかった。 B子を夢中にさせた音楽は、ロックだった。 ロックには疎い私に、この音楽が若者に受けるのは、社会の問題を暴いて、若者の怒りや苦しみを渾身込めて訴えること。 それだから、小編成のグループでも、何千人、何万人もの聴衆を熱狂させる力があること、などを鑑別所にいるのを忘れたかのように熱っぽく話して聞かせた。 初めてロックを聴いたのは中学2年のときで、家から電車で30分ほど離れた町で開かれた野外コンサートだった。 B子は聴衆たちと一緒になって叫び、両手を高く上げて拍手し、体を揺らして汗だくになって声援し、ロックファンと知り合い、意気投合した。 B子が生まれ育った山村には全くない自由で刺激的な雰囲気に圧倒されたが、それよりも驚異だったのは、街頭での若者たちのロック演奏だった。 しかも、この町にはいくつかの生演奏をする喫茶店のあることも初めて知った。 それからというものは、学校の休みのたびに、ライブハウスに通うようになった。 山村のことで、中学2年生がロックのライブハウスに夢中になっているというだけで学校では話題になったのに、やがて、茶髪に染め、ロック仲間と会う約束があるからと学校を抜け出す。 母親も教師もうるさく注意するが効き目なく、成績は下がる。 休みの日には、大っぴらに、アイシャドー、マニュキュア、ピアスを付け、革ジャンにジーンズ姿で出かける茶髪の中学生に村民の好奇と顰蹙の目が集まった。 ライブハウスへ通ううちに、B子がキーボードを扱えることを知った少年たちから彼らのロックバンドへの誘いがかかり、仲間に加わった。 練習が終わると、いつも仲間の少年たちと駅前広場でハンバーガー、フライドポテト、たこ焼き、コーラなどで空腹を満たしながら、次のコンサートの演奏曲目をなににするか、チケット代はいくらにするか、練習場の使用料、楽器の修理代などについて仲間とたむろして話し合う。 そのそばには、タバコやシンナーを吸っている子や暴走族など夜遊び族もうろついている。 B子はその連中とも付き合い、タバコを覚えたが、それ以上、不良化することはなく、必ず10時半の終電車で家に戻った。 それは、「お母さんが一人では寂しいだろうと思ったから」 だった。 そんなある日、B子たちの側で、女の子たちの別のグループが、路上でドラムやエレキのチューニングを始めた。 演奏が始まるのを待っていたが、なかなか音を出せずにいるのに、わけもなくムカツイテきて、「いつまで、モタついているんだ」 などと怒声を浴びせた。 相手も黙ってはいなかった。 タイマンで女同士の取っ組み合い。 周りで野次馬が取り囲んで囃し立てる。 B子が押し倒した相手の顔面にブーツで蹴りを入れて勝負がついた。 そして、自分のジャケットの袖が引きちぎれたのを見せ、「おとしまえを出せ」 と怒鳴り、なにがしかの金をせしめた。 その後、派出所へ連れていかれ、母親が呼び出された。 警察では、喧嘩ということで、傷害と恐喝は取り上げられなかったが、以前に万引き事件の補導歴があったことや、母親や教師の注意に従わず、学校をサボり、不良たちのたむろする深夜の盛り場に連日現れていることが問題にされた。 なぜ中学を卒業するまで待てなかったのかと尋ねたら、「いま、やらないとどうしてもいけない気がして、卒業まで待っていられなかったから」 と答えた。 精神的発達の未熟さからある一つの考えに支配され、いったんこうと思い立ったら、他がなんと言おうと、直ぐに実行しないではいられない衝動に駆られての行動だった。 しかし、「でも、あと8カ月くらいで卒業ですから、なんとか学校に戻って頑張ります。」 とも反省の言葉を口にした。 幸い、薬物乱用や乱れた性関係などの問題もなく、中学校長もB子の復学に積極的な姿勢を示したことから、家庭裁判所は試験観察の決定をした。 試験観察とは、その時点で審判をせず、数か月間、家裁の調査官の指導と観察下におき、その結果を見た上で、最終的に保護処分にするかどうかをきめる少年法第25条にある制度で、その期間が終われば、多くは保護観察になる。 自分では目標も立てられず、ただ言われるがまま、与えられるがまま、無気力な生活に明け暮れする少年の多い時代の中で、B子のような子は、非行少年とはいっても、むしろ頼もしく思えた。 一つの目標に向かってやる気を示す子供ならば、きっと物になるのではないか、きちんとした指導者のもとで好きな音楽を続けさせてやれないものかとも思った。
by dankkochiku
| 2007-12-17 22:33
| 少年鑑別所の子供たち
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Comments(10)
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桜花
at 2007-12-18 23:12
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小生が家裁の調査官ならば、御ブログで取り上げた少女ほど、働きながら学ぶ定時制高校への進学を勧めます、「親・社会に迷惑(触法しない)を掛けず、好きなことをしたいなら自分で働いたお金ですべき」と言うでしょう、ひとつの目標に向かってやる気を示す子供への健全的な育成と支援は必要不可欠と思います、定時制高校には音楽の授業があり、音楽室にある備品の様々な楽器に触れることもできます、音楽(ロック)を通じて知り合った仲間も大切と主張されるでしょうが、その経緯が不健全です・・・精神的にも未熟ですし、きちんとした指導者として定時制高校の音楽教師が適任でしょう。
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at 2007-12-19 23:24
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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桜花
at 2007-12-19 23:32
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家庭環境・周囲の環境から受けるストレス?から、自由で多くの人々に共感が持たれる音楽(ロック)の世界にのめり込んだ少女、虞犯事件となってしまったこと、本人の精神的な未熟さもさることながら、周囲の大人たちが救いの手を差し伸べたのでしょうか?
楽しいことに興味を持ち・惹かれていく少年少女たちの心境、関係者から聞く言葉ですが・・・「"非行少年(少女)"は、同時に"不幸少年(少女)"でもある」こと・・・。
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dankkochiku at 2007-12-20 10:04
少年鑑別所を出た子供たちの7割は再入所していませんが、この子も成人し、立派に再生していると思います。 「志ある者は事ついに成る」 です。
ロックを愛好する人の格好は確かに奇抜で、恐ろしげで、どこでも目立ちますが、それはロックのスタイル。彼(彼女)等が求めるものは、オーケストラや歌謡曲、演歌を愛好する善良な市民となんら変わりません。ただジャンルがロックであるだけ。 大人の目が差別してるだけ。彼女はその差別についタバコやシンナーにふけってしまったのでは?(本職の方にこんなコメントは失礼でした)
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dankkochiku at 2007-12-22 09:06
よく言えば、郷に入りては郷に従えということか。
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tomahawk_attack
at 2007-12-23 20:33
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エルビスの「監獄ロック」を思い出しました。ウ~ム。いい子だ。。。(゚.゚)ノ
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dankkochiku at 2007-12-23 20:46
そうでしょう。 共感できます。
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あい
at 2014-09-14 02:29
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こういう問題に何か精神的な病が絡んでいることは検討されますか?
彼女の焦燥感や喧嘩などが躁的に感じたのでコメントしました。もしそうであれば、非行とは言えないなと。
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dankkochiku at 2014-09-14 11:31
あい さん コメント有難うございます。 少年鑑別所は、少年の心身の鑑別をする施設ですから、彼女に精神的病が絡んでいるかどうかを、もちろん、調べます。ただこのケースでは、そのような徴候は認められませんでした。年齢からみると、疾風怒濤の時代ということでしょうか。
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