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どこの施設でも刑務官1年生がまず配置されるのは昼夜勤務と決まっているようです。 受刑者とあまり接触のない昼夜の巡警(巡回警備)と夜間の舎房勤務です。 巡警は、日中は外塀、舎房、工場周辺の外回り、夜は、これに工場内の安全点検も加わります。 夜は受刑者は外に出ていないし、深夜手当込みの超過勤務手当が相当に付くし、体力に問題がなければ新任でも大丈夫勤まると先輩から元気づけられますが、特に、B級系刑務所の夜勤は、どうしてどうして、そんなことでは彼らの緊張はほぐれません。 夜間勤務に就く若い看守たちとの雑談の中から彼らの気持ちを拾い集めました。 夜間の巡警は、レンブラントの名画 「夜警」 のように部下を連れて堂々と所内を巡回するのではなく、一人で決められた箇所を懐中電灯も必要以外は点けてはならず、足音を立てぬようにスニーカーを履き、決められた場所を決められた時間内に巡回します。 先輩たちから脅された事件話の不安が頭をよぎり、暗闇から何か飛び出してくるのではと怖くても、勇気付けに歌を歌うわけにもいかず、警棒を握りしめながら歩きます。 月や星が見えると気が休まりますが、大雨の日は最悪で、濡れねずみになり、こんな日に夜勤が当たった不運を腹立たしく思い、そそくさと歩きます。 暴風雨の夜、逃走事件があったとかいう話を思い出し、暗闇を見透かしますが何も見えません。 冬は立木から雪が音を立てて落ちてきて驚かされます。 屋外灯がもっとあればと思いますが、それでは不審者からも看守の動きが丸見えです。 巡回する舎房に近付くと、ホッと安心し、外から一周し、音を忍ばせ鍵を開け舎房に滑り込みます。 夏は舎房内に立ちこめる汗の臭いで胸が悪くなり、冬は、大勢の体温でガラスが曇り、居室内がよく見えません。 テレビ・ラジオの音と話し声でざわついている就寝時間前の雑居室の暗い廊下を誰にも気付かれぬように部屋の中を見ながら無言で通り抜けます。 暗闇から夜間舎房勤務者がぬっと現れ、ギクリとします。 夜間舎房勤務は、一人で階上、階下を受け持ちますが、複数の舎房を受け持たされることもあります。 夜間舎房の巡回は、まず各室の施錠確認のために、扉の取っ手を静かに押し下げ、手の感触を確かめながら歩いて行きます。 稀に本錠が掛かっていないことがあるからです。 扉の内側には取っ手がないので、仮錠でも部屋の中からは開けられませんが、本錠が開いていると気付いた受刑者が仮錠の受け穴に紙など詰め込み、職員のいない時に脱け出したことがありますから、必ず自分の手で確かめます。 日勤職員から申し送られた要注意の受刑者や居室には特に注意を払います。 窓際に立って職員が来るのを待って薬を求める者がいます。 担当台にある備薬簿にその者が今日、始めて薬を要求したのか、毎日服用しているのかを確かめ、名前を尋ねて書き込みますが、同室者の別人を名乗られても分かりません。 名前の本人かどうかを確かめるために声高にその名前を聞きただします。 それを聞いて、別人が慌てて返事をして嘘がばれることがあります。 これも報告事項です。 こうして本人と確認できれば、飲み水を用意させ、薬を手渡し、目の前で飲むのを確かめます。 薬を溜め込んでいる者がいるからです。 整腸剤一服を渡すのにもこれだけ手間と時間が掛かります。 雑居室で受刑者が総立ちになっている時は、喧嘩直前か何か不穏な時ですからその場から離れられません。 取っ組み合いが始まれば、携帯無線機で本部に連絡し、職員が駆けつけて来る間、廊下から 「止めろ、止めろ」 と怒鳴るだけです。 職員がきても、余程のことがない限り、夜間に部屋の扉を開けるのは危険です。 殴り合いの狂言を演じ、扉を開けさせて、一斉に飛び出し、逆に職員が部屋に閉じ込められたことがあるからです。 乱闘騒ぎの後、上司から報告を求められても、受刑者と一緒になって興奮してしまい、関係者が誰だったのか思い出せないこともあります。 受刑者は施錠した部屋から出られませんから、落ち着いて観察すればいいのですが、それが始めのうちは、なかなかできません。 就寝時間後の舎房は急に静まり返ります。 トイレの扉の開け閉めの音が舎房内に響き渡るほど静かです。 耳を澄ますと、いびき、寝言、雨風が窓ガラスに当たる音も聞こえます。 受刑者たちの寝姿を見ながら、「そのまま朝まで静かに眠っていてくれよ」 と祈る気持ちで、各室の人数を当たります。 布団にもぐって眠っているように装い、もぬけの殻だったという話や布団が呼吸で上下していないのを見逃し、起床時になって死亡していたのが分かったという話もありますから、一部屋ごと確かめるのに時間がかかります。 少しでも気になることがあれば、声を掛けてみるように言われていますが、雑居室では熟睡している者たちを起こしてはと、新人看守らしい気配りから気が引けてなかなか呼びかけられません。 その一方で、こんな勤務をいつまでやらされるのか、就職先を間違ったのではないかと、気が重くなるのもこんな時です。 単独室が並ぶ独居舎房は静かですが、雑居房とは違った注意が大切です。 単独室の受刑者は、大体が医療上、保安上その他の理由で特別扱いされている者です。 就寝時間までラジオの音声だけで、受刑者の物音はほとんどしませんから、耳を澄まして異常音を察知するように上司から言われていますが、聞き分けられません。 以前は、部屋の中の様子を扉の覗き穴(視察孔)の蓋を開けながら一室ずつ覗いて行かなくてはなりませんでした。 入口に寄り添っていると人がいるのかいないのか全く様子が分からず、首を吊っていても発見が遅れることもありましたが、今では、多くの施設が改築され、歩きながら単独室内全体が見渡せるようになり、巡回時間も短縮されました。 翌朝の午前8時半、日勤職員と交替します。本部での点呼の後の 「解散!」 の号令と共に、急に緊張が解け、毎度のことながら鬨の声が上がり、一斉に散らばって、保安区域を後にします。 ☆ ☆ ☆ ☆ この 「刑務所を考える」 シリーズは、皆様のご声援に支えられ、今回で、ご投稿頂いたもの以外で、第100号を迎えることができました。 お読み頂いた皆様にブログ紙上から厚く御礼申し上げます。 そろそろ、テーマ種切れですが、こんなことを知りたいというテーマがおありでしたなら、どうぞお寄せ下さい。 お待ちしております。
by dankkochiku
| 2007-07-15 17:46
| 刑務所を考える
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Comments(12)
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at 2007-07-15 21:48
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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桜花
at 2007-07-15 22:10
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夜勤者の巡回、休憩時間の時、先輩たちから「刑務所の怪談」を聞かされ脅かされるそうですね、ある意味で緊張感を持たせるための手段と関係者から聞きました、最近は靴底の厚いジョギングシューズやウォーキングシューズが好まれているそうです。
小生も職業柄、夜間の巡回を単独で行いますが、五感をフルに活用して微弱な音に神経を尖らせます、しかし、刑務所の夜間巡回ですが、夜間はトイレの水が流せないため夏季の巡回は大変ですね! それと、無事に朝日を拝めた時は、何故かホッとします。
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dankkochiku at 2007-07-16 20:48
何年も夜勤職員を続けていると日勤職員との接触が薄くなり、同じ処遇部門に属しながら名前も顔も分からない人がいます。 適当に交替しないと、職員関係上からも保健上からもよくありません。
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桜花
at 2007-07-16 21:43
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夜勤職員(年数の浅い者)は、先輩らに名前を覚えて貰うためなど人間関係の醸成で、武道訓練への参加を上官・先輩から勧められるそうですね、武道訓練を通じて、先輩らの夜勤経験・夜勤では学べないことを教えられる場面も多々あると聞きました。
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at 2007-07-17 00:44
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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tomahawk_attack
at 2007-07-17 21:35
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『殴り合いの狂言を演じ、扉を開けさせて、一斉に飛び出し、逆に職員が部屋に閉じ込められたがことがあるからです。』・・・・・な~るほど。向こうも色々知恵を巡らすもんですね。油断なりませんなあ。。。
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dankkochiku at 2007-07-17 22:55
この程度の強行突破型脱獄よりも、凄いのがフランスでの数日前に起きたヘリコプターを使っての脱獄。 さすが怪盗ルパンのお国柄ですね。 同じ手口で、過去20年に10件以上起きているとのこと、一体、刑務所の警備はどうなっているのだろうか。
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桜花
at 2007-07-18 00:22
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フランスの刑務所で発生する脱獄劇、他国の刑務所と比べるとダイナミックですね、過去に拳銃を入手した受刑者が看守を脅迫して、正門から堂々と脱獄した話もあります。(同一人物の受刑者が、同じ手口で二度も脱獄に成功)
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dankkochiku at 2007-07-18 09:10
こんな自由、平等、博愛は塀の外だけにして欲しい。 Merci. Au revoir とでも言ったのかなあ。
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tomahawk_attack
at 2007-07-18 09:26
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ほほぅ。。フランスはヘリを使って空から来ますかぁ。一々やる事がハデですねぇ。
囚人の皆さん。コマンタレブ~!
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at 2015-06-26 10:39
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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dankkochiku at 2015-06-26 21:16
ぷりずんらいふ さん 度々、お知らせ頂きありがとうございます。ブログ本人と接触試みています。
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