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「ところで、お勤めは?」 と花やいだパーティ会場で打ち解けた初対面の方から尋ねられて、「刑務所です」 と答えると、反応はさまざまです。 「そこでどんなお仕事を?」 と聞かれますと、答えるきっかけもできるのですが、中には、「えっ!」 と絶句する人。 「あら、怖いところですのね」 と言いながら、場違いなことを聞いてしまったかと、早々に話題を変えようとする人もいます。 勤め先や業務内容を尋ねられ、咄嗟になんと答えたものかと、迷うのは当の本人も同じです。 「○○刑務所 法務技官 分類審議室 統括処遇官」 などの肩書き付きの名刺をお渡しても、相手は、大抵、「ふむ~」 と一瞥するだけです。 その場で、何と説明すればいいのやらと口ごもって、ついいい加減な返事をしてしまいます。 そこで、今回は、心理屋、サイコロ師、心理職員、心理技官、資質鑑別技官など、いろいろに呼ばている非行少年や犯罪者が相手の人間科学系の職員を話題にしたいと思います。 国家公務員一般職として、法務省が心理職員を採用し始めたのは、昭和25年以後です。 これは、その前年に新しい少年法が発足し、少年鑑別所が新設され、そこで働く心理学、社会学、教育学など人間科学を専攻した職員の採用が急がれたからです。 この頃から、やはり非行など問題のある少年たちを扱う公務員として、家庭裁判所の調査官(特別職I種公務員)や科学警察研究所の警察庁技官、児童相談所の心理判定員(地方上級公務員心理職)の募集も始まりました。 法務省に採用される、通称、心理職(国家公務員I種採用試験、人間科学部門合格の心理系の職員)の人数は、毎年、5人くらいととても需要に応じきれず、そのほかに適時、心理学系修士課程終了者を内部採用し、補充しています。 いずれの初任者も、矯正研修所と東京少年鑑別所や川越少年刑務所で9ヶ月ほど基礎的な研修を受けた後、全国の少年鑑別所に配置されます。 心理技官の仕事は、心理診断と心理療法が主で、現在、200人ほどが少年鑑別所に勤務しています。 矯正関係の心理専門職員の働き口は、少年鑑別所のほか、少年院、刑務所がありますが、何と言っても、新採用者は、少年鑑別所勤務への希望者がほとんどで、特に、東京、横浜、名古屋、大阪、神戸など規模の大きい鑑別所に希望が集中します。 と言いますのも、そこには同じ心理職員の仲間が大勢おり、先輩からの個人指導や事例研究会、読書会が開かれるなど大学のセミナーと同じ研究所的な雰囲気があり、新卒者に馴染みやすいからです。 そのうえ、大都市では、時どき、マスコミを騒がすような非行少年たちが、家裁の観護措置の決定を受けて、警察から直接、少年鑑別所に入所する、いわば新鮮な事例に多く会えて、専門的知識を広げる機会があるのも魅力です。 中には、こんな雰囲気の中で、実力をつけて大学へ、それも国公立の大学へ移り、公務員年金をそのまま継続させる方もいます。 これに比べて、少年院には、矯正教育に当たる法務教官(国家公務員Ⅱ種相当)が多く採用され、数少ないI種試験合格者でも教育学や社会学系など別の学卒者で、新採用者研修も別の組で行われるため、最初のうちは、近付きにくい気持ちを起こさせるようです。 また、刑務所には、いかめしい制服を着た刑務官(同Ⅲ種相当)が職員全体の9割以上を占め、いかにも権威的な保安施設という強烈な印象を与え、心理系の新卒者から敬遠されるようです。 このような事情から、医療少年院や調査センター併設の刑務所といった特殊な施設以外は、新採用の心理技官に少年院や刑務所への勤務希望者がなく、早期退職を不安視する研修所側もあまり推薦しません。 病院での臨床心理士、学校カウンセラーなど、引く手あまただからです。 分類審議室あるいは分類部のある大規模施設には、管理職と若手の心理技官とが配置されていますが、これは、保安・警備を本務とする刑務官の数が圧倒的に多く、専門職員の発言が抑えられがちな階級制の職場とあって、管理職以下の心理技官だけを配置しても定着しないおそれがあるからです。 この傾向は、処遇の重点が専門家による改善指導に移らない限り変わらないでしょう。 また、I種試験採用の心理技官の過半数を占める女性は、女人禁制を墨守する伝統的刑務所からは敬遠されます。 もっとも、女性刑務所に、女性心理技官を管理職として配置しても、定着せず、少年鑑別所や少年院に戻ってしまい、その後、心理技官が不在、というのが通例ですから、単に、男性、女性の問題ではなのかもしれません。 刑務所の社会化のために、男性刑務所に女性職員の配置を求めた行刑改革会議の提言にもかかわらず、現状の刑務所には、女性技官の方から敬遠される問題があるようです。 私が少年鑑別所にいた当時、隣接するB級刑務所(男性受刑者)から仮釈放許可申請書に添付する鑑別結果の書類作成や問題受刑者の処遇指針について心理技官の派遣要請を受けたことがあります。 そこで、まず、私が出向いて状況を確かめ、次いで男性技官、女性技官の順で派遣を決めました。 ところが、早速、男性受刑者と女性技官との面接に、看守を常時、配置できないし、かと言って、海千山千の累犯受刑者が女性技官を人質にでも取るようなことが起これば一大事だと、クレームが来ました。 その刑務所では、以前から男性の看護師不足から、女性を採用したところ、かいがいしく勤務し、受刑者の方も、男性看護師よりも、おとなしく言うことを聞くということでしたので、女性心理技官でも、公安職の給料をもらっている人間科学の専門家であり、男性刑務所で初任者研修も受けているから、一応、心配はないと返事をしましが、結局、1回だけで断られました。 どうも、刑務所という所は、男女雇用機会均等法があまり通用しない官庁のようです。 さて、次回は、最初に少年鑑別所に就職した私が、その後、刑務所にも勤めることになった話です。 昔話とはいえ、刑務所社会を象徴するエピソードとしてご期待ください。
by dankkochiku
| 2007-03-10 23:57
| 刑務所を考える
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Comments(11)
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at 2007-03-11 02:18
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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lechuga
at 2007-03-11 20:00
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刑務所での女性の勤務に危険が付き物だというのは、残念ながら事実です。女性の看守でも、受刑者に殴られたり、妊娠中勤務した工場で受刑者に腹を刺されたりということはしばしば起きています。武道経験もある看守でさえ危険なのだから、技官はもっと危険だと考えるのは仕方ないと思います。女性の看護師も、必ず看守立会いの下でしか処置を行いません。
技官の方々は、受刑者のけんかや職員暴行の現場に駆けつけることがないので実感がないのだとは存じますが、守られている立場を自覚して行動していただきたいと個人的に感じました。
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dankkochiku at 2007-03-11 21:07
lechuga さん 以前、分類(現・処遇)センターにいた時、女性技官にも独居房で個別面接をさせていました。 ただ、面接前に相手を確かめ、しかも、飛び掛れないほどの幅のある机を挟んで、相手は窓側、技官は開放した扉側に座り、録音テープを持たせました。 独居担当は、時々、巡回していました。 面接のできない心理職員では、仕事になりません。 寡聞ながら、女性心理技官で暴行を受けた話は聞いていませんが.....。
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lechuga
at 2007-03-11 21:27
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いろいろ対策を考えておられることで、事故に到る可能性が低く抑えられていることは確かだと思います。しかし刑務官側としても、万が一のことを考えなくてはならないので、あれこれと口出ししてくるのも仕方ないことかと。
面接が出来なくては困ると言うのも分かりますので難しいところですが、女性看守や女性看護師に暴行する受刑者が女性技官に暴行しない保障はありません。独居担当も、女性技官と受刑者が一対一となれば、他の仕事を後回しにしても重点的に巡回する必要があります。 もっとも、本来は女性技官の安全を保障出来る具体的な方法を考えるのが先であるとは思いますが。
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dankkochiku at 2007-03-11 22:37
非公開コメントさん 新任期間が過ぎれば、成人矯正(公安職I)と少年矯正(公安職Ⅱ)との間、少年鑑別所技官と少年院教官との間の人事交流はあります。 それ以外の所へも行きます。 私もそうでした。 その話は、次回、乞う御期待です(笑)
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桜花
at 2007-03-15 23:48
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行刑改革会議第三分科会にて、心理技官・ソーシャルワーカー(精神保健士・社会福祉士)の採用に関する検討・討議が行われましたこと御存知かと思います、その中で配置の検討を要する施設として、医療専門・医療重点施設(精神疾患)、女子施設、L級施設、大規模B級施設が挙げられました。
特に、LB級施設の受刑者には、短期刑を繰り返した挙句に長期刑となり収容される者が多くいることテレビ特番の放映と関係者から聞きました、その中で「盗癖」「ギャンブル必勝妄想」「ワンクリック変身妄想」「血統妄想」の受刑者の処遇、保安警備が主体の刑務官では対応に限界があり、専門職員の配置を求める声が少なからずあると聞いております。 かの名刑事件、当時の名刑に収容されていた薬物中毒・精神障害など処遇困難者の収容数は約600人、他のB級施設に於ける処遇困難者の10倍を超える人数と伺っております。 女子心理技官の配置等に関して、戒護面の問題は各施設でも試行錯誤していると聞いております、監視カメラ付で特殊な強化ガラスで隔てられた構造の面接室を設けてみたらと考えた関係者がいました。
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dankkochiku at 2007-03-17 23:13
B級刑務所へ少年鑑別所の女性技官を心理診断に行かせたところ、クレームが来た、という段について、このブログをご覧頂いた刑務官の方からお励ましのメールを頂きました。 ご承諾を得てその一部を転載させて頂きます。
「(現場職員の)言いたいことは分かる。しかし、昼夜独居の精神障害や知的障害のある処遇困難者に対して、心理学などの専門知識が無い我々で出来ることに限界がある。 心理職員がいる基幹施設は良い方だ。 中小規模のB級施設には心理職員の配置が無い。 基幹施設・大規模施設から心理職員が面接で出張して来ること有難く思う。 しかし、戒護面で厄介視する頭の硬い団塊世代の統括・主任や担当に、中途半端な経験の夜勤職員たち・・・心理職員の面接手法を見て学ぼうとする気があるのだろうか。 (中略) 常に我々は処遇に関する新しい知識と技術を身につける努力を怠らず邁進する義務があるのではないだろうか?」 コメントを寄せられた刑務官の方に感謝します。 今後ともよろしくお願いします。
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silvia
at 2007-04-02 20:39
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現時点では、男性の刑務所に女性の看守が配置されているところはありますか?
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dankkochiku at 2007-04-02 22:54
silvia さん ご質問の趣旨が分かりませんが、全てではありませんが、男性の刑務所にも女性の刑務官、看護師、心理職員は配置されています。
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silvia
at 2007-04-02 23:23
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dankkochiku at 2007-04-03 09:11
担当の意味を、工場担当、独居(単独室)棟など集団の担当という意味でしたら、女性刑務官は男性集団の担当はしません。男性刑務官が女性工場の担当をしないのと同じです。
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