カテゴリ
その他のジャンル
外部リンク
記事ランキング
画像一覧
|
総務省は、国や自治体の少年非行対策の評価結果を1月30日に公表しました。 これは平成14年4月から始まった 「行政評価法」 に基づいて実施したものです。 評価の方法は、「政策の特性に応じた合理的な手法を用い、できる限り定量的に把握する」 ことを基本に、警察庁、法務省、文科省など6関係省庁がそれぞれ当初に設定した少年非行対策の目標について、平成12年から17年までの5年間の実績を評価しています。 今回の評価対象となった5つの少年対策のうち、一定の効果が現れたと評価されたものは、「いじめ・校内暴力に起因する非行防止対策」 と、「薬物乱用防止対策」 の2つで、あまり効果が見られなかったと評価されたものは、「不良行為少年への対応」、「初発非行の防止対策」、「再非行(再犯)防止対策」 の3つでした。 報告の詳細は、インターネットで開示されていますのでそちらをご覧頂くとして、ここでは 「再非行(再犯)防止対策」 の評価結果について触れることにします。 評価の方法として、一般刑法犯少年(交通業過事件を除く刑法犯)の再犯者数(少年人口千人比)を指標にしています。 そのうえで、平成12年から17年までの変動を見ますと、再犯者数は18%増加しており、また、再犯者率は、この間に26.4%から28.7%へと継続して増加していることに着目して、処分後の立ち直りのための支援に問題があると結論づけています。 今回の評価に当たっては、このほか、関係者へのアンケート調査も実施していますが、これだけで結論を出すことには問題があります。 しかし、それ以上できなかった4つの理由として 報告書は、その一つに 「少年の非行対策の実施とその効果の発現についての因果関係を立証する手法が把握できなかったこと」 をあげています。 これは、保護観察中の少年や少年院にいる少年に対して実施しているさまざまな処遇の手法が再犯防止にどのような効果があるのか因果関係が不明で、評価しようがないので、処遇内容を除外して、保護観察修了者と少年院の出院者の再犯状況だけから評価したということでしょう。 実際、保護観察中の処遇や少年院での処遇の結果と再犯との因果関係を実証することはかなり難しいことです。 職員たちは、多くのさまざまな処遇技法を取り入れ、更生に生かそうと苦労を重ねてきましたが、結果の出る処遇技法が見つからないのがほとんどと言ってよいくらいで、これも困ったことです。 例えば、職業訓練を受け、職業技術を獲得すれば、就職に有利と考えるのが常識です。 しかし、この常識は、少年院や刑務所に収容されている人たちにも当てはまるとは言えません。 拘禁下での教育がいかに難しいかということです。 (職業訓練については、06年6月12日付け 「職業訓練は更生に役立っているの?」 でも触れました。) その理由の一つは、職業訓練過程を受ける動機付けです。 もし、職業技術や知識を学ぶことよりも、職業訓練生になることによって施設内の生活や仮退院・仮釈放を有利にするが本心であれば、出所後の生活に活かすことは、二の次ぎのことになります。 職業訓練と免許・資格取得との間には、因果関係があります。 しかし、職業訓練と更生あるいは再犯と直接、結び付けるけることはできません。 溶接の技術は、更生にも役立ちますし、金庫破りにも役立ちます。 なぜならば、元来、職業訓練は再犯防止を目的としたものではないからです。 再犯防止のためには、もう一段階、問題をクリアしなければなりません。 出所後の生活は、少年院から出所した子どもたちよりも、年長で、体力も気力も衰え、前科を背負って出所する受刑者の場合は、もっと切実な問題が次々に起こります。 高齢者でも、ビル管理、ビジネス経理、設備警備などの業種は、それに必要な知識・技術の資格、免許があれば、就職に有利でしょう。 しかし、この免許、資格を刑務所で取得できても、受刑者が出所後、この種の職業に就くことは不可能に近いでしょう。 出所者と分かっただけで、たとえ高度の職業技術を持っていても採用をためらう企業が多いのが現実です。 また、出所後、直ぐにも自活あるいは家族を養わなければならない出所者にとっては、職業を選ぶ余裕がなく、差し当たり、就職できる仕事を探す以外ないでしょう。 そして、その中には、反社会的な業種もあるでしょう。 出所後の生活が、服役以前よりも希望が持てなければ、服役中の生活だけでも問題なく過ごそうと考えるのは自然です。 仲間とのわずらわしい付き合いを避け、職員から好意を持たれ、少しでも服役生活の中で自由の幅を広げようとします。 強制される作業よりも、作業報奨金も受けられる職業訓練生に選ばれ、免許、資格を得れば、所内作業の指導員に就くことができ、しかも仮釈放期間も多い、など施設内生活で有利なことがたくさんあります。 受刑者の中には、服役中に職業訓練や通信教育をいくつも受けて、たくさんの免許・資格を持っていながら、出所後、それらを活用した経験のないひとも少なからずおります。 しかし、職業訓練と更生との間に因果関係がないと言っても、職業訓練が出所後の生活に役立たないとも言えません。 就職に役立たなくても、人生を豊かにする知識や技能の習得は、出所後の生活に役立ちます。 従来、少年院や刑務所で行われてきた、板金、溶接、建築、印刷といった、いわば、雇用されなければ活用できない訓練種目から転換する発想が必要ではないでしょうか。 例えば、パソコン技術、音楽、調理、園芸、陶芸、民芸品製作などのホビーワークのような、出所後、一人でもでき、そのための資金もあまりかからず、しかも、職業と趣味を兼ね備え、他人から喜ばれるような処遇科目を導入するのもどうでしょうか。 need だけで、interest を欠いた学習に効果がある訳はないと思いませんか。
by dankkochiku
| 2007-02-06 23:56
| 刑務所を考える
|
Comments(11)
Commented
by
dankkochiku at 2007-02-09 09:50
櫻花さん 貴重なメント有難うございました。 ご存知のように、人の資格に関する法令で、前科が欠格原因となる職種がいろいろあります。 しかし、例外として、少年では刑期を満了した後は 「刑の言い渡しを受けなかったものとみなす」、また、刑の執行猶予中は刑期満了と見なされ、欠格原因になりません(少年法第60条)。 また、近年、心身障害者への欠格条項の見直しも行われています。 しかし、法令に関係なく、締め出される業種もたくさんあって、社会復帰が難しいのが現実です。
0
Commented
by
tomahawk_attack at 2007-02-10 23:14
趣味と実益を兼ねる職業って?現実には、そうそう有りませんよね。受刑者のみならず?一般人にとっても難しいテーマです。。。
それにしても仮に調理師の免許があれば?出所後、一人で屋台も引けそうです。縁日では、色々なものも売れますよね。。。 もともと調理は裏方の仕事で、表には出て来ないから?腕さえ良ければ?店舗等で生きる道も開けそうな気がするが。。。いずれにしても状況が深刻なのは分かります。ウ~ムですね。。。。
Commented
by
dankkochiku at 2007-02-11 10:56
tomahawk さん 調理師の免許も原則的には、「罰金以上の刑に処せられた者」 には免許がとれません。 ただし、場合によっては資格が認められます(相対的欠格条項)。 交通事故で罰金刑を受けた調理師が免許が取り消されることはありませんが、暴行・傷害事件で罰金を受けた人や出所者はだめでしょう。
Commented
by
lechuga
at 2007-02-12 20:07
x
はじめまして。職業訓練と更正についてのお考え、興味深く読ませていただきました。
この問題については、確かに現在の職業訓練が更正に役立つとは限らない点でまだまだ改善の必要があるとは思います。 しかし、ホビーワーク的な能力を身に着けてもそれで身を立てるのはかなり難しいでしょう。私はいわゆるホビーワーク系の大学を卒業しましたが、大学への求人はありませんでしたし、同窓生もその道に進むことが出来たのはほんの一握りです。 また、職業訓練も一定の修業年限の定められた職種については短期受刑者がその対象から外されざるを得ないものですから、全体を考えた職種を再考する必要があるでしょう。 個人的には、コンピュータのプログラム開発やホームページ作成の請負、翻訳、介護などができれば仕事には困らないかと思っているのですが、これらの仕事を一人前にこなすにはある程度の知的水準や体力が必要です。高齢化の進む受刑者の能力で修了できるかという問題もあります。 いずれにせよ、これまでやってきた職業訓練を根本から見直す時期ではあると考えます。
Commented
by
dankkochiku at 2007-02-13 00:28
lechuga さん ご経験からのコメントありがとうございます。 ご指摘のように職業訓練種目の見直しが今、求められています。 従来から、毎年、2千人以上の受刑者に職業技術の資格・免許を取得させ、最近では、職業安定所と協力して出所後すぐに就労できるよう支援を始めました。 しかし、一方で、能力面を含め社会適応面、保護面で問題のある人が多く、入所時に無職だった者が65%ほどおり、高齢者も毎年増えています。 身から出た錆とはいえ、特に再入者が社会に受け入れられるのは厳しいのが現実です。 今後とも、ご意見、お願いします。
Commented
by
桜花
at 2007-02-13 22:53
x
この問題、美祢・島根あさひ社会復帰促進センターが本格的に取り組み始めます、1日8時間の刑務作業を6時間に短縮して、残りの2時間を更正教育・職業訓練を取り入れます、両社会復帰センターでは出所後の就職支援するNPO法人も立ち上げます。
確かにIT関連ですと在宅勤務も可能です、介護も高齢化社会が進みヘルパーは多く欲しいのが現実です、元受刑者に対する社会の厳しい目、懲役の刑務作業が中心で更正教育・改善プログラムが後手の状況、過剰収容の中で、工場に出役できない高齢者・精神障害者が増加している現況で職業訓練プログラムの見直しは困難を極めると思います。
Commented
at 2007-02-14 01:26
x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented
by
dankkochiku at 2007-02-14 11:33
櫻花さん 当方のブログの幅を広げて頂くコメント、度々、ありがとうございます。
官民協力のPIF方式の新しい刑務所が、4月に山口県美祢市で発足します。 セコム、小学館、ニチイ、日立、日本ユニシスなど多くの企業が矯正当局と共にどう取組むのか、「社会復帰促進センター」 の名に恥じない運営を期待しています。
Commented
by
桜花
at 2007-02-15 01:48
x
官民協力のPFI刑務所「地域の共生と、地域経済の活性化」がお題目に上がっております、PFI刑務所を「宝船」と思い誘致に成功した自治体と地元経済界・・・。
美祢に関しては、民間企業の厳しいコスト意識で行われた食材納入の入札で洗礼を受け、思惑から外れた部分があり、今後は刑務作業・転入して来た関係者への商業施設の展開で穴埋めする方針のようです、島根あさひでは地元の経済界が異業種団体のコンソーシアムを形成して、SPC(運営する特別会社)に対して下請け受注を強く働きかけます。 私が懸念することは地元の経済界で作った"コンソーシアム"が「談合」の温床になる危険性です、公共事業が主な収入源の地方企業は非正規雇用で人件費の削減を図る現況、帰属意識が薄い非正規雇用の職員、特に保安警備に従事する職員がアルバイトだったら・・・詐欺罪や性犯罪で収容された知能が高い受刑者に篭絡される危険性が危惧されます。 このPFI事業、過剰収容の解消と「開かれた刑務所」、再犯率の抑止が急務とされ「刑務所は国家公安で最後の砦」なる国家事業と思います。
Commented
by
dankkochiku at 2007-02-15 20:46
櫻花さん 2刑務所とも、PFI方式刑務所であって、民営刑務所ではありません。 官民共に始めての試みですから、A級受刑者の処遇から始めることになっています。 所長始め幹部職員も法務省側の職員を配置し、国の刑罰権に当たる部分や受刑者のプライバシー保護も国が責任を持つことになります。 それでも、不安と期待が一杯ですね。
Commented
by
桜花
at 2007-02-16 23:11
x
dankkochikuさま
「PFI方式刑務所」、英米の刑務所ではないこと十重に承知しております、仏独の大陸方式の官民協働で"管理権者は国"にあることですね。 法務大臣のコメントで、PFI方式刑務所はA級ではないと出来ないと明言しております、今後は民間職員の「みなし公務員」としての管理(就業)規則・研修訓練のプログラム整備が重要と思います。
|
ファン申請 |
||