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刑罰を受けることが分かっているのに、犯罪をする人が後を絶たないのは何故か、という問題の解明に、犯罪学者たちは百数十年もかかわってきました。 しかし、現在までのところ、犯罪の要因は、生物学的要因(遺伝、身体器官の構造・機能、精神障害、脳機能障害、など)と環境的要因(家庭環境、友人関係、文化的・社会的影響など)との相互関係から生まれるという極めて常識的なこと以外、確定的なことは分っていません。 しかし、犯罪学者たちが犯罪の要因としてこれまでに発見したものは、目の前にいる相手の問題行動とどう関係しているのかを確かめ、それについて、どう思っているのかを訊ね、相手を理解する際の糸口になります。 私は、受刑者へのカウンセリングを始める前には、いつも、その人がこれまでに起こした全部の事件を考えて、どのような時に事件を起こしたのか、事件のきっかけは何なのか、その時、どのような気持ちだったのかについて質問することから始めることにしていました。 事件を起こした原因は、当の本人が一番よく分かっていることだし、その自覚を深めれば、再犯を避けられ、その人の問題は解決できるかもしれないと、思ったからです。 しかし、私の楽天的な期待は外れました。 その当の本人でも、事件を起こすに至った状況や心理について、自覚し説明できる人は意外と少ないからです。 面接記録から、ところどころを抜き書きします。 (その1) 刑務所4回目の窃盗犯です。 「これまで秋口になると、いつも落ち着かなくなり事件を起こしてしまいます。 この時期になると、きまった職からはぐれてしまいます。 また、仕事をしていても、周りでなにか問題が起こりますと、自分が前科者であるだけに、オドオドして逃げ出したくなるのです。 そして生活に困り、事件を起こしてしまうのです。 自分自身が情けなくなります。」 どうして秋口になるとこうなるのでしょうか。 彼は、自分がどうしてこんなことになるのか分からず、困った顔をしていました。 (その2) 入所歴は初めてですが、少年のころ施設歴のある窃盗犯です。 「幼い頃から悪事を重ねてきましたが、いずれを見ても、お金が目の前にあったから盗んだということばかりです。」 お金が目の前にあると取らないといられない衝動を抑えられないのは何故でしょうか。 初犯者でも、かなり問題は深刻です。 (その3) 入所歴5回目ですが、社会ではサラリーマン生活をしていた業務上横領の受刑者です。 「仕事そのものは好きで、働いている時は犯罪のことなど考えないのですが、そのうち段々と、普通の平凡な生活に飽き足らなくなり、分不相応な生活をしたくなり、ギャンブルに手を出し、生活が乱れて事件を起こしてしまいます。」 この男は、度々の服役で、年齢的には同僚より上になってもいつも下積みの生活に、耐えられませんでした。 出所者がよく実感する例です。 (その4) 入所歴3回目の詐欺犯です。 「子供のころから家族的な生活をあまり知らないためか、生来、甘ったれの性格のようで、親しみをより以上に人に求め、受け容れられないときの反動から犯罪になっていることが多いようです。 競輪競馬に行くのも、何かそんな憂さ晴らしのように思えます。」 この人の場合は、かなり自己分析ができるのですが、では、どうしたらよいかで迷っていました。 競輪競馬に代わる趣味でもあればいいのですが。 (その5) 入所歴5回目の窃盗犯です。 「酒を飲むと気持ちが朗らかになり、これではいけないと思っても、ひとのおだてにのって事件になることが多かったです。 仕事が終わると仲間と酒を飲むのが習慣で、私だけ飲まずに帰るとは言いにくいのです。」 このような職場では、なかなか断りきれず、また、本人もそれしか楽しみがない独り者でした。 犯罪歴の長い受刑者たちと話していますと、多くが、家族から離れて、不安定な生活をしている独身者で、心を打ち明けられる仲間がなく、いつも欲求不満をもって社会の底辺で生活し、一度、事件を起こすと、あとは何回やっても同じという気持ちになり、累犯化し、そして、刑務所にいた時が一番安心できたのか、何か懐かしむ気持ちになるようです。 大人のなりをしても、心は社会の絆から離れてしまった子どもなのです。
by dankkochiku
| 2006-12-19 23:32
| 刑務所を考える
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Comments(4)
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yamanteg at 2006-12-24 20:16
>子供のころから家族的な生活をあまり知らないため・・・・・。
これ、よく分ります。 家庭が重要、真の愛情が必要、なんですね。
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tomahawk_attack at 2006-12-25 11:19
このところ。刑務官の不祥事が紙面を賑わしていますが、これって昔はもっと「大っぴら」に有ったんじゃないですかね。情報公開が進むにつれて「あぶりだされて」来た事件に思えてならないのですが?それにしても許されない事とは言え?なかには人情を感じる事例もなくは有りませんが、親切心から出た何気ない小さな「手心」を逆手にして、巧みに付け込む囚人も悪いヤツですよね。「なまじ掛けるな薄情け」じゃないですが、まさに油断大敵です。それにしても今の時代。昔あったとされる?「牢名主」に代わる制度は無いのでしょうか?あれはあれで牢内の秩序を保つ有効な「手立て」だったと思うんですが?如何でしょう?。。。。。
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dankkochiku at 2006-12-25 13:51
yamantegさん 非行・犯罪者には物心両面で崩壊した家庭で過ごした人が多いのが問題です。 そこから這い出るのは並大抵の努力と支援ではできません。
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dankkochiku at 2006-12-25 14:06
tomahawk さん 近年、刑務官の不祥事が続くのは、情報公開のためとばかりは言えない気がします。 職務意識の欠如の背後に組織全体の問題を感じます。 かと言って、牢名主のいた江戸時代には、夜間、暗闇の牢内で、気に入られない罪人が半ば公然と私刑にされていました。
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