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学校には学級担任がおり、工事現場には監督員がおりますように刑務所にも 「担当」 がおります。 担当には、大きく分けて作業場ごとの担当(工場担当)と病気休養中の者、懲罰中の者、集団生活に適しない者などを収容する単独室の担当(独居舎房担当)とがおります。 (拘置所の舎房担当については前号で触れました。)
ただ、「担当」 は、法令で定められたものではありませんので、担当の定義は何か、いつから始まったかは答えられません。 しかし、このいわゆる 「担当制」 は、極めて日本人の心情、文化に根ざした受刑者の管理と処遇のかなめとして、明治時代から基本的には変わることなく現在まで続いております。 と言いますのも、合理主義を信条とする欧米の刑務所では、受刑者の警備には警備専門の刑務官がおり、作業や職業技術指導には作業専門職員が当たり、受刑者の相談、助言には心理カウンセラーや社会ケースワーカーがおり、体育やレクリエーションはその専門教官が当たるというように、業務内容ごとにそれぞれ専門の教育・訓練を受けた職員が交代して受け持つシフト制勤務がとられております。 ところが、わが国の刑務所では、欧米式の勤務形態とは反対に、これらすべての業務を一人か二人の 「担当」 (多くは看守または看守部長職)と呼ばれる刑務官が行っております。 担当は、刑事施設の規律維持(警備・保安)を本務とする職員として採用された刑務官(受験資格は高卒以上で国家公務員3種相当の刑務官試験合格者)なのですが、採用後5年から10年ほど警備・保安の実務経験を経た者の中から、作業場や独居舎房の担当者が抜擢されます。 担当に任命されますと、あたかも工場長や寮長のような力量が要求され、担当する受刑者の管理、処遇に当たって、かなりの裁量権が与えられます。 担当は、拳銃など武器も携帯せず、受刑者たちに囲まれながら管理責任者として事故防止と処遇の縁の下の力持ちであることを自認し、この意識が多忙で困難な職務の支えになってます。 特に、50人から100人近い受刑者のいる大工場の担当ともなりますと、他の職員からも受刑者指導の実力者と一目を置かれ、「一国一城の主」 「花形看守」 とも言われています。 担当には、巡回警備、門衛、夜勤、事務所の雑務係りの刑務官などとは違った役割が与えられています。 工場担当を例にとりますと、休日を除いて、毎朝7時半に、朝食をすませた受刑者たちを雑居室から出し(出房)、点呼をとり、工場へ隊伍を組んで出場させ、作業の終わる午後4時半ころ再び点呼をとり、居室へ連れ戻す(還房)までの間、受刑者管理の全責任が負わされます。 工場担当は、本来の職務である警備・保安の責任者として、受刑者集団が常に自分の視線内に入る位置に立ち、人員を目算して確認し、勝手に移動させないように細心の注意を払わなくてはなりません。 受刑者が工場を出入りする際には衣体を検査し、食事、運動、入浴時にも立会います。 作業中の無断離席、仕事を怠け雑談している者を注意します。 突発的に起こる受刑者同士の乱闘の中にひとりで割って入り説得し、時には警棒を振い、取り押さえなくてはなりません。 この時、素早く非常ベルを押し、応援職員が駆けつけて来るまでの間、なんとか時間稼ぎをして怪我人が出ないようにするのが精一杯です。 受刑者に課する作業の企画、立案、指導、成績評価などは、本来、作業部門の業務なのですが、担当は、現場責任者として、作業命令書に従って作業を行わせ、監督します。 作業器具を点検し、安全装置、保護具、換気装置の確認など作業衛生管理にも当たります。 作業材料・製品などの物品管理、劇毒物・アルコール類の保管も大事な役目です。 また、就業者が最も気にする作業報奨金の基本額プラス作業成績と行状成績の加算減算の審査も作業技官とともに行わなくてはなりません。 作業時間の合間に実施する屋外での体育・レクリエーションや生活指導は、本来、教育部の業務なのですが、工場担当は運動時間には受刑者をグラウンドへ連行し、運動を指導し、行動観察し、工場へ連れ戻します。 作業の休息時には、受刑者から悩み事相談を受け、話を聞くなどカウンセラー役もします。 新入者が来れば、その者の処遇表、日課表、作業等級審査カード、郵便切手そのほかの日用品を改めます。 作業部門の業務である作業配置・座席指定も行い、用度課へは食糧伝票(給食人員票)作って回します。 また、新入者の年齢、健康状態、性格などを考えて雑居室の指定も慌しい工場の中で決めなくてはなりません。 そのほか、受刑者からのさまざまな申し出が書かれたメモ(願箋)を受付け、それぞれの関係部門へ回します。 受刑者が郵送する手紙を持ってくれば、文面を一瞥し、書信検閲係りへ回します。 内容を一瞥するのは、その者の心情把握に役立てるためです。 医務部から届けられる医薬品の配布も担当の役目です。 作業休息時間中は、担当にとって、誰と誰とがいつも接触するか、誰が疎外されているかなど、行動観察の時間です。 工場担当に与えられる休憩時間は、2時間ごとに30分間、交代職員が来て、初めて工場から離れることができます。 上司への状況報告後、トイレに行き、やっと座って一服できる程度で、施設の外に出ることは許されません。 こうした目まぐるしい、神経の休まらない仕事に担当は追われていますので、担当台にある椅子が温まらないのが責任感のある担当と評価されるほどです。 今回は、工場担当の一日の仕事の一部を紹介しました。 次回は、担当職員の意識や担当制の問題についてお話ししましょう。
by dankkochiku
| 2006-08-30 21:44
| 刑務所を考える
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Comments(2)
dankkochikuさん、こんにちは。演奏旅行だったらよかったんですけど・・・大変ご無沙汰です。また復帰しましたのでよろしくお願いします。
このBlogはまるで『塀の中の・・・』の映画かTVドラマのようで私にとっては異次元空間です・・・
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Commented
by
dankkochiku at 2006-09-04 09:48
異次元空間に取り込まれ、なかなか抜け出せません。(笑)
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