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昭和8年、受刑者の改善・社会復帰を目的に始めた累進処遇制度が、次第に最初の目的から離れて教育的価値を失い、刑務所の秩序維持のために受刑者を管理する技法に変わっていった経緯につきましては、以前お話した通りです(05年11月27日付 「受刑者へのアメとムチ」)。 累進処遇が、更生を希望し、発奮努力すればその願いは叶えられるという自信を持たせるために、努力の成果を評価し、段階的に所内での自由度を広げ、責任感を育てようと考えたことは正しいものでした。 しかし、受刑者たちが納得しやすいように、各人の個人差や社会適応性を軽視し、画一的な処遇を行い、その成績評価も機械的、形式的に行われるようになったったことは問題でした。 受刑者たちは、ただ優遇を求め、要領よく職員に取り入ろうとすることに専念するようになりました。 しかし、受刑者たちにこの傾向が見られるようになっても、受刑者管理と施設の秩序維持をを至上命令と考える管理者たちの間に、これを必要悪として容認する風潮が広がっていきました。 その結果、良い囚人は、良い市民になるとは言えませんのに、更生意思がなく、出所後すぐ再犯しそうな受刑者でも所内規則に触れないければ進級し、模範囚になれるようになりました。 この累進処遇制度の問題点を批判して次に現れたのが分類処遇制度でした。 これは受刑者の個人差や各人が持つ個々の問題に着目し、それぞれを分類し、それに応じた処遇を行うことを目的とした応差的処遇(systems of differentiation)とも呼ばれる処遇方法です。 もっとも、明治41年に制定された監獄法令の下でも受刑者を性別、少年と成人、罪質、犯罪歴、性格、健常者と病気・障害のある者などを分けて拘禁することは行われてきましたが、このいわゆる古典的分類収容は、主に受刑者相互の悪風感染を防止することが目的でした。 これに対して、分類処遇は、受刑者を問題別、特性別グループに分け、それぞれのグループの特性に応じて社会復帰上、必要な処遇を集中的に実施することを目的としています。 この分類処遇制度は、19世紀後半以後の実証的犯罪学の成果をもとに、1939年(昭和14年)、米国ニュジャーシー州トレントン州立刑務所で受刑者を医学、精神医学、心理学の面から受刑者を分類し、グループごとに必要な処遇を重点的に行ったのが始まりと言われています。 分類処遇制度は、やがて米国各州立刑務所に拡がり、第二次大戦後はヨーロッパ諸国でも累進処遇に代えて分類処遇に移行する国が増えました。 これがわが国へ伝えられたのも、戦後、米国からでした。 昭和23年に出された 「受刑者分類調査要綱」 には、米国の分類方法にならって医学、精神医学、心理学、社会学、教育学等の知識をもとに、保安面、教育面、作業面、保健面、出所後の保護面について調査するように書かれています。 ただ、当時は、分類調査に当たる専門職員が未整備の状態でしたので、一部の施設で、改善の難易度、心身の疾患・障害の有無について調べ、収容施設を決定するのにとどまりました。 そこで、翌年から国家公務員採用試験種目に 「心理職」 試験を追加し、その後、大学院修士課程終了程度の行動科学専門知識をもつ職員を各施設でも採用するようにしました。 分類収容した受刑者への処遇課目が整ったのは、昭和47年に「受刑者分類規程」が出された後のことです。 ところで、累進処遇制度の方はどうなったでしょうか。 分類処遇制度を採用した欧米諸国の刑務所では、累進処遇制度を廃止する方向に進んだのですが、わが国では、この相い矛盾する二つの処遇制度が続けられました。 そのため分類して処遇施設に送られた受刑者は、そこでは累進処遇が適用されるという、奇妙な形が今回の監獄法改正まで続きました。 その理由は、刑務所幹部職員たちが累進処遇制度の存続を強く望んだからでした。 累進処遇を廃止して、分類処遇一本だけで行くことに不安をもち、異議を唱えるものでした。 最初から受刑者ごとにそれぞれ違った処遇をするのは、刑執行の平等原則に反しているという意見や、入所時に全員が同じ階級からスタートし、その後の努力次第で順次処遇を緩めていく累進処遇の方が受刑者の理解と納得が得やすい、という実務家からの反論です。 社会復帰に役立つ処遇方法であるとはいっても、一部の者だけが入所後の早い時期から優遇と受け取られかねない扱い方をするならば、ほかの受刑者に不公平感を抱かせるだけであるというのです。 特に、受刑者全体の過半数を占めるB級受刑者(犯罪傾向が進んだ者)や少しの処遇差にも敏感なL級受刑者(無期を含む刑期8年以上の者)を抱える施設では、犯罪歴や罪質を考えると半開放処遇でも無理で、服役の期間の大部分を過ぎて、ごく一部の者だけが、施錠された舎房の中で限られた時間内だけ居室の扉を開錠する程度が限度であるから、所内の行状を見ながら拘禁を緩めていく累進処遇の方が無難であると主張しました。 その一方で、わが国一般市民の生活水準がとみに上昇したことや受刑者の人権尊重思想が国際条約にも盛られるようになったことから、僅かばかりの優遇策で階級差をつけてきた累進処遇制度の存立を揺るがすことになりました。 かつては、1,2級者しか使用できなかった物品のほとんどが、今ではどの受刑者でも使えるようになりました。 以前は、受刑者間の交談(会話)は1級者しか許されていませんでしたが、現在では、交談が禁止されている場所、時間以外は禁止されなくなりました。 こうして、受刑者たちに魅力のあった階級差の恩恵も縮小されていったからです、 監獄法に代わった新法の制定によって、累進処遇制度での優遇措置は、一定期間ごとの成績に応じて誰でも優遇措置が受けられるようになり、50年以上も存続、廃止が論議されてきた累進処遇制にピリオドを打つことになったのです。
by dankkochiku
| 2006-05-06 22:59
| 刑務所を考える
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