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刑務官とは、刑務所、拘置所など刑事施設で保安警備に当たる公安職員のことで、現在、全国67施設などに約1万8千人が配置されています。 勤務に伴う危険性など労働条件の厳しさが認められ、初任給は、一般の国家公務員よりも12%ほど高く支払われます。 刑務官に採用されますと、看守、看守部長、副看守長、看守長、矯正監などの7階級うち、最初の肩書きが「看守」 です。 今回は、新採用の看守たちについての話です。 新採用の看守たちは、地方研修所に集められ、2ヶ月間、職務倫理、関係法規、実技訓練など基本科目の研修を受けた後、それぞれ採用された施設での実務研修に入ります。 集合研修の効果は、受刑者に大声で号令が掛けられるようになるくらいと言われており、まだ現場の即戦力には程遠いからです。 現場研修では、刑務所のしきたり、受刑者の扱い方から日常の生活指導も含め、勤務全般について、教え込まれます。 教官役には、勤務年数が長い保安実務の実力者が選ばれます。 大抵は、口数が少なく、新任者にはぶっきらぼうで厳しいこわもてですが、現場に関して何から何までよく知り抜いており、非常ベルが鳴っても冷静適切な行動をとることができ、それでいて時には、赤提灯で一杯やりながら相談相手にもなるといった人間味のある処遇部門の古参の看守部長や副看守長が当たります。 ところが、この教官役は、十年以上も前に集合研修を受けて以来、それ以外の研修を受けたことがなく、また転勤経験のない人が大部分ですから、新任看守たちへの指導は、いきおい自分の勤める施設での経験をもとにした保安技法の口伝になりがちです。 人によって指導内容が微妙に違ったり、研修所では教えないことも教えます。 ある古参の看守部長は若手看守に 「懲役(受刑者のこと)にこちらから先に手を出してはいけない。 しかし、相手が反抗してきたら、もうバンバンやっても構わない。 それは制圧することだからだ。 それまでは何をされても我慢していることだ。」 「小さい反則ならば、上司に報告せずに握って(見逃して)、相手に貸しを作った方が後の処遇は楽だ。」 「刑務所では懲らしめに働かせているのだから、楽しく働かせようなどと考えるのはもっての外だ。」 など、いささか疑問に思うことも教えます。 集合研修では現場に役立つことは何ひとつ教わってこない、という現場職員の声は、こうした意識の違いから生まれるようです。 しかし、古手の刑務官たちが偏見に凝り固まった人かというと、そうではなく、保安現場で日々の忙しさに追われて疲れ、深く考える余裕もなく、ただ先輩たちが身につけた知恵やノウハウに従って、骨の折れる現場を切り抜けるだけで精一杯の人たちがほとんどなのです。 こうして新任看守の仕事は、夜勤に始まり、日勤では交代要員、正担当の代勤、副担当を経て工場担当へ向けて、必要な保安技術や受刑者を扱う要領、刑務所社会の価値観を学び、1年もすると、仕事の危険や責任を回避しない一人前の刑務官に育っていきます。 ある刑務所長さんが部内誌に、現場での重大な保安または職員事故によって懲戒処分を受けた全国の施設職員の中で、30歳台後半から40歳台前半の中堅職員の発生率が異常に高いことに注目し、これらの事案の中には、マンネリズムに起因するもの、インフォーマルな集団を形成し、不良な価値観に基づくと思われるものなどの事例が数多くあり、その背景には、研修所での組織的、総合的な研修を受ける機会がないまま勤務を重ねてきたことが影響しているからではないか、と書いています。 近年、職員研修制度が見直されましたので、追々この問題は解決に向かうことでしょうが、刑務所現場の古い体質にどっぷりと浸かって数十年を過ごしてきた刑務官たちにとっては、「衆状安定」(施設の平穏)が最重要課題なのです。 そう言えば、これは私の憶測ですが、名古屋刑務所事件のリーダーとされた副看守長も、施設では最も信頼されていた刑務官のひとりだったのかもしれません。 ところで、刑務所は、普通の企業や官庁とはずいぶん違った職場です。 自分の業務について何も分からない新任看守でも、その下には数百人、数千人の受刑者が控えています。 もし受刑者が新任看守だと見くびってその指示や命令に少しでも不遜な態度を見せたり、異議を唱えますと、幹部職員が列席する懲罰会議に呼び出されるのを覚悟しなくてはなりません。 たとえ新任看守であっても、職員・受刑者間に命令・服従が当然視されているからです。 この状況を別の角度から見ますと、看守になったその日から多くの部下のいる大会社の上役の気分になれる職場でもあります。 一般企業ならば新入社員は、早めに出勤し、上司や先輩社員、パート従業員にも気を使い、掃除からお茶の接待まで精を出すなど雑事に追われるのが普通ですが、新任看守たちには、そのような雑事は受刑者たちの仕事で、視線内戒護の原則を守り、受刑者から目を離さず、人数を確認し、上司に報告すればいいのです。 しかし、そこに身を滅ぼす落とし穴もあります。 米国の心理学者ジンバルドー教授は、与えられた役割が自己像をきめることを検証するために、模擬の刑務所を作り、アルバイト料を払って集めた学生たちに実物そっくりの姿で看守と囚人の役割をさせる実験をしました。 その結果、看守役の学生は次第に専制的に振舞い、権力をかさに脅し、侮辱し、勝手な命令を下すようになりました。 他方、最初のうちは抵抗した囚人役の学生は、次第に抵抗を止め、懲罰を受けないように何事も控えめになり、中には重い抑うつ状態や不安発作を起こし、2週間の予定の実験を6日で打ち切らなくてはならなくなりました。 この実験結果と同様のことが新任看守の中にも見られます。 次第に受刑者たちを軽蔑し、横柄に振舞うことを覚え、親ほどの年の差のある受刑者にも懲役呼ばわりをして見下し、威圧しようとするのが観察されます。 しかし、新任看守は、内心、不安が一杯で、官服の内ポケットにお守りを忍ばせたり、受刑者が多く出ている工場や運動場では後ろから襲われるのを恐れ、無意識のうちに壁や塀を背にして立っている姿もしばしば見受けます。 中には、不安のあまり過剰に反応し、受刑者とささいなことでトラブルを起こすことが少なくありませんが、懲罰を受けるのはいつも受刑者の方ですから、新任看守の方は変な自信をますます強め、高慢になる危険性があるのです。
by dankkochiku
| 2005-12-06 21:30
| 刑務所を考える
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Comments(2)
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srd52834 at 2005-12-13 11:08
お尋ねの件、大阪家裁における調査可能(所在不明者を除く)な案件の過去20年の統計に基ずくものです。ただし、実態は「調査不能」の対象者が多い事も事実です。資料は、白書の統計です。
としより軍団NPO拝
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dankkochiku at 2005-12-25 14:27
ご回答ありがとうございました。 ご返事は、そちらのブログにいたしますが、少し再犯率が高いようにおもいます。
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