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発達障害者の刑事裁判は揺らいでいる。 2012年7月に大阪市で起きた42歳の発達障害の弟が自分の世話をしてきた46歳の姉を殺害した事件の1審裁判では、異常ともいえる求刑16年を上回る懲役20年を言い渡したが、2審では、「1審は障害の影響を正当に評価しておらず、不当に重い」 と指摘して1審判決を破棄し懲役14年とした裁判については前に載せた。(2013年3月3日付「最近の裁判員裁判から」)
このほか、発達障害者の裁判例では、同じ年の3月、さいたま地裁で松戸市と三郷市の路上で小学生の女児と中学生の女子生徒を刃物で刺した殺人未遂事件などに問われた16歳の男子通信高校生の裁判で、裁判長は、両親が少年の 「養育に無頓着であったことや、生まれつきの広汎性発達障害による偏った性的欲求が事件の動機につながった」 としたうえで、「それらの事情を、少年に不利に扱うのは相当ではなく、再犯防止の観点から医療少年院で治療を受けることが相当」 として、少年を家庭裁判所へ事件移送している。 両親が少年の養育に無頓着だったとは、県条例が18歳未満の所持を禁じているサバイバルナイフなど71本が少年の自宅から見つかり、そのうち16本は父親が少年に買い与えていたことだった。 2011年6月、東京地裁で開かれた町田市で5歳の長女を殺害した39歳の母親に対する裁判では、「母親は、当時、鬱の症状やアスペルがー障害などを抱え、判断能力や自分の行動を制御する能力が著しく低下しており、長女もまた、アスペルがー障害の疑いがあると言われ、字もうまく書けなかったため、不安を募らせ無理心中を思い立った」 として適切な支援が得られず孤立し、思いつめた障害のある母親の心情を汲み、心神耗弱状態にあったと認め、懲役3年保護観察付執行猶予を判決している。 また、同じ年の7月、札幌地裁では、札幌市の路上で23歳の女性会社員を殺害した元交際相手の21歳の元大学生に、弁護側が広汎性発達障害の影響で事件時は心神耗弱状態だったと主張したが、裁判長は、「復縁を迫ろうとしたが、拒絶され逆上した」 「被害者を執拗に攻撃しており、単なるパニックで暴れたとみることはできない」 と事件の重大性を上げ、弁護側の主張を退けたが、無期刑の求刑を大幅に下げて、懲役16年の判決をした。 このほか、衝撃的な事件では、2001年1月に事件が発生してから1審判決まで3年7カ月を要した台東区での29歳の男による通り魔事件、通称、レッサーパンダ事件の裁判で裁判長は、「自閉症の発達障害に該当するにしても、是非善悪を弁別でき、それに従って行動する能力を有していた」 として、治安重視の求刑通り無期懲役を言いした。 また、2006年10月、奈良家裁で、高校1年の長男が自宅に放火し、医師の妻子3人を焼死させた放火殺人事件の審判で、「幼少期からの父親の暴力などの成育環境が性格の偏りを生じさせ、少年を非行に走らせた」 と虐待による後天性広汎性発達障害を認め中等少年院送致とした。 こうしていくつかの発達障害者の刑事裁判例を見てくると、精神鑑定が行われるのは、通常、重大事件に限られるので、裁判は、治安重視かまたは障害者医療優先かに判断が大きく分かれる。 その原因の一つは、発達障害の概念が精神医学会で認められてからまだ日が浅く、その病因と病像が十分に解明されず、まだ定説がないためだ。 米国では、1987年に米国精神医学会が出版した 「精神疾患の分類と診断手引き」 の第3版(DSM-Ⅲ)で初めて 「発達障害」 という名前が導入されたが、早くも1994年の同書の改訂版(DSM-Ⅳ)では、発達障害に代わって 「広汎性発達障害」 の名になり、それに含まれる病像の範囲も広げられている。 なお、この改訂版も近々出版される予定で、そこでは、また内容修正が行われる可能性がある。 第二の原因は、「責任がなければ刑罰なし」 という責任主義に立つ刑法のもとでは、行為者の責任能力の有無が重視され、裁判では、行為時の是非善悪の弁別力の程度によって行為の責任を判断する。 したがって、行為時に妄想などの思考障害や幻覚や癲癇の朦朧状態などの意識障害の状態下の犯行であれば、従来、心神喪失または心神耗弱を認めてきたが、精神病質や人格異常については、通常は、責任能力があると判断し、有罪判決を行ってきた。 ところが、「広汎性発達障害」 の最も大きな臨床的特徴は、特にアスペルガー症候群がそうだが、発達段階相応の仲間関係が作れない、対人的または情緒的相互性の欠如など対人的相互作用の質的障害を主とするコミュニケーション障害であって、刑法上の心神喪失、心神耗弱の概念とはなじまない。 つまり、正常と異常との境界が明白でないものは、責任能力の判断にしようがないということだ。 発達障害をもたらす脳領域の異常性の解明は、CTやPETやfMRIなど神経画像診断機器の著しい発達にもかかわらず、現在のところ脳神経学は、発達障害の脳内のメカニズムも原因もつかめていない。 発達障害者の犯罪に対して、伝統的な刑法上の責任論に従い刑罰によって改悛の状を深めることを選択するか、あるいは刑法上の責任論そのものの概念を変えるか、あるいは、心神喪失・耗弱と認めて医療観察法の対象者として社会復帰を選択するか、いま、私たちは、この選択肢と向き合っているのだ。
by dankkochiku
| 2013-04-17 20:19
| 時評
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Comments(3)
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tomahawk_attack
at 2013-04-20 23:41
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dankkochikuさん、こんにちわ。。
今日的な時代背景もあって、近年、リスクの高まる高齢妊娠と、その出産が増え続けています。。(+_+。) タバコや酒などのリスクとともに、「丸高」もまた、昔から卵子の老化に伴う染色体異常が起き易い要因として警戒され続けて来ました。。 障害者の生活は親の亡き後、結局、国が最後を見るハメとなりますから、費用の増大を出来るだけ抑えるという意味でも、発生の元となる現況を改善するのは勿論のこと、新たなる検査により事前に発生の「蛇口」を閉めることが強く求められます。。 ところが、これまでは宗教団体を始め各人権団体などが強力にこれを阻んで来た歴史がありまして、ようとして進まぬ実態にありました。。 しかし流石にもう悠長なことを言っていられる段階にはなくなりまして、政府もやっとこさ重い腰を上げるに至りました。。 妊婦の血液で胎児におけるダウン症などの染色体異常を判別可能とした出生前診断が一部ながらも今年から始まろうとしています。。
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tomahawk_attack
at 2013-04-20 23:42
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既に生存しておられる障害者の皆さんについては、直ちに「どうする、こうする」という私案はあっても、それを阻む要因の大きさから「どうしょもない」のが現実だと思います。。
私などは以前から言って来ました通り、問題行動の多い障害者は可能な限り隔離するしかないと考えているところですが、「言うは易し行うは難し」の喩え通りでありまして、現下の厳しい予算枠の中では如何ともし難いものであります。。(v_v) 気の毒なことではありますが、障害者というのは出生の時から既に「短命」が運命づけられているようで御座いまして、まずは新たなる障害者の発生を如何にして抑えるか?・・・・そこに注力し、自然減を待ち続ける他はないと考えるところであります。。 そこで直ぐにでも出来る対策として期待されるのが、母子手帳に「出生前診断」の義務付けを明記することであります。。 そうした地道な対策を進めて行く中で、障害者の絶対人数は、徐々に徐々にと減少に向かうことが期待されます。。。\_(-_- 彡
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dankkochiku at 2013-04-22 09:47
tomahawk_attack さん 勇気ある発言ですね。
欧米では、18世紀から広まった優生学が、国益が私益に絶対的優位に立つとするドイツ・ナチズムの血の純潔運動、ユダヤ人根絶政策にまで発展しました。 また、日本でも、優生学は戦後の人口抑制と、優生上、不良な子孫の出生防止を目的に「優生保護法」を制定し 堕胎罪の適用を緩め、経済上、母体保護、優生学に沿った不妊手術、人工妊娠中絶と認め、高齢者妊婦、病気や障害をもつ子どもの出産抑制を認め、さらに、知的障害者、隔離されたハンセン氏病患者などに対して断りなく断種、不妊手術ができることを認めました。 これに対し、障害者への差別と女性の妊娠の権利を侵すなど反対論との激論の末、強制断種を条文から削り、平成8年に、やっと現在の母体保護法になりました。 しかし、今後の医学の進歩とともに、遺伝的、先天的、後天的に病気、障害のある子どもの出生を抑え、さらには、性犯罪者へ断種手術をみとめ、優秀な民族生産に貢献する血の純潔が実現されるかも‥。
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