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前回述べたように、平成18年施行の新法は、受刑者それぞれの社会復帰上の必要に応じ、矯正処遇を受けることを義務付けた画期的なものだ。
矯正処遇の一つ、教科指導の歴史は古く、すでに明治5年に東京・石川島徒刑場で少年に対して、半日は労役、半日は就学させた記録があるが、制度化されたのは明治14年に監獄則で、16歳未満の少年受刑者に毎日3~4時間、読書、習字、算術、度量、図画の科目を教えたことに始まり、41年の監獄法では、対象を18歳未満の少年から年齢を問わず、義務教育未修了者にまで広げ、新法施行まで行ってきた。 戦後の学制改革で、義務教育期間が9年制になり、次第に、義務教育未修了者が減ってきた一方で、出所後の就職、給与面のほか、職業免許・資格の取得に高卒以上の学歴が要求される時代になり、受刑者全体の4割以上が中卒者で占める刑務所の現状に、それ以上の学歴取得を希望する者に少年刑務所では、長年、教科指導を行ってきた。 これを全国から教科指導を必要とする成人受刑者にも門戸を広げ、地元高校と提携した通信教育の傍ら補修教科指導を行い、さらに、大学進学希望者には、旧大検から移行した高卒認定試験の受験指導も行うようになった。 また、簿記、宅建、漢字検定などの通信制の社会教育も戦後、各刑務所で行ってきたが、一部、公費が支払われるほか、一般の刑務所での学習者には、就業後、数少ない個室が与えられ、他に煩わされず自習できることも学習意欲を増すことに貢献してきた。 受刑者に対する職業訓練が、制度化したのは昭和31年と、やや出遅れた感はあるが、現在では、刑務所ごとの設備に応じて実施しているほか、全国8か所の総合訓練刑務所や管区ごとの指定集合訓練刑務所では、犯罪傾向の進んでいない受刑者を対象に実施しており、平成21年度は、電気通信設備科、自動車整備科、ホームヘルパー科などの種目を終了した者が2,352人、溶接技能者、電気工事士などの資格、免許を取得した者が4,383人と平成22年版犯罪白書は報じている。 また、出所時の就労支援に公共職業安定所との協力体制が18年から始まったが、その成果は、未だ、公表されていない。 しかし、その反面、職業訓練修了者について未解決の大きな課題も少なくない。 例えば、専門的職業知識や技能を学び、免許、資格を取得後、釈放までの刑期が残っていても、引き続いて刑務所内で技能を実習できる機会がないとか、変動する社会の労働情勢について刑務所側の情報不足、技術指導者不足から社会の需要に応じる職業訓練科目を設定できないとか、一部、協力雇用主の下での就職を除いては、出所者と分かると、就職斡旋が難しいとか、更に、出所後、職業訓練の結果が、有効に活かされているかどうかの確認情報が刑務所側に全く伝わらず、適切な職業訓練計画が立てられないなど、以前からの未解決の問題が山積している。 受刑者処遇のプログラムに新しく加わった矯正処遇の改善指導内容は、薬物依存離脱指導、暴力団離脱指導、性犯罪者再犯防止指導、被害者の視点を入れた指導、交通安全指導、就労支援指導といった、受刑者それぞれがもつ犯罪傾向や問題に直接に触れ、改善し社会生活に適応させる個別指導であるだけに、その指導法、その効果の検証については、まだ手探りの状態だ。 まず、改善への動機づけを与えるのが先決問題だが、衝動的、激情的な犯罪を除けば、犯罪者は犯行計画段階で、その成功率、失敗率を比較考量し、成功率が上回ると思えば犯行に着手し、失敗率が高いと判断すれば、犯行を断念する。 改善指導を受ける受刑者も同じで、出所後に、以前に身につけてきた不適応な生活から得られた利益以上のものが、遵法的な一般市民生活を営むことよって得られるかどうかの見通し次第で改善指導への意欲、態度が違ってくる。 交通安全指導や就労支援指導への動機づけは、比較的容易だろうが、それ以外はどうだろうか。 薬物依存は、単に、その薬物の薬理作用として依存症状から抜け出せないだけではない。 依存に至った各人のもつ問題が解消されない限り、刑務所での薬物禁断生活は、たんに増大した薬代を減らすための一時休止期間としか考えないだろう。 本気で薬物依存という病気から回復を望む受刑者には、刑務所内での指導に加え、例えば、薬物依存症リハビリテーションセンター(ダルク)からの支援を、服役中、服役後も継続して受けさせることが必要だ。 同様に、暴力団の中でしか生活できる場所がなく、心を許せる仲間が得られないならば、暴力団社会へ復帰するしかないだろう。 また、性犯罪者への治療は、医療機関でも困難と言われているが、性犯罪受刑者に対する去勢手術や薬物療法など医療処置が認められない日本では、一層の困難が伴う。 さらに、問題なのは、依存薬物への誘惑もなく、また、性犯罪の被害者になる異性や幼児がいない刑務所内では、いわば、馬脚を露わすことなく、本人の持つ問題の真相も指導効果の検証もできないままに終わる可能性が高い。 事実、性犯罪者の多くは、刑務所内では規律違反を起こすことなく、自分の問題と直面することもなくひっそりと受刑生活を送っている。 性犯罪受刑者の出所については、法務省から警察庁への通知制度、釈放者へのGPS装着による所在確認など、性犯罪の再犯防止には、出所者の人権制限の措置もやむおえない。 こうした処遇上の諸問題の解決策の一つとして、刑務所の受刑者処遇部門と出所後の処遇を担当する保護観察部門とが処遇面で一体になり、相互の連携のもと、適宜、処遇実施に関与し合うことが欠かせないが、これまでのところ、矯正職員は保護観察下にある仮釈放者と接触することはなく、保護職員は受刑者処遇に口出しできないといった、双方の官僚セクショナリズムの中で、受刑者が扱われてきた気がする。 出所者の更生・社会復帰、端的に言うと、再犯率を下げるための体制は、先ず、矯正、保護の一体化が絶対条件であり、そこを起点に、警察、福祉機関、労働界へと更生支援の輪を広げていく以外にはないであろう。 なお、近年、外国人受刑者が増え、釈放後は強制退去だけが待っている状況については、別に譲る。
by dankkochiku
| 2011-05-10 22:15
| 非行・犯罪
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Comments(12)
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ojaru777n
at 2011-05-11 00:54
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たしかに更生支援は難事業でありますが、その前に、刑務官の意識がついていっていないと感じます。処遇部門の刑務官(幹部も含めて)の大多数は、処遇部門の仕事は、規律秩序の維持、保安事故の防止、作業の実施、それと訴訟を起こされないようにするための身の保全であると思っているようです。
特に刑務所では、職員が受刑者の家族に面談することがほとんどないですね。成人受刑者といえども、家族との関係が更生に大きな影響があるのは火を見るより明らかです。たとえば、問題のある受刑者の家族が、本人に面会に来たとしたら、処遇担当の主任や統括が家族に面談して、その受刑者の問題の解決方法について話し合うとか、家族も一緒に考えてもらうことを積極的に行なうべきだと思います。 受け持ち受刑者が多すぎて、そこまでできないという実情があることはわかりますが、それ以前に、家族も巻き込んで改善更生させようという意識というか、発想すらない。矯正職員としての自覚が足りないように思います。
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dankkochiku at 2011-05-11 10:28
ojaru777n さん 仰られるとおり、一片の法律改正で長年、警備、保清、作業実施、処遇など集団管理を責務とした刑務官の意識を変えるのは一朝一夕のことではありません。 意識が現状を変えるのではなく、現状が意識を変えると言われるとおり、まず、施設規模を小さくすることで、拘置所を除いて、私見では、最大でも定員300人以下の施設では、警備以外の面でも余裕をもって受刑者処遇に当たれるのはないでしょうか。
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ojaru777n
at 2011-05-11 18:02
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刑務所の担当制度は、ひとつの工場を一人の職員が担当するのが基本になっていますので、どうしても担当職員が受け持つ受刑者の人数が多くなってしまい、個々の受刑者に接するのが困難になります。
これは、受刑者に作業を行なわせるのが最も重要であるとの考え方が根底にあるからで、もし、作業よりも改善更生のための処遇が最も重要であるとの考え方があれば、担当制度はもっと少人数の受刑者を担当するような、違う形になっていたと思います。たとえば、少年院の個別担任制のような方法です。 法律が改正されても、担当制度の形を見直すべきとの発想も出ないようでは、実は法務省矯正局も受刑者たちを本気で矯正しようとは思っていないのでないかと疑ってしまいます。 ただ、現状では職員不足で、やりたくてもやれないとは思いますが。
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dankkochiku at 2011-05-11 22:36
ojaru777n さん 監獄法時代の刑務所しか知りませんが、現在も、「担当行刑」が健在とは、驚きです。この状態が続くかぎり、刑務官の増員はあっても、専門職員の増員は見込まれず、矯正処遇は絵に描いた餅に終わるでしょう。今週、矯正局職員に会いますので、聞いてみましょう。 なお、この問題については、06年8月30日と9月4日付けのブログにありますので、よろしければ、ご一読下さい。
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tomahawk_attack
at 2011-05-11 23:12
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ホリエモンが先ごろ、最高裁への上告が棄却され、正式に二年六ヶ月の刑期が決まりましたが、彼は務所内で沢山の本を読み、更に知識をパワーアップして復活したい意気込んでます。。
思えば・・ロス疑惑で収監された三浦和義氏も、獄中で手記を書いたり、沢山の書物を読み、難しい法律書を次々と読破し、弁護士並みの法律知識を備えていたと言われます。。 少し前、国会議員から服役の身となった鈴木宗男さん・・・この方も、出所後には再び議員に返り咲きたいと夢を持ち、その為にも体力の向上に努め、知識を磨こうと、署内においても、沢山の書物を読破すると述べられました。。 昔から、「人生至る所に青山あり」とは申しますが、やる気になりさえすれば、人間、かなりのことが出来そうです。。 そういう意味で、服役中の受刑者の皆さんには、・・・どうか仮釈放にばかりに目を向けず、・・・出所後の人生を明るいものとすべく、収監中をフル活用され、・・・実りある期間にして頂きたいものであります。。。\_(-_- 彡
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dankkochiku at 2011-05-12 09:57
tomahawk_attack さん つまずいて直ぐ立ち直れる人、七転八倒する人、要するに、その人の志ひとつで、それなくては他からの支援もなかなか実りません。 しかし中には、死刑になった永山則夫のように幼少期の心の傷があまりにも重く心にのしかかり、社会に不信感、敵意を抱く犯人の更生は大難事です。
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desire_san at 2011-05-12 20:14
こんにちは。いつもブログにご訪問いただき、ありがとうございます。
東北関東大震災で被災した方のニュースなどで重苦し気もちが続く毎日ですね。今回のお話は、初めて知り、衝撃を受けました。 私はブログにスイスのエギーユ・ディ・ミディ展望台から望むスイス・アルプスの最高峰・モンブランの写真を載せましたので、是非覗いてください。 なんでも結構ですから、ブログにコメントなどいただけるとか感謝いたします。
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dankkochiku at 2011-05-12 20:45
desire_san さん はるばるスイス・モンブランから異次元世界の当地へお出で頂きありがとうございます(笑)。 これを機にまたのお越しお待ちしています。
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桜花
at 2011-05-13 22:43
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この「更生支援」は矯正に於いて難題であり永遠の懸案事項とも言われるそうですね。 2007年から始まったPFI方式(官民協働)刑務所に於いても「更生支援」は、「再犯防止」と表裏一体の最重要施策として官民の双方で知恵を出し合い試行錯誤を繰り返しいるそうです。 PHP出版の月刊誌にPFI刑務所から出所した人たちを雇用する、大阪の有名お好み焼きチェーン店「千房」社長の講演録が掲載されていました。
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dankkochiku at 2011-05-14 10:44
桜花さん コメント有難うございます。その雑誌、早速、探しましょう。PFI施設については、 民間職員の構成のほか、矯正統計年報でも一部分からず、組織の一体化に問題があるのかも‥
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ojaru777n
at 2011-05-16 21:25
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PFI施設をやろうという発想の元は、少ない職員定員と予算で安上がりの刑務所を新設しようというところから始まっています。そして、最初に開設された美祢では、再犯率ゼロの刑務所を実現するとしましたが、実は、再犯しそうにない選りすぐりのA級受刑者を全国から集めていただけだといわれています。
矯正局内では、保安課が成人矯正課に、教育課が少年矯正課に組織改編になっていますが、成人矯正課は相変わらず保安中心の考え方から脱却していないのでしょうね。
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dankkochiku at 2011-05-17 18:15
ojaru777n さん 全国刑務所が収容率110%を超す過剰拘禁時代に施設の増改築、職員増員が間に合わない窮余の策としてPFI刑務所が浮上しました。効果てきめんで、平成21年には収容率が90%台に下がり、職業訓練など矯正処遇が軌道に乗り始めました。 美祢はPFI刑務所第1号とあって、先ず、素人の職員による保安警備がまず心配で、超A級といわれた犯罪歴のない若い受刑者を小規模施設に集めましたが、それが男女刑務所として、職業訓練施設として、地域住民対策面などで効果を上げてきました。こうしたスーパーAならば、保安、警備、処遇面で効果が上がるのは当たり前で、問題は、PFI刑務所での、処遇実験を、まず、他の同クラスの受刑者から始め、次第に広げることが今後の課題と考えます。
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