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実証的犯罪学の祖といわれる19世紀の精神医ロンブローソ以来、犯罪者の多くは、下流階層出身者で、知能、性格、身体的特徴、家庭環境、教育歴・交友関係、職歴などに問題があり、群集心理や経済的不況に影響されやすい社会不適応者、逸脱者、異常者など、いわば人生の裏街道を行くアウトローと見なされてきた。
ところが、この犯罪者についての一般的なイメージを覆したのが企業犯罪者たちの存在だ。 その主役は、上・中流の経済階層出身者で、企業の中のエリート中のエリートである経営者、役員、または、その有望な後継者たちが正業として公然と行っている企業活動のなかでの組織的に行う違法行為だ。 反社会組織の犯罪とは異なり、暴力を行使することはないが、時の政権を揺るがし、周辺の住民、消費者に多大の被害を与えたことも少なくない。 では、なぜ、彼らエリート企業人が犯罪者になるのだろうか。 自由競争を原理する自由主義、資本主義経済国では、資本家(オーナー)、経営者、賃金労働者たちの正常な日常業務は、もっぱら自分の所属企業の営業益を上げることが第一の関心事で、それが各人の企業への忠誠心を見る評価尺度にもなる。 こうした企業の体質が企業間の競争を激化させ、競合する企業を出し抜き、蹴落とすために、しばしば不正な手段を用い、消費者、社会一般に損害を与えても、収益がそれを上回る限り、大目に見て、適当な損害賠償ですますことが慣行となり、違法な経営に目を光らすべき会計監査役、顧問弁護士の役割も経営者の意向に沿って形骸化される。 その結果、組織内の被雇用者たちは、次第に違法意識も罪悪感も薄れ、世間に発覚しなければ儲け得と考えるようになる。 こうした企業内文化が一般社会に甚大な損害を与えた事案・事件として、企業活動に伴う大気汚染、水質汚濁。 健康を害する薬品や食品製造。 企業間の違法な談合、カルテルによる国費の損失、物価高騰。 政治献金名目の贈収賄。 脱税。 誇大広告と偽装表示の通信販売。 マルチ販売。 ヤミ金融など、企業犯罪は多岐にわたり、数々の深刻な問題を生んできた。 企業内での個人による業務上横領、背任、窃盗、詐欺などの不正ならば、気づきやすく、捜査の手が入りやすいが、組織的に行われる違法行為は、しばしば隠蔽され、発覚しても、せいぜい行政指導、行政処分を受けるだけに終わり、刑事事件に発展するまでには数年もかかり、政官財界を巻き込んだこれまでの大事件をみても、起訴され有罪判決を受けたのは組織の一部の人間で、それも実刑が科せられたことは極めて稀だった。 例えば、1988年に発覚したリクルート事件。 これはリクルート社の政治的地位を高めるため、90人以上の政官財界の大物に同系列会社の未公開株をばらまいたとされる贈収賄事件だが、元総理、現職総理など大物政治家は逮捕を免れ、起訴されたのは、収賄側では、当時の官房長官、事務次官、NTT会長ら、わずか12人(贈賄側は4人)だったし、一審裁判が決着するまでに13年以上かかり、これほどの大事件に関わらず、贈賄・収賄側いずれも執行猶予付きの懲役刑の判決が言い渡されたが、これを不服として、高裁、最高裁への上訴が続き、その間に市民の関心が薄れ、事件の発端となった企業は、当時の名を残したまま、いまも活動している。 なお、この事件の検察捜査費用は、人件費を除き、1億5千万円と法務省刑事局長が国会で答弁した。 これほど大規模な事件には発展しなかったが、最近、世間の耳目を集めた事件を上げると、米国から輸入された米にカビが見つかり、食用として販売禁止となった事故米82トンを無届けで食品業者へ転売した社長らによる食品衛生法違反事件(2010年)。 核兵器の開発に転用できる工作機械を無許可で韓国メーカーへ輸出した工作機械メーカーの外為法違反事件(2009年)。 牛肉産地を偽造した料理や客の残した手つかずの料理を別の客に出していた大阪の老舗高級料理店の不正競争防止法違反、食品衛生法違反事件(2008年)。 大手消費者金融の2年間の所得約150億円申告漏れによる追徴課税事件(2007年)。 県発注の水道整備工事の指名競争入札を巡る数社間の談合で、収賄側の県知事が逮捕された事件(2006年)。 自社の企業価値を大きく見せるため子会社株価の釣り上げを狙い粉飾決算を繰り返した有価証券取引法違反事件(2005年)など、企業犯罪は後を絶たない。 では、企業を支配する経営陣らによる企業犯罪と下流階層の人々に多い犯罪との違いは何だろうか。 後者の犯行は、単独犯か共犯者数は少なく、手口は単純で発覚、検挙されやすい。 検察での事件処理期間の大部分は2か月あまりで終わり、判決が確定するまでの時間は概して短く、懲役刑を受けると実刑になる割合は、平均約4割と高い。 その結果、受刑者統計に計上され、犯罪者は下流階層出身者、社会不適応者という誤った固定観念を世間に与えやすい。 これに対して、企業犯罪の場合、例えば、談合事件では、業界の商習慣か違法かが争われ、贈収賄事件では、政治献金か賄賂かなど、解釈を巡って合法・違法の境界が曖昧なことが多く、企業組織内に違法の認識が薄く、違法と認識しても、組織的に行われるので、証拠が隠滅され、多くは行政処分で終わる。 捜査の手が入っても起訴される人数は少なく、責任の所在も個人か法人かで解釈が分かれ、 刑事裁判段階になっても、事件の解釈を巡って疑義が出され、起訴内容がそのまま判決で認められることは少なく、有罪、無罪の判決が確定するまでには長時間を要し、有罪判決がでても、実刑を受けるのはまれだ。 従って、犯罪統計に計上される件数、人数は少なく、暗数化される部分が多い。 なお、企業犯罪に当てはまる犯罪の態様は、政界、官界の組織的犯罪にも当てはまることは言うまでもない。 ☆追記 94年に、早大の坂野友昭・商学部教授が、談合や贈収賄など企業犯罪を起こしやすい企業を調べるため、東証一部上場企業のうちから過去に企業犯罪に関わった企業と一回も関わらなかった企業、それぞれ50社を選び、比較調査した研究がある。 これによると、企業犯罪を起こしやすい企業は、強力なライバル社との激しい競争にさらされている企業。 役員の構成が同一大学出身者の割合が高い企業。 一度違法なことをした企業は再犯の可能性が高いことなどを上げている。
by dankkochiku
| 2011-02-21 23:58
| 非行・犯罪
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Comments(19)
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yamanteg at 2011-02-22 11:15
組織は自浄作用が働かなくなると腐っていくのですね。 内部にいると腐っていることに気づかない。 最近の検察による犯罪デッチあげは信じられないことでした。 過去にも隠れた冤罪事件がありそうで。 検察が今ひた隠しにしているのが、過去のおおざっぱなDNA鑑定で死刑判決を受け、死刑執行ずみのもの。 あな恐ろしや。
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tomahawk_attack
at 2011-02-22 14:29
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一口に「犯罪」って言っても・・・殺人とか、傷害とか、物理的に被害を与える刑事犯と、盗みや詐欺、誹謗中傷など、個々に損害を与える民事犯など・・・色々ですよね。。
それに対し、Dankkochikuさんの記事にも有りますが、 >業界の商習慣か違法かが争われ、贈収賄事件では、政治献金か賄賂かなど、解釈を巡って合法・違法の境界が曖昧なことが多い・・・・私が思うに、企業犯罪というのは、その時代、時代によって、色々解釈も違って来る為、・・・或る時代までは許されたことも、或る時代から犯罪にされる・・・つまり解釈一つで罪人にされたり、そうでなかったり、それだけ判断が微妙であり、難しいものだということです。。 取り分け、政治家が絡んで来ると・・・受託収賄を巡り、法律、プラス、道義的な部分も複雑に絡んで叩かれる訳ですが、・・・いわゆる「盗っ人」とは、私としては、分けて考えたいと思ってます。。(゚.゚)ノ
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dankkochiku at 2011-02-22 14:51
yamanteg さん 身障者の郵便割引制度を巡る厚労省元局長の冤罪事件は、大阪地検の一検事の証拠ねつ造だけで終わるかと思っていたのが特捜部の部長、副部長が組織を守るための証拠改竄事件に発展し、起訴事件の99.9%以上が有罪というこれまでの実績も怪しくなって来ました。
Ciao dankkochikuさん
結局上中流の経済界層の人々ってのは、犯罪においてもまだまだ保護されてるってことよね 犯罪は大小関わりなくいけないことだと思うけど、お金や地位があればそれなりに優秀な弁護士を雇え、そしてコネの力も使える。っと ホント、この世の中って理不尽だよねえ
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dankkochiku at 2011-02-22 20:31
tomahawk_attack さん 窃盗団、暴力団など反社会集団に加わりたいと思う市民はまずいませんが、憧れの一流大企業へ就職できた学生が、その企業が組織的な犯罪に手を染めていると知ったとき、企業の一員としてどう対応するでしょうか。 違法な経営方針に唯々諾々と従うか、上層部へ意見し、拒否された時、離職覚悟で内部告発にでるか、これこそが人間として価値が問われる瞬間だとおもいませんか。
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dankkochiku at 2011-02-22 20:53
Ciao junko さん 地獄の沙汰も金次第とは、認めなくても現実ですよね。金のない犯罪者は、刑務所で強制労働に服し、一方、財産家は損害賠償金、罰金、追徴金を直ぐ払って実刑を免れる、せいぜい、名誉を失うくらいでしょう。 刑事被告人の身分の時も、有罪確定後も会長の座に座り続けていた航空会社の社長がいましたね。
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tomahawk_attack
at 2011-02-22 23:11
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Dankkochikuさんの仰る意味は良く分かります、・・・ですが、例えば、或る一つの企業犯罪が裁かれているとして、・・・それが企業犯罪か否かを決める判断には、時々の時代背景により様々に変化するように思うのです。。
つまり判断の基準となるべき法律自体が、時代時代で様々に変わってゆく可能性があると考えています。。 将来に今の法律が緩和されるなどして、現在では犯罪と見なされている事柄であっても、その時代になれば、見なされなくなる・・・という場合も、十分起こり得ると考えるからです。。 例えば・・・企業などの経理処理にしても、税務当局から指摘を受けた時など、その指示には従うものの・・・「その決定を我々は認めた訳ではありませんよ!」・・・という意味で、税務当局との「見解の相違だった」と企業側が発表する場合が良くありますね。。 企業犯罪と言われるものの中には、見解により、時に、黒になったり、白になったり、或いは灰色になったりと・・・色んなケースがあるように思うのです。。
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tomahawk_attack
at 2011-02-22 23:12
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極端なことを言えば、善か悪かの判断は「紙一重」に近いのモノが多々あるように感じるのです。。
正に、時代時代の背景により、経営に対する考え方が、大きく変化する可能性を感じているところです。その意味で、いつの時代にも、或る種の不変的な、「殺し」とか、「傷害」とか、「盗み」とか、「詐欺」とか、誰が見ても犯罪と言えるものと、「企業犯罪」とを、十把一絡げにすべきではないのでは?・・という想いが私の中には有ります。。 とまぁ。先ほどのコメントは、そういう意味の事から出ているものでして、いずれにせよ。dankkochikuさんの高い正義感は私も良く分かっております。長々と、くどくなって済みませんです。。(^^ゞ
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dankkochiku at 2011-02-23 10:02
tomahawk_attack さん 法とは何かという難題をだしてきましたね。 この問題、このブログで何度も取り上げようと思いながら、あまりにも私の手に余る問題で、気に掛かりながら手を拱いてきました。 不完全ながら挑戦して見ようかなー。 その節は、ご助言を願います。
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yamanteg at 2011-02-26 20:24
「企業犯罪」のなかでも脱税事件(報道)は真に受けるわけにはいかないと感じることが多くなりました。
あの一流企業が何億円の脱税、所得隠し、というヤツです。 海外展開しているグローバル企業に多いようです。 法の線引きアイマイ(税務が追いつかない)。 当該企業は仕方なくいったん追徴税を払う。 精査のうえ異議申し立て、認められて税の返還を受ける。 税務当局は屁理屈こねてでも取れるものは取り異議申し立てなければ幸い、お手柄になるわけです。 企業も知恵(法対策)をつけてきて、「何でも当局の言いなり」は社会正義に反すると考えるようになってきたようです。 マスコミも当局の発表をそのまま報道するだけでは、存在意義が疑われかねません。
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dankkochiku at 2011-02-27 00:06
yamanteg さん 大手サラ金の贈与税の脱税と見込んで天晴れ取り立てた国税当局、一転して最高裁判決は国の敗訴。 加算税、延滞税、裁判中の利子までつけて2千億円の返還。 これは、イージス艦1隻の額とか。計画的な財産隠しと思いながらも、合法的とは、さすが大手サラ金と、陰ながら喝采を送る企業も多いのでは? それに引き換え、トーゴーサン、ピンのサラリーマン諸氏は歯ぎしりしていのかも。
dankkochikuさん、ほんにご無沙汰しておりました。
日本の企業犯罪数は世界的に見て、欧米と比較して多いんですかね。それとも少ないんですかね。
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yamanteg at 2011-02-28 20:25
dankkochiku さん。
日本のサラリーマンは今もっておとなしいですね。 日本人の象徴、典型でしょうか。 まあ、おとなしく勤めれば、ソコソコの引退生活は保障されていたわけですが。 これからの若者はそれすら保障されない事態になる。 若者よ親や政治に頼らず(親は死ぬんだぞ、政治は今やアテに出来ないんだぞ)自己防衛するしかない。
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dankkochiku at 2011-02-28 20:41
やっほう さん お久しぶりです。 前回はいつだったでしょうか。
企業犯罪が多いか、少ないかとのお尋ねですが、暗数が多く、検挙されるのは、氷山の一角といったところで、実態は不明です。
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dankkochiku at 2011-02-28 23:20
yamanteg さん かつては、年功序列と終身雇用制度のお陰で、会社のために営々として働きながら、結婚から家族の面倒も見てもらい、今風に言えば、ロハス的生き方もできましたが、現在では、正社員でも人員整理に怯え、内部告発も増え、労使ともども安閑としておれなくなりました。
一若者として「親や政治に頼らず」という認識はありません
国会予算を自国民に国債で買わせ、源泉徴収され、特別会計として使われる健康 保険や年金の掛け金支払いを強要される、掛け金は現在受給者に充当される これらの事実から「親や政治が若者に頼っている」という認識があります なので「自己防衛するしかない」という提言を誇張無く受け止めて実行するなら 、犯罪者になるしかありません。 この一若者の意見について異論があれば教えてください。
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dankkochiku at 2011-03-03 00:11
月夜の散歩 さん ご意見の趣旨がよく分かりませんが、私も、退職者のための年金積み立て料、医療・介護を受ける人たちなどへの社会保険料の支払いに負担を感じてきましたが、では、自分がその人たちの立場になったとき、体力も減り、無収入だったなら、困るだろうなと思うだけです。
つまり、犯罪による犠牲者がはっきりとわかっている場合と曖昧な場合とで、社会的制裁は、大きくも小さくもなる。リクルート事件の被告である、NTTの職員全体が顧客に対しての接客態度が良くはない。何故って、企業ぐるみなので怖くはないから、また、犯罪者としての自覚はないからではないだろうか。何時かは、その会社を辞める時がくのだが、一様に昔から接客態度は悪い。冷たい態度、辞めたければ辞めればいいではないかという態度が伝わってくる。完全な独占企業である。法律など何処吹く風、私は大企業なのよ、文句あるの?である。利用料も民営化されて、格段に上がった。足元を見られているからである。日本航空は、職員とその家族は利用料が無料である。かっつての国鉄もそうであった。これらは、時間と共に浄化されはしない。現在もそうである。まあ、家族割引はよいとして、あの大柄な態度はどこからくるのだろう。時間を短縮して、犯罪の構成を行為と登場人物だけで見てみると、整然としてくる。行為者は、先ず犯罪者としての自覚は無く、誰が被害者なのかが具体的には伝わってこない。被害者無き犯罪というのは、他にもある。歴史的に古くは、売春がある。取り締まっても切りがない。合法化するとどうなるか。企業が登場し、サービスは格段良くなり、差別化していくだろうし、個人経営者は立ち入る隙はなくなるだろう。企業はボロ儲けである。質もよくなるし、外国人の介入も考えられる。西欧、北欧がいい例だ。ヨーロッパは良かった、と訪れた日本人男性は口を揃える。いい条件のお会社に、いい職員が集まってくから、当然である。一般企業も同じことだ。被害者、証人がいないので、現行犯しか、検挙されない。若いうちに芽を摘む、というがとんでもない話である。大人になって、確信犯になるほうが、よほど罪ではないか。貧乏人は金持ちには逆らえないのである。その事を金持ちはよく知っている。
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dankkochiku at 2015-12-23 21:57
いけだ さん ご意見有難うございます。企業犯罪、ビジネス犯罪が発覚する件数こそ少ないものの、その犯罪の暗数は多く、たまたま内部告発で発覚する氷山の一角です。今年、横浜の集合住宅の傾斜問題をきっかけに旭化成建材への非難が集中しましたが、実は、他の多くの杭工事会社でも常態的にデータを改ざんしていたのが発覚しました。しかも不正が発覚しても、震度7クラスの地震では建物の安全性には問題ないと、開き直った発言を公然としています。不正を行った担当課長、現場長への刑事罰くらいで済ますことなく、違法企業への損害賠償、被害補償を確実に取ることがまず必要だと思います。
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