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日常的なことでも、自分ひとりでは物事が決められず、他人に助けを求めたがり、その人の言うことに従うかと思うと、別の話を聞けば、それに左右され、いったん決めたことでも、平気で変えてしまう人がいます。 その時の気分、状況で考えがコロコロと変わる 「あなたまかせの人」 で、なんとも頼りない人です。 はた目からは、行き当たりばったりの無責任な楽天家と思われますが、本人にとっては、自分で決めても、長続きできずに失敗することをよく知っており、他人に寄り添って世話を見てもらう方が安心なのです。 そして、もし望んだ結果が得られなくても、自分ひとりだけが責められずに、他人に責任を転嫁できる言い訳を残しておきたいのです。 この型の性格の人は、よい指導者のもとでは、勤勉で真面目な生活が続けられるのですが、指導者を失いますと、途端に頭が混乱します。 それまでの経験が役に立たず、そのときの環境次第で、安易な道を選んでしまい、永年の苦労も直ぐに水の泡になります。 決められたことも自分ひとりでは守れず、学校をサボり、無断欠勤し、約束を守ることができません。 他人から誘われるまま遊興生活に溺れ、薬物に依存し、生活が破綻し、立ち直ろうにもその仕方が分からず、生活に困り、窃盗、詐欺など手っ取り早い解決法を選び、累犯化するようになります。 累犯者の多い刑務所には、この種の受刑者が最も多いのですが、このような人の生活ぶりを診断マニュアルは、「依存性人格障害者」 の指標としています。 しかし、累入受刑者に限っては、一概にそうと診断するのには、ためらいを感じることがしばしばあります。 と言いますのも、服役生活自体が依存性人格の人にとって住みよい環境を提供しているだけでなく、そうではない性格の受刑者にも、依存的生活を覚えさせ、長い服役生活の間に、依存性人格者のように振舞う習慣をつけさせる働きをするからです。 服役中は、家族から隔離され、自由に外出もできない不便さはありますが、累入所者の多くは、もともと家庭が崩壊し、定職、定収もない不安定な生活を続け、外出を楽しめる生活をしてきていません。 妻子がいても、刑務所にいるかぎり、子供の養育を含め家族の扶養義務から解放されます。 根無し草のような生活をしてきて、失うもののない受刑者には体面を気にすることはありません。 食事は出されたもの以外は選べませんが、量質ともに栄養士の指導のもとで作られた3食が無料で目の前に運ばれてきます。 もちろん、生活するのに光熱水料、家賃は一切不要で、無一文で入所しても、見栄を気にしなければ、全く困りません。 作業をすれば、作業報奨金が月平均4千円ほどと桁外れに少ないものの、その代わり残業はなく、税金や社会保険料は一切支払っていません。 強制作業とはいえ、多少は本人の希望する仕事につけ、リストラ、就職難の心配はありません。 面会、運動、入浴、散髪、診療の時間は、社会にいた時とは違い、随時、作業時間中に行われます。 ぜいたくさえ言わなければ、全く労せずして衣食住の生活が保証され、クラブ活動、レクリエーションの時間もあります。 服役中は、刑務所独特の細かい規則に縛られ、常時監視され、画一的に扱われ、私生活のない毎日ですが、これらに逆らわず振舞っている限り、行状の良い受刑者と評価され、優遇が受けられ、仮釈放の希望もあります。 こうした、いわばギブ・アンド・テイクの生活に大部分の受刑者たちはしばらくすると馴れ、施設が決めた計画に黙って従う方が得策と気付き、順応する道を選ぶ人が増えてきます。 このことは、出所した受刑者のうち、規則違反で懲罰を受ける人が、4割あまりおりますが、そのうちの4割以上の人は1回以上は、懲罰を受けずに生活しているのを見ても分かります。 命令され、服従する生活に馴れ、言われるがまま、与えられるがまま、何も主張しない生活を続けていますと、やがて入所当時のバラエティ豊かな個性が消え、皆が依存性人格の受刑者に見えてきます。 自分のこと以外は無関心、自分のことでも無責任でいられるとなりますと、仲間との付き合いを控えてまでして更生しようと頑張る受刑者は例外で、多くは無気力な生活を送ります。 その方が、服役生活に順応しやすいのです。 このような姿は、精神医学で言う依存性人格障害者の日常生活そのものですが、そのような毎日を過ごすことが当たり障りなく服役生活を送る最適の方法となりますと、その生活ぶりだけを見て、診断するのは疑問です。 大部分の受刑者たちにとっては、彼らの言葉を借りますと、「バカになる」 のが一番要領のいい生き方をしているだけなのです。 こうして、最初に服役した当時は、何とかして更生しようと考えていた受刑者の中から、何割かの人が、2度目、3度目の服役生活へと脱落し、服役歴が10回、20回、30回以上という人が残ってきます。 服役回数が増えるほど社会適応力が下がり、犯罪が生活の一部になります。 こういう人にとっては、刑務所が安住の地となり、外の社会は仮の生活なのです。 ただ、本来の依存性人格者障害者の中には、その障害のほかに別の型の人格障害を併せ持つ危険な犯罪常習者がおりますから、依存性人格者だから重大な犯罪はしないとは決して言えません。 また、服役歴が多いから依存性人格者とも言えません。 平成16年にピストルを使って横浜と東京での連続j強盗殺人犯の64歳の男に死刑判決がでましたが、この男には10回の服役歴がありました。 打ち首の刑、棒打ちの刑、島流しの刑などに代わって、人道的であるとして、自由を剥奪する自由刑が明治以後、刑罰の主流になりましたが、同時に、社会復帰処遇が目的の刑務所では、「自由のないところに責任もない」 という難問も抱え込むことになったのです。 ★このブログは、05年10月11日付 「刑務所人間」 に加筆し、内容を一新したものです。
by dankkochiku
| 2007-05-31 23:32
| 刑務所を考える
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Comments(12)
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peoples-flag at 2005-10-11 10:02
先日は、つくったばかりの私のブログに来ていただきありがとうございました。実際に、受刑者にかかわるお仕事をしてきただけあって、刑務所のお話はリアルだと思います。
刑務所は本来、民主主義社会に復帰するための更正施設であるはずですが、日本では命令と統制に無条件に従う人間をつくるためだけの施設になっているように思います。残念ながら社会も「前科」者には冷たいですし、冤罪被害者の名誉回復もままならない現実があると思います。非常におもしろく読ませていただきました。
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書き込みありがとうございます。以下の様に追記しました。
そんなに難しい事では有りません。軽犯罪者は罰金納付をさせます。 納付しない者には車の運転免許等生活に支障の無い資格の剥奪で 重犯罪は禁固刑のみで毎日被害者の気持ちのレポート提出作業で 此れはかなり堪えます。他の受刑者と話も出来ず毎日がレポートでは 多重前科者には生活基盤が出来ていないので労働の義務付けを行い 労働その物の意義付けとコンプライアンスの道議付けを行います。 基本生活技術の習得と道徳概念を遵守徹底させます。(かなり長期) 正確に言うと受刑者の問題よりも法務関係省庁に問題があります。
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tomahawk_attack
at 2007-06-02 16:35
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dankkochikuさん。。また看守が捕まりましたね。。現在取調べ中との事ですが、今回は、金を貰って受刑者への便宜を引き受けたとされています。。。
「鼻薬を効かす」とでも云うのでしょうか?古典的な手法ですが、今なおあるようですね。以前、dankkochikuさんの記事にも有りましたが、情けが高じて、逆に「弱み」にされると?何時しか?「アリ地獄」の状態にされちゃうんでしょうね。安部譲二さんの「塀の中の懲りない面々」ではないですが、余程の注意が必要のようです。。。
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nino
at 2007-06-02 20:14
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はじめてこちらうかがわせていただきます。以前、矯正教育をテーマに論文を書きました。現在はまた大学に戻り、新たな分野で学んでおります。分野は異なるとはいえ、人間の立ち直りとは、人間の再生は可能であろうか、は一生のテーマです。
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dankkochiku at 2007-06-02 22:30
nino さん 少年関係のご専門ですか? 東京の方でしたなら、少年法研究会という名の学際的会合が毎月1回、国学院大で開いています。 きっと、ninoさんのテーマにピッタリの会です。
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dankkochiku at 2007-06-02 22:42
tomahawk-attack さん 相手はマルボーでしょうか、若手看守の月給ほどの札束に引っかかりましたね。 昔から繰り返される手口ですが、職務意識のとぼしさが、一生をふいにしました。
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at 2007-06-02 23:32
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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桜花
at 2007-06-03 23:31
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ある部内誌に寄稿した服役経験がある元議員、出所後は福祉施設に勤務しており、そこで出会った知的障害者の元受刑者が「今まで生きて、刑務所の生活が良かった、また戻りたい」と零したこと、自分を虐待する家族・苛める周囲の人から逃れて、管理されて指示されたことだけに従って暮らす刑務所が別天地と思えたのでしょう。
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dankkochiku at 2007-06-04 20:42
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桜花
at 2007-06-05 00:24
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定住先が無ければ「生活保護」を受けられない、累犯者で高齢や知的障害や精神障害の理由から保護施設への受け入れを拒否される、人件費の安い海外依存・元請からの徹底したコスト管理から厳しい経営を余儀なくされた協力雇用主の減少、保護司の高齢化、再犯者・累犯者の出所者で社会復帰を真剣に考える者にとって極寒の状況ばかりです。
仰るとおり、罪を犯した高齢者・知的障害者・精神障害者にとって、健康で文化的な最低限度の生活が営めるのは刑務所になってしまったかも知れません、もう刑務所は「国家公安の最後の砦」では無く、「国家福祉の最後の砦」かも知れません。 「私の手は厳しいけれども、私の心は愛に満ちている」、応報刑から自由刑への近代行刑の発祥地、オランダのアムステルダム女子刑務所の門頭刻字は有名無実になってしまったのでしょうか?
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dankkochiku at 2007-06-05 11:54
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桜花
at 2007-06-07 23:31
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同事件の犯人(70歳代)、「寒くて、腹が減り、刑務所に戻りたかった」と警察での取調べで供述しております、放火の累犯・高齢での服役と出所、国民年金などの社会保障もない状況、まさに刑務所が安住の地となり、娑婆は仮の生活となってしまったと思います。
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