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大正12年9月1日に発生したマグニチュード7.9の関東大地震は、日本史上、最大の被害をもたらした。 東京市15区の死者・行方不明者6万8千人、建物の全半焼・倒壊31万戸といわれている。 被害は天災だけではなかった。 交通途絶、電信・電話の不通、新聞発行停止など公式情報の不足と余震の続く中で市民の不安、疲労、食料不足が重なり、自然発生的に、口から口へとさまざまなデマが流れ、デマが新たなデマを呼び、地震に代わってデマが猛威をふるった。
地震発生から3時間ほど経過すると、「不逞朝鮮人来襲」 「社会主義者と朝鮮人が放火」 などの噂が流れ、翌日にはさらに尾ひれがつき、横浜、東京の全市に広がった。 デマを真に受け、各地で暴徒化した自警団や治安維持に当たる軍隊・警察までもが朝鮮人暴動のデマに惑わされ、朝鮮人への迫害、虐殺に加わった。 その犠牲者数は、6千人以上との説もあるが、正確には不明で、「東大吉野文庫 現代史資料6 関東大震災と朝鮮人」 には、東京と周辺6県と長野県での朝鮮人犠牲者数は、総計2613人と推計している。 この一方で、震災前から、社会主義者や工場労働者間で芽生えてきた労働組合運動の台頭を苦々しく思っていた陸軍や憲兵司令部は、朝鮮人暴動のデマは社会主義者たちの煽動によるものと検束に乗り出した。 9月3日、亀戸の工場労働組合、南葛労働会員の10人が理由も告げられず、亀戸警察署員に連行された。 そして、彼らはそのまま消息を絶った。 組合員たちは、亀戸署の中庭で習志野騎兵第13連隊により銃殺または銃剣で刺殺されたことが、たまたま留置中だった者の口から外部に漏れた。 警察は10月10日になって事件を公表したが、「戒厳令下の必要な措置」 として責任は不問に付された。 世に言う亀戸事件である。 このほか、9月16日夜には無政府主義者の大杉栄とその妻と6歳の甥が東京澁谷憲兵隊に連行され、絞殺された、いわゆる甘粕大尉事件が発生しており、亀戸では、更に、9月18日にも、総同盟の荷揚げ仕事の掲示を貼った南葛労働会員が検束され、拷問を受けた。 亀戸駅前から飲食店などが密集する猥雑な路地裏を抜けると、静かな住宅地の一角に山門が朱塗りの浄心寺がある。 赤門だから将軍家の娘が嫁いだ由緒ある寺院だろう。 ここには、関東大震災の最中に発生した忌まわしい亀戸事件の犠牲者10人を祀る供養塔が立っている。 供養塔の裏面には、1970年9月4日、亀戸虐殺事件建碑実行委員会によって、次のように書いてある。 「一九二三年(大正十二年)九月一日関東一帯を襲った大震災の混乱に乗じて天皇制警察国家権力は特高警察の手によって被災者救護に献身していた南葛飾の革命的労働者九名を逮捕、亀戸署に監禁し戒厳司令部直轄軍隊に命じて虐殺した。 惨殺の日時場所ならびに遺骸の所在は今なお不明である。 労働者の勝利を確信しつつ権力の蛮行に斃れた表記革命戦士が心血をそそいで解放の旗をひるがえしたこの地に建碑して犠牲者の南葛魂を永遠に記念する。」 石碑の台石には、川合義虎ほか8人の犠牲者氏名、年齢が彫られている。 その後、1993年に、新たに判明した亀戸事件犠牲者の1人の名前を別の石面に追加している。 この犠牲者計10人のうち、8人は20歳代前半の若者たちだった。 関東大震災は、天災には違いないが、これを機に、社会主義者や労働運動に対する弾圧、迫害が続き、我が国の民主主義の萌芽とされた大正デモクラシーの動きは、大正14年、社会主義運動の取り締まりを意図した治安維持法制定によってあっけなく挫折させられ、国外には侵略、国内では言論封殺とファシズムの道へ向かった政治的な人災でもあったのだ。
by dankkochiku
| 2010-05-01 22:16
| ぶらり、まち歩き
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Comments(6)
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cocomerita at 2010-05-02 20:58
Ciao dankkochikuさん
人間って汚いねえ、、 権力にあかせて、自分たちに都合の悪い人々をこうして排除していくのって、ほんとずるい。 やるせない気持ちでいっぱいになる。
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dankkochiku at 2010-05-02 22:54
Ciao cocomerita さん 当時と比べると、基本的人権と主権在民の政治が保障されてた戦後は天国のようです。しかし、権力者は、手を変え品を変え、自分に好都合な政策をとろうとすしますから油断大敵です。
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tomahawk_attack
at 2010-05-05 20:11
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官僚支配というか?・・国家権力の横暴姿勢は、今も昔も基本的に変わってないと思います。。
普段は・・猫のように穏やかに見せていて、その裏にはギラギラしたものを燃やし続け、イザとなったら・・本省丸出しにして赤ずきんを「ガブッ」と食べようとするオオカミに似ています。国民も賢くならないといけませんね。。\_(-_- 彡
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dankkochiku at 2010-05-06 20:13
力は正義なりと、権力志向の亡者たちは、次第に権力を乱用し、汚職にはまり、やがて、対立する権力に倒されるというのが弱肉強食の歴史のようです。
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yamanteg at 2010-05-07 10:52
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dankkochiku at 2010-05-08 10:18
横暴な軍部による日本暗黒時代の証人がまだたくさん生きているのに、神国日本の建国精神などと当時を懐古し、賛美する戦後生まれの尊王攘夷論者がいますから油断できません。
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